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ぴいちゃん日記  作者: 虹色
平穏な日々?
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運命の女性(ひと)?

「前に話してたライブのチケットがあるんだけど、一緒に行かない?」


佐々木さんに誘われた。

昼休み、廊下ですれ違いざまに「ちょっといい?」と言われて。


修学旅行委員の仕事で話すようになって、今でも会えばあいさつするし、ときどき話もする。

だけど、こんなふうに誘われるとは思ってなかったから驚いた。


『女の子に人気があるからだよ。』


ぴいちゃんの言葉を思い出す。

まあ、この程度の回数で人気があるって言うのかどうか疑問だけど。


「一緒にって、つまり、2人でってこと?」


一応、確認してみる。

早合点したらみっともないし。


佐々木さんは明るく笑う。


「そうだよ。要するに、デートの申し込みってこと。」


はきはきしてるなあ。

本当に気持ちのいい人だ。

でも。


「ごめん。そういうのは無理だよ。」


佐々木さんはがっかりした顔をした。少しだけ。


「やっぱり無理か。」


やっぱり?


「予想はしてたんだけど、もしかしたらって思って。」


予想してたって・・・。


結果がわかっててチャレンジするって、尊敬する。

っていうか、俺に、そこまでされる価値はあるのか?


「理由はぴいちゃんかな?」


うわ!

ここでぴいちゃんの話題?!

なんで?!

それより、断る理由を言わなくちゃいけないのか?


あれこれ考えて何も言えないままの俺の顔を見て、佐々木さんが笑う。


「京都のコンビニで会ったときになんとなくわかった。ぴいちゃんを見て、嬉しそうな顔をしたから。」


そんなにわかるほどだったのかな・・・。


「それに、ぴいちゃんのことを話してたとき、一度『ぴいちゃん』って言いかけて、『吉野』って言い直したときがあったでしょ? あれって、『ぴいちゃん』って呼んでるときがあるってことだよね?」


ああ。

目端が利く人は、ちゃんとお見通しなんだな。


「ぴいちゃんはわかってないみたいだね。」


「え?」


「藤野くんの気持ち。」


「あ。うん。」


「そうだよね。あの様子だと。」


そう言って、佐々木さんはぴいちゃんのことを思い出したんだろう。クスクスと笑った。


「ぴいちゃんは、男の子を好きになるとか、人ごとだと思ってるみたいだから。今まで男の子と話したことも少ないし、友達としての範囲も、友達と彼氏の違いも、よくわからないんだと思う。」


そうなのか?

たしかに初めての男の友達が2人とも、本当は友達以上を望んでるんだから、わからなくても当然か。




こんなふうに、いつもと違うことがあると、ぴいちゃんと話したくなる。

放課後、岡田と映司に先に行っててくれと言うと、映司が事情を察したのか、岡田を急かして出て行った。

帰る仕度をのろのろとしながら、前後に並んでいるぴいちゃんと俺の周りが空いたときを見計らって声をかけた。


「今日もバイト?」


ぴいちゃんが振り向く。


「あ、うん。そう。」


「もう行く?」


「ええと、今日は図書室に寄ってから・・・。」


「図書室まで、一緒に行ってもいい?」


玄関へは遠回りだけど。


ぴいちゃんがやさしく笑って俺を見る。

今日は困った顔をされなかった。


「いいよ。」


ぴいちゃんと一緒に歩く廊下は、いつもとは違って、ゆったりとした時間が流れている。

何も話をしなくても、満ち足りた気分。

少しして、ぴいちゃんが先に口を開いた。


「まどかさんから聞いたよ。」


「まどかさん?」


「あ、佐々木まどかさん。6時間目の体育で一緒だったの。」


なんて聞いたんだろう・・・?


「デートに誘ったけど、断られちゃったって言ってた。」


そう言うぴいちゃんは、おだやかな表情のまま。


「まどかさんは元気で、自分は大丈夫って言ってた。藤野くんにもそう言っておいてって。」


「そう。」


「藤野くんは大丈夫?」


「え?」


「断るのって、けっこうダメージがあるんじゃないかと思って。まどかさんもそれを心配して、あたしにあんなふうに言ったんだよ。藤野くんは相手の気持ちも考えて、落ち込んでしまいそうだから。」


そうか。

だから、ぴいちゃんと話したくなったんだ。


ぴいちゃんは俺のことを心配して(佐々木さんもだけど)、いつもの警戒を解いてくれたんだな。


「大丈夫。」


ぴいちゃんが一緒にいてくれるから。


彼女がちらりと俺を見上げる。

それからくすっと笑って言った。


「藤野くんは誰でも断っちゃうんだね。」


「誰でもって、たった2人だけど?」


「でも、2人ともいい人だよ?」


まあ、篠田をいい人と言うかどうかは微妙だ。

一般的には、人気があるのは確かだけど。


「まどかさんも、話してみて違うと思ったから?」


「うん。まあ、そうかな。」


「ふうん。」


ぴいちゃんがずっと遠くを見るような目をする。

それから、にこにこして俺を見た。


「まるで、運命の女性(ひと)を待ってるみたい。」


「運命の女性?」


「そうだよ。絶対にこの人! っていう感じの人。」


ああ。

それなら。


「たぶん、もう会ってるんじゃないかと思う。」


「え?! そうなの?」


そんなにびっくりした?

目がまん丸になってるよ。


「いつから?」


「いつって・・・。知り合ったのはしばらく前だけど。」


「会った瞬間に、“この人だ” ってわかった?」


興味津々だな。

そんなことを遠慮なく訊いてくるなんて、ぴいちゃんらしいというか・・・。


「会った瞬間にはわからなかったかな。なんとなく、気になってはいたけど。」


そもそも、存在に気付いたのが何日か経ってからだ。


「ふうん・・・。好きだって言わないの? その人に。」


言ったら、どうする?


「うん。そういうことには、まだ準備ができてないみたいだから。」


「そういうこと?」


「好きとか、嫌いとか・・・、まあ、そういうこと。」


「・・・準備ができてない・・・。」


ぴいちゃんは首をひねって考え込んでいる。

そんなところに真剣に悩む彼女は、本当にかわいい。

でも、いったい、どんなことを考えているんだろう?


「その人の準備ができるまで、待ってるってこと?」


「うん。」


「それまでは、みんな断っちゃうの?」


「まあ、たぶん、そういうことになるかな。」


「そうなんだ・・・。じゃあ、それまで、あたしはお友達でいいのかな?」


「準備ができるまで、で終わり?」


「だって、女子の友達がいるのを、その人が嫌がるかもしれないから。」


ああ、そういうこと。


「そうだね。そのときまで一番仲良しの友達でいいよ。」


そのあとは、友達じゃなくて、特別な人になってほしい。


図書室の前でぴいちゃんに「部活、頑張ってね」と言われて、軽く手を上げてうなずく。

そうだ。

急いで行かなくちゃ。








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