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ぴいちゃん日記  作者: 虹色
修学旅行に行こう!
57/99

修学旅行 3日目




修学旅行3日目は、バスで京都から大阪に移動しながら全体で動く。

班行動は休みで、昨日のことがある俺は、篠田と神谷から離れられてほっとしている。

4泊5日の真ん中の日で、昨日もおとといもよく歩いたから、バスで移動できるのは体も休められてちょうどよかった。

ただ、見学が終わるたびに、出発前の人数確認を修学旅行委員がやらなくちゃいけないのがちょっと面倒だけど。


この旅行中、修学旅行委員は夕食のあとに集まって、連絡事項や事故やけがの報告などをしている。

今のところは特別なことはなくて、全体的には平穏そのもの。

このまま終わってくれればいいな。


この日はバスの集合時間に遅れる生徒が何人か(その何人かが、いつも遅れる!)いたけど、それ以外には何事もなくホテルに着いた。




夕食までは1時間ほど。

一日バスに乗っていたから、なんとなく体が凝っている。

そういえば、旅行中は歩いてはいるけど、運動はしてないな。

ちょっと走りに行きたい気分・・・だけど、外出は制服が決まりだったっけ。

仕方ないから散歩にでも行くか。


岡田と映司に訊いたら、一緒に行くと言う。

映司は、今日は和久井とは約束しなかったらしい。

迷子にならないように、携帯のナビで地図を確認して外へ出る。

太陽がそろそろ沈み始める時間だった。


ホテルの近所を小さな川が流れていて、その川に沿ってのんびりと歩く。

地図には、この先にコンビニのしるしがあった。

部屋以外はいつも大勢で一緒にいるから、気心の知れた少人数で歩くのは解放感があってほっとする。

俺たちのほかにも、少人数で歩いている生徒がいた。




「あ、藤野くん。」


コンビニに入ったところで、女子の声。

奥を見ると、5組の修学旅行委員の佐々木さんだ。

ソフトボール部の部長で顔と名前は知っていたけど、修学旅行委員の集まりで話すようになった。

テキパキしていて、ものすごく頼りになる。

あごのあたりでそろえてある髪型が凛々しくて、運動も仕事もできる彼女に似合っているように思う。


もう一人の見覚えのある5組の女子と一緒に、ぴいちゃんと小暮もいる。

ラッキー♪

今日はぴいちゃんとはあんまり話してない。


「買い物?」


「そうなの。ちょっとデザートでも、と思って。」


佐々木さんのカゴの中にはプリンやロールケーキが入っていた。

これ、夜に食うのか?


「なっちゃんは? 一緒じゃないの?」


映司が横からぴいちゃんに尋ねる。


「ちょっと車酔いみたいで、部屋で休んでる。」


「え! お見舞いのメールしなくちゃ!」


はいはい。

しっかりやれよ。


「知り合いだったのか?」


ぴいちゃんと佐々木さんを見比べながら訊くと、佐々木さんが答えた。


「去年、同じクラスだもんねー。」


ニコニコしながら2人で顔を見合わせてうなずき合う。


「あれ? じゃあ、岡田も?」


「そうだもんねー。」


岡田が佐々木さんの真似をして、2人に首をかしげながらにこにこと笑いかける。

その様子がおかしくて、全員が笑い出した。




彼女たちは先に帰って行き、俺たちも、その何分かあとには店を出た。

外は、景色がオレンジがかって見えるほどの夕焼けだ。


さっきの川沿いを戻る。

まっすぐな道の先に、ぴいちゃんたち4人の紺の制服姿が見える。

立ち止まっている?


俺たちを待っていたのかも・・・なんて、都合のいい解釈をしながら足を速めると。


違う。

からまれてるんだ。


相手は4人連れで、あんまり背は高くない。中学生かもしれない。

でも、ガラは悪そう。

カツアゲか? ナンパか?

彼女たちはどうにか通り抜けようとしているけど、相手が笑いながら立ち塞がっている。


「逃げられそうか?」


映司に訊くと、


「あの腰パンじゃ、走れねえよ。」


と、そいつらを見ながら答えた。

俺たちは、部の顧問の先生から、からまれたときは絶対に逃げろと言われている。

ケンカになったりすると、試合に出られなくなることもあるからだ。


「よし。じゃあ、俺が右の2人な。」


岡田が張り切った声を出す。

それを合図に、ぴいちゃんたちに10メートルくらいまで近付いていた俺たちは走り出した。

そのままぴいちゃんたちの間に割り込んで、割り振った相手の手首をつかむ。


「走れ!」


それぞれがつかんだ相手にそう叫んで、引きずるように走り出す。前へ。

相手の4人組は、いきなり現れた相手が自分たちの方に走って来たので、驚いて、一瞬動きが止まった。

その隙間を、俺たちがぶつかりながら駆け抜ける。


女の子を引っぱりながらじゃ、全速力とはいかなかったけど、相手は早々に追いかけるのをあきらめたらしい。

後ろを確認して立ち止まると、岡田と映司はもっと後ろにいた。


「あれ?」


後ろを見ながら思わず出た言葉に、横で息を切らしていた佐々木さんが笑った。


「だいぶ速かったんじゃないかな。あたしもリレーの選手だから。」


そうなんだっけ?

