誰なんだ~!!
修学旅行から帰った翌日は休み。
部活も休みだから家でゴロゴロできる。
母親に命令されて、洗濯やら掃除やら、手伝いをいろいろやらされたけど。
(母親は、「これは将来のために必要な技術だ」と言う。)
手伝いをしながら、昨日、ぴいちゃんを迎えに来ていたのがどういう相手なのかと、ずっと考えている。
和久井は、ぴいちゃんには中学生と小学生の弟がいるはずだと言っていた。
でも、あれが中学生の弟?
たしかに、親しげな様子は家族っぽい雰囲気があったけど・・・。
やっぱり、彼氏とか・・・?
いや、ぴいちゃんを見ていると、そういう相手はいそうにない。
だいたい、男と話すこと自体が苦手そうじゃないか。
でも。
最近は、けっこう話してるかも。
夏休みに内田たちと一緒に宿題をやったし、修学旅行では野球部の連中とも一緒に行動した。バイトもしてる。
・・・バイト。
K高の運動部のあいだで有名だって聞いてる。文化祭にも、わざわざ来たくらいだし。
よく考えたら、電車で通学する間に知り合うってことだってあるよな?
今まで、学校の中のことしか考えてなかったけど、彼女には学校以外の世界もある。
ああ、もう!
ずっと見張ってるわけには行かないんだから、仕方ないじゃないか!
本人に訊いてみる?
でも、なんて?
単刀直入に、「誰?」って訊くのか?
知りたい理由を訊かれたら、何て言う?
それに、もし「彼氏」って答えられたら?
うわの空で手伝いをしていたら、夕食の味噌汁が超うす味になった。
よく考えたら、明日も明後日も、ぴいちゃんには会えない。
このまま3日間、あれこれ考えて過ごすのか?
それに、月曜に学校で会っても、彼女に尋ねることなんてできないような気がする。
明日は部活で岡田に会うけど、あいつに教えてもらうっていうのは悔しい。
やっぱり、電話してみようか・・・。
いや、電話よりもメールの方が、ごまかしやすいかな。
どっちにしても、何を口実にしたらいいのかわからない。
9時半。
ぴいちゃんに電話をかける。
どう話すかは、出たとこ勝負ってことにした。
10回のコールで彼女が出なかったら、今日はあきらめよう。
1回、2・・・。
『はい。ええと、吉野です。』
早い!
「あ、あの、こんばんは。」
『あ、こんばんは。何かありました?』
ぴいちゃんのほのぼのと明るい声を聞いて、少し落ち着いた。
「き・・・、昨日は無事に帰れたかと思って。」
よし!
とりあえず、電話の理由らしきものが出てきた。
『昨日? うん。弟が迎えに来てたから、荷物持ってもらえたし、無事に帰れたよ。』
弟?!
いきなり答えが返って来たよ!
電話してよかった!
『心配してくれて、ありがとう。』
心配っていっても、ちょっと意味が違うんだけど。
「弟さんがいるんだ? 東京まで迎えに来るなんて、仲がいいんだな。」
『仲がいいっていうほどじゃないと思うけど。藤野くんはご兄弟は・・・』
『あー! 姉ちゃんが男と電話してる! 兄ちゃーん! 姉ちゃんが!』
子どもの大きな声が遠ざかって行くのが聞こえる。ぴいちゃんの『こら!』という声も。
『ごめんなさい。ちょっと、弟が・・・』
という声のうしろからバタバタという音が近付いてきて、いきなり男の声がした。
『あんた、誰?』
近くでぴいちゃんが『真悟! 返してよ!』と叫んでいるのが聞こえる。携帯を取り上げたのか?
それにしても、ふてぶてしいヤツ。
ぴいちゃんの弟なのか? 昨日、迎えに来ていた?
上等だ。名乗ってやろうじゃないか。
「同じクラスの藤野だよ。お前こそ、誰だ?」
『真悟。陽菜子の弟。』
姉のことを呼び捨てか?
このやりとりの間も、ぴいちゃんの怒っている声が聞こえてくる。
『いいか。陽菜子のことは、俺と響希が守ってるんだ。気安く近付くな。』
ガツッという音と真悟の『いてっ』という声がした。
何か硬いもので頭を叩かれたな。
『もう! ごめん、藤野くん! 今度、ちゃんとお詫びします。今日はこれで失礼します。ホントにごめんなさい!』
『春になったら、待ってろよ!』
ぴいちゃんの必死の声の後ろから、真悟の宣戦布告(?)が聞こえて、電話が切れた。
・・・びっくりした。
ぴいちゃんの弟って、もしかして、ものすごいシスコンなのか?
「俺とヒビキが」って言ってたから、最初に聞こえた子どもらしい声の方がヒビキっていう名前なんだろう。
それにしても、春になったらっていうのが気になるけど・・・。
まあ、いいか。
要するに、弟なんだから。
ちょっと面倒かもしれないけど、弟は競争相手じゃない。
電話してみてよかった♪




