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ぴいちゃん日記  作者: 虹色
修学旅行に行こう!
48/99

なんとなく変。


月曜から後期の授業が始まり、それと同時に来年の選択科目決めと、進路の面談の話が出た。

俺は大学へ進学しようとは思っているけど、具体的にやりたいことはよくわからないでいる。

親は、できれば国公立にと言うけれど・・・。




席替えをした最初の授業で、俺とぴいちゃんは席を交換することになった。

月曜の1時間目の現国で、担任の授業だった。


「なんだ、吉野。見えないのか?」


授業時間が半分くらい過ぎたところで、先生がぴいちゃんに尋ねた。


「いえ! 大丈夫です!」


すぐ後ろから慌てた声が聞こえる。


「大丈夫じゃないだろう。ぴょこぴょこうっとうしいから、藤野と席を代わりなさい。」


え? 俺の名前が出た?


振り向くと、ぴいちゃんが両手を合わせて小さい声で「ごめん。」と言った。

どうやら、目が悪いとかじゃなくて、目の前に俺がいて(座高が高いとは思いたくない。)黒板が見えなかったらしい。


俺はいちばん前よりも2番目の方がいいから、別にまったく異論はない。それに、何よりもぴいちゃんの後ろだし。

みんなのクスクス笑いの中、2人で立ち上がって、ガタガタと机ごと交代する。

念のため、うしろの水内に、俺が前に来ても大丈夫かと訊いてみたら、平気だと言われてほっとした。これでまた、ぴいちゃんを見ていられる。


ところが。

ここは油断の出来ない席だった。

先生が、何かと言うと、俺に話を振ってくる。


いちばん前のぴいちゃんは死角になっているのか、めったに先生に話しかけられないし、居眠りをしていても気付かれない。

なのに俺は、しょっちゅう先生に


「なあ、藤野。」


とか、


「どう思う、藤野?」


とか、声をかけられる。

担任だけじゃない。

こんなことなら、いちばん前の席の方がよかったかも。



そして、もう一つ気になること。

それは、ぴいちゃんの態度。


授業中にちょっとわからないことを、ぴいちゃんに訊いてみることがある。

わからない問題とか、ぼんやりしてて先生の指示を聞きもらしたときとか。

小声でぴいちゃんを呼んで(もちろん今でも「ぴいちゃん」とは呼ばない)、訊いてみるのだ。隣よりも近いし、勉強では信頼できるし。

・・・本当は、話すきっかけがほしいだけかもしれないけど。


ところが!


俺が彼女に尋ねると、一応、教えてくれるんだけど、すぐに


「そうだよね?」


と言って、青木に振る。

すると青木が、


「うん、そうだよ。」


とか言いながら、今度は小暮に話を確認する。

で、小暮がそれを


「うん。間違いないよ。」


などと小さい声で言う。


つまり、俺から前のぴいちゃんへ、ぴいちゃんからその左の青木へ、青木からその後ろ(つまり俺の左隣)の小暮へと四角く話がパスされる。まるでサッカーみたいになっている。


休み時間にも2回くらい、似たようなことがあった。

ぴいちゃんのところに和久井が来て話していて、岡田と映司も俺のところに来ていたから、自然に5人で会話が成り立っていた。

そこで、俺がぴいちゃんに話しかけた話題を、小暮に振ったのだ。

ぴいちゃんはこっちを向いていて、俺の隣の小暮も視界に入っていたのは間違いないだろうけど、それまで小暮は青木や早川と別な話をしていたのに、だ。


なんなんだ?

女子って、みんなこうなのか?


俺だって、そんなにしょっちゅう話しかけてるわけじゃないけど、さすがに火曜、水曜と同じことが繰り返されたら変だなと思う。

もしかして、何かいたずらを仕掛けられているんだろうか?

確認したいけど、彼女は最近、青木たちと一緒にいることが多くて、俺は青木がちょっと苦手だ。

なんだか、モヤモヤと落ち着かない気分。




そんな気分の木曜の昼休み、修学旅行のパンフレットができたと言われて、高橋と一緒に取りに行った。

夏休み明けから原稿を委員が手分けして書き、印刷屋で製本されたものができあがってきたのだ。


印刷室で箱を開けてクラス分の冊数を数えていると、高橋が思い付いたように言った。


「藤野くんてさあ、舞ちゃんに『気になる人がいる』って言ったんでしょ? それって、口実?」


・・・びっくりした。

周りに誰もいないけど、いきなりそんなことを訊いてくるなんて。


だけど、高橋ならこういうのもあるかも、という気もする。

修学旅行委員の仕事をやっているときも、サバサバと何でも言うし、まわりの無駄話に気を取られないでズバッと核心を突く。まあ、ふざけるときりがなくて、何を考えてるのかわからないときも多いけど。

細面で少しつり目がちなところはちょっと狐っぽくて、それがショートカットの髪型とともに高橋の性格をよく表しているような気がしていた。でも、俺にとっては、女子の中では比較的話しやすい。


そうは言っても、やっぱりこの話題はいきなりだ。


「なんで?」


「藤野くんのそういうウワサ、全然聞こえてこないから。舞ちゃんは、藤野くんに彼女ができるまであきらめないって言ってるし。」


え?

そういえば、“返事は保留ってことに” って言われたっけ・・・。

でも、もういいのかと思ってた。


「口実じゃないよ。」


急いで言う。

口実じゃなかったし、今では “気になる” は過ぎている。


「やっぱりそうだよね。だけど、舞ちゃんはそれを信じてないらしくて、藤野くんに好きな人がいないなら、まだチャンスがあるんじゃないかと思ってるみたいだよ。」


・・・いや、無理だけど。


重ねたパンフレットをとんとんとそろえながら、高橋が続ける。


「あたしもね、藤野くんが好きな人って誰かなってずっと見てたけど、全然わからないし。舞ちゃんが口実だと思うのも無理ないよ。」


見てたって・・・なんだか見張られてたみたいで恐いな。

でも、気付いたヤツもいるけど・・・?


「そう?」


「藤野くんて、席替えすると、その近くの誰とでもしゃべるから。初めのころはぴい子と話してたけど、そのあとは彩香ちゃんたちと笑ってたし、今だって今日子や里緒とも話してるでしょ? なっちゃんと仲良さそうに見えたときもあったけど、なっちゃんは梶山くんとまとまっちゃったしね。」


そんなふうに見えるのか、俺って。


両手でパンフレットを抱えてドアを背中で押さえる俺の前を、同じようにパンフレットを持った高橋が通り抜ける。

廊下を並んで歩きながら、高橋は次々と観察の結果を披露する。


「夏休みが明けてから、ときどきなっちゃんとぴい子と一緒にいるときもあるけど、そういうときって必ず梶山くんか岡田くんがらみでしょ? ぴい子目当ての岡田くんを、暴走しないようになだめてるとか。」


岡田がぴいちゃんを気に入ってるのは誰の目にもあきらかで、それが俺の行動を見えにくくしているらしい。

ぴいちゃんから俺に話しかけてくることはないし、思い出してみると、教室でそれなりに話したことって、席が近かったときと、朝の1回だけか?

あとは夏休みだったかも。


「あたしは今は、ほかのクラスの女子じゃないかと思ってるんだよねー。」


窺うように俺の顔を見る高橋。


「俺が誰を気に入ってるのか、どうしても知らなくちゃならないわけ?」


わかったらどうするんだろう?


「そういうわけじゃないけど。」


高橋はニヤッと笑った。


「あたしはただ興味があるだけ。でも、舞ちゃんはちょっと思いつめてるかもね。修学旅行が近いし。」


「え?」


なんとなく背中がゾクッとした。


「うそ。大丈夫だよ。」


いや、大丈夫じゃない気がする・・・。


「篠田にちゃんと、口実じゃないって言っといてくれよ。」


「まあ、機会を見て言っとくけど。鳴海くんが舞ちゃんに気があるしね。」


そうか。

鳴海、がんばれ!


「高橋は、誰かいるのか?」


これ以上、追及されないうちにと話題を変えたい。


「あたし? いるよ。春に卒業した吹奏楽部の先輩。」


「へえ。」


「だから、あたしのことを好きになっても無駄だよ。」


それはないから、大丈夫。




教室に着いてパンフレットを配りながら、高橋の言ったことを考える。

中でも篠田が「思いつめてる」っていう言葉が気になった。

それに、自分の行動が観察されていたことも、ちょっと気持ちが悪い。


考えすぎかもしれないけど、ぴいちