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ぴいちゃん日記  作者: 虹色
修学旅行に行こう!
52/99

偶然、見たのは・・・。



修学旅行の出発を2日後に控えた金曜の昼休み、俺と岡田は探し物があって部室に向かっていた。


岡田がぴいちゃんとメールのやりとりをしていると知ったときは慌てたけど、よく考えたら、俺だって岡田が知らないところで彼女と話したりしている。それに、初めから岡田は、俺には遠慮しないって言ってたし。

だから、そのことについては何も言わなかった。どんなことをメールでやりとりしているのか気になるのは確かだけど。


部室は教室のある校舎から、体育館を越えた反対側にある。

普段は玄関で靴に履き替えて中庭から行くけど、今は面倒なので上履きのまま外に出てしまうつもりで、2階から体育館へ渡り、敷地の外側に面しているコンクリート製の外廊下を通って階段を下りた。


昼休みの部室棟は静かで、なんとなく声も小さめになる。別に後ろめたいことをしているわけではないんだけど。

探し物を見つけてそっとドアを閉める。

来た道を戻って外廊下を半分くらい来たところで、「吉野さん」と呼ぶ声が聞こえて、俺も岡田も立ち止まった。


「あ、小谷くん? 遅くなっちゃったかな?」


校舎の方から走ってくる足音と、ぴいちゃんの声がした。


小谷とぴいちゃん?

どうして、こんなところに・・・?


慌てて見回したけど、廊下の前後には誰もいない。


下か!

岡田と顔を見合わせて、コンクリートの手すりからそっとのぞいてみる。・・・足しか見えない。


「どうする?」


声を出さずに岡田に尋ねる。


「ここで確かめる。」


岡田も声を出さずに答える。

・・・当然だよな。


盗み聞きはしたくないけど、今回はそうも言っていられない。

俺たちはうなずき合って、足音を忍ばせて2人の真上あたりまで進む。手すりから少し顔を出すと、2人の声がどうにか聞こえる。

ちょうど、小谷がぴいちゃんに、修学旅行の最終日のユニバーサル・スタジオ・ジャパンを一緒にまわらないかと申し出たところだった。

岡田が恐い顔をする。たぶん、俺も。


「ごめんなさい。里緒と約束してるから。」


あれ? 和久井じゃなくて、小暮なのか?

それにしても、ぴいちゃんの声は、こういうときでもくっきりと気持ちよく響く。


「小暮さんだって、誰かから申し込みがあるかもしれないよ。そうしたら、吉野さん、一人になっちゃうのに。」


何を言ってるんだ、小谷!

ぴいちゃんには俺・・・と岡田がいるんだぞ!


ぴいちゃんはクスクス笑いながら言う。


「確かに里緒には申し込みがあるかもね。あんなにきれいなんだから。」


ぴいちゃんだってかわいいのに。そんなふうに言うなよ。


「でも、今はまだわからないし・・・。」


「じゃあ、もし小暮さんが誰かに申し込まれたってわかったら・・・。」


「あの・・・。」


「え?」


「誘ってくれたことはすごくありがたいけど、あたし、小谷くんとはご一緒できないと思う。ごめんなさい。」


お!


「・・・もしかして、岡田がいるからって思ってるの?」


「岡田くん?」


急に名前が出て、岡田が驚いている。


「別に岡田くんを当てにしているわけじゃないけど・・・。」


がっくりする岡田。

友達ならちょっとは当てにしてくれてもいいのにって、俺も思うよ。


「岡田みたいにうるさいだけのヤツより、俺の方が吉野さんには」


「小谷くん。」


小谷の言葉が終わらないうちに、きっぱりとしたぴいちゃんの声が聞こえた。


「岡田くんとあたしは、普通のお友達なだけだよ。それに、確かに声が大きいけど、親切でやさしい人だよ。あたしは助けてもらったこともあるし、あたしも何かのときにはお手伝いしたいと思ってる。だから、うるさいだけなんて言わないで。」


ああ。


深いため息が出た。

こういう人なんだ、ぴいちゃんは。


また「ごめんなさい。」と彼女の声がして、校舎に向かって走って行く足音。

俺たちもうなずきあって、急いで校舎へ向かう。

いつも控え目な彼女が、あれほどはっきりと小谷を非難するなんて。

きっと、すごい決心が必要だっただろうに。


俺たちは、ちょうど、ぴいちゃんが上履きに履き替えて廊下に出てきたところに間に合った。

彼女は俺たちを見てびっくりした顔をしてから、すぐに微笑んだ・・・と思ったら、涙がぽろりと・・・。緊張が解けて、安心したのかもしれない。

止まらない涙に自分でも驚いたらしくておろおろしているぴいちゃんに、ハンカチを貸そうと慌ててポケットを探す。

その俺の横から岡田がすっと前に出て、彼女の頭を片手で引き寄せた?!


何やってるんだ! こんなところで!