女子のリレーは全然見てなかった。


ぴいちゃんたちを連れて、岡田と映司が追いついて来た。

小暮はちょっと脚を引きずっているようだ。ぴいちゃんの腕につかまって歩いている。


「怪我した?」


岡田に訊く。


「足首をひねったらしいな。」


「あ、でも、大丈夫。」


小暮は平気な顔をしようとしたけど、左足に体重がかけられない。

あの様子だと、歩いて戻るのはつらそうだ。

仕方ない。おぶって帰・・・。


「ほら。乗れよ。」


俺が動くより早く、岡田が小暮の前に背中を差し出した。


「痛いんだから、恥ずかしいとか言ってんじゃねえよ。」


小暮はぴいちゃんの顔を見て、ぴいちゃんにも「その方がいいよ。」と言われ、ようやく岡田におぶわれた。

岡田は軽々と歩き出す。


・・・かっこいいじゃないか。


こういうときに、迷わずにすぐ行動できる岡田を尊敬してしまう。

まあ、ぴいちゃんに手を出してしまうような失敗もあるけど。


俺はぴいちゃんに、ホテルに着いたら小暮と一緒にロビーにいるように伝え、保健の先生を探しに先に戻った。




先生と一緒にロビーに行くと、ちょうどぴいちゃんが小暮をソファに座らせているところだった。

岡田と映司はもう部屋に戻ったらしい。

5組の女子2人も、夕飯が近いから帰ってもらったと、ぴいちゃんが言った。


先生が小暮の足を調べたあと、とりあえず冷やして様子をみなさいと、湿布を何枚か渡して戻って行った。


小暮の部屋まで、今度は俺が彼女を支えて歩く。

急がなくても大丈夫だし、さすがにほかの生徒がたくさんいる場所で、おぶわれるのは嫌だと言われた。

たしかに、そうかも。


部屋に着いてみると、同室の青木は留守だったので、ぴいちゃんがそのまま付き添って残った。

自分の部屋に戻る途中、思い付いて、売店で氷を売っているか見に行ってみる。俺たちも捻挫をしたときは、氷や保冷剤で冷やすことがあるから。

氷を見つけてレジに行くと、ちょうど担任がいた。


「お、藤野か。氷なんて買って、まさか酒なんか持って来てるんじゃないだろうな?」


なんてこと言うんだ!


「小暮が捻挫したんで、冷やすのにいいかと思って。」


ちょっと憮然として答えると、担任が「そうかそうか」と笑う。


「わはは! さすがに藤野は酒を持ってきたりしないよな! よし。その氷は俺が買ってやろう!」


なんとなく偉そうにそう言うと、担任は氷の代金を払って、俺に差し出した。


「女子の部屋に入り浸るんじゃないぞ!」


だから、そういう勘ぐりはやめてくれよ!




氷を渡しに行くと、ぴいちゃんが出てきたので、ビニール袋に氷を入れて冷やすように話す。(断じて、部屋には入っていない!)

さっきの分も含めて丁寧にお礼を言われ、なんだか恥ずかしくなってしまった。


自分の部屋に戻ると、岡田と映司はすでにシャワーを浴び終わり、部屋着に着替えてくつろいでいた。


「いやー、面白かったなあ。」


映司が俺の顔を見て言う。


あ、やっぱりそう?

小暮が足を痛めてしまったのは気の毒だったけど、あのガラの悪い中学生を驚かせたのは気持ちがよかった。

それに、ちょっと走ったのも。


「岡田。お前、なんだかかっこよく見えたぞ。」


冗談めかして岡田を褒めたら、「当然だ。」と威張られた。

そして、ニヤニヤと笑いながら付け加える。


「実はさあ、俺、ぴいちゃんを連れて逃げるとき、手つないじゃった!」


嬉しそうに笑いながら、枕を抱えてベッドにころがる岡田。

ずいぶん余裕だったんだな・・・。


「この前のことで、懲りてないのか?」


あきれて言うと、岡田はまったく気にしない様子で答えた。


「だって、偶然だもーん。」


・・・そういうことにしておくか。





その日の修学旅行委員の集まりで、一応、夕方のことを報告した。

佐々木さんがその場で俺に礼を言い(いいのに。)、周りからひやかしのヤジが飛ぶ。

明日もこのホテルに泊まるから、朝食のときに、各クラスに注意を呼びかけることになった。


解散のあと、佐々木さんに呼びとめられて、もう一度、礼を言われた。


「もういいよ。」


恐縮する俺を笑って、それから


「小暮さんは大丈夫?」


と尋ねられた。


「とりあえず、冷やして様子を見てる。先生は捻挫だろうって。」


「そう。骨折じゃなくてよかった。」


廊下を歩きながら、佐々木さんが続ける。


「ぴいちゃんがクラスの男の子と普通に話すのって、初めて見た。なんか、成長したなあって思っちゃった。」


「そういえば、岡田も去年は話したことないって言ってたよ。」


「当然だよ! ぴいちゃん、岡田くんのことは特に恐かったみたいだもん。」


「恐かった?」


「うん。背が高いし、声が大きいし、遠慮なく何でも言うし。そもそも、あたしとなっちゃんがぴいちゃんと一緒にいるときは、男子と話すのはあたしたちの役目だったんだから。普通の男子でもそんな状態なのに、岡田くんとは絶対無理だったと思うよ。」


そんなに・・・。

ぴいちゃん、今年は頑張ってるな。


でも、ぴいちゃんと一緒にって・・・?


「佐々木さんて、ぴ・・・吉野と仲が良かったのか?」


「うん、そう。なっちゃんほどではなかったけど。なっちゃんも、ぴいちゃんも、個性的でおもしろいから、よく一緒に笑ってた。」


そうか。

確かに気が合いそうだな。

3人で笑っている様子が目に浮かぶ。




佐々木さんと別れて、一人で部屋に向かいながら考える。


ぴいちゃんは、いろんなことに向かって努力している。

岡田も、少しずつだけど大人になっている。


俺は?


ぴいちゃんのことを守りたいと思っているけど、それ以外に何か頑張ったり、成長したりしているんだろうか?



もしかしたら、岡田には勝てないかもしれない・・・。








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