ぴいちゃんはびっくりして岡田の手を振り切ると、すぐ近くにある女子トイレに駆け込んでしまった。


「岡田!」


後ろから肩に手をかけて呼ぶと、岡田が呆然とした様子で振り向いた。


「どうしよう?」


どうしようって、お前・・・。


「なんだか感動して、思わず手が・・・。」


その気持ちはわかるような気がする。

だけど、こんなところで行動に移しちゃうのは、お前くらいだぞ!


「正直に言うしかないんじゃないか?」


「何を?」


「盗み聞きしてたこと。」


「そんな・・・。」


「じゃあ、それは飛ばして『好きだ』って言うか。」


これで岡田がOKされたら俺は馬鹿みたいだけど、この際、仕方ない。


「それはダメだ! まだ無理! ぴいちゃんは、俺のこと友達としか考えてない。絶対、断られるし、もう二度と普通に話してもらえなくなる!」


あ、じゃあ、俺と同じ?

そうか、よかった・・・、なんて、安心している場合じゃない。


それにしても、女子トイレをちらちらと見ながら小声で相談している俺たちって、どんなふうに見えてるんだろう?

どっちにしても、昼休みが終わりになれば、ぴいちゃんは出てこないといけないし、教室に戻れば小谷がいる。


「とにかく、お前に弁解するチャンスをやる。俺が一緒にいたら話しにくいだろうから、俺は教室に戻ってる。小谷の様子も見たいし。」


岡田はまだ落ち着かない様子ながら、こくこくとうなずいた。

俺は岡田をその場に残して、4階の教室へと急ぐ。


小谷が、ぴいちゃんと隣の席になってから、ときどき話しかけているのは知っていた。

打ち上げのときも話しているのを見たっけ。

休み時間には、俺や和久井も一緒に話していたこともあった。

育ちがよさそうで、“さわやかな好青年” を絵にかいたような、いいヤツなんだけど。


小谷の失敗は、岡田と自分を比べるようなことを言ったことだ。


自分を見てほしいときは、自分自身で勝負しなくちゃダメだ。

自分が相手にとってどれくらい価値があるのかは、誰かと比べるんじゃなくて、相手が評価するだけなんだから。

小谷はぴいちゃんに、自分のことをちゃんと伝えるべきだったんだ。

しかも、比べる相手を悪く言うっていうのは、他人の悪口を言わないぴいちゃんには、絶対にやっちゃいけないことだ。


それに!


俺や岡田が何か月かけてここまで来たと思ってるんだ?

それこそ、彼女のことをわかってない証拠だ。


だけど、競争相手の岡田に弁解のチャンスを与えるなんて、俺って、お人好し過ぎるかな?

それに、もし、小谷が話に出したのが岡田じゃなくて俺だったら、彼女は同じように言ってくれただろうか・・・?





4階に着くと、教室に向かう小谷が見えた。

玄関で会わなくてよかった。

あいつもぴいちゃんと顔を合わせにくくて、違うルートで戻って来たのかもしれない。


どうする?


小谷だって、多少は断られたショックもあるだろうけど、泣き出してしまったぴいちゃんを思うと、ひとこと言わないと気が済まない。

俺は小谷が教室に入る前に追いついて、肩に手をかけた。


「残念だったな。」


小声で言うと、小谷が怪訝そうな顔をして振り向いた。


「さっき、体育館のところを通ったら、偶然。」


みるみるうちに顔を赤くして、うろたえる小谷。

別に悪いことをしたわけじゃないだろうに。


「ふ、藤野だけ?」


「いや、岡田が一緒にいたけど。」


それを聞いて、小谷は頭を抱えた。


「岡田のことを出すつもりはなかったんだけど、つい。」


「まあ、岡田はちょっと恐い顔してたけどな。」


「・・・岡田は?」


小谷がびくびくとまわりを見回す。


「吉野のところに行った。吉野は岡田の気持ち、気付いてなかっただろう?」


「あ、ああ、そういえば。」


「吉野は警戒心が強いからな。あいつ、あれでもかなり慎重にやってきたのに、これでダメになったら怒り狂うぞ。」


岡田のあれが慎重かどうかはさておき、とりあえず小谷をおどかしておく。

そして、さらに声を低めてもうひとこと。


「岡田も俺も、あそこまで話せるようになるのに何か月もかかってるんだ。1週間や2週間でOKもらおうなんて、甘いんだよ。」


「え? 『俺も』って・・・。」


絶句する小谷の背中を軽くたたいて、先に教室に入る。

席に着きながらちらっと見ると、小谷ががっくりとため息をついていた。





5時間目の予鈴がなってから、岡田とぴいちゃんが後ろの入り口から戻って来た。

ぴいちゃんの顔は見えなかったけど、岡田を見たら、ニヤッと笑ってVサインを送って来た。


うまく言い訳ができたんだな。


と、思ったあと、違う考えが浮かぶ。



もしかして、告白してうまくいったとか?!








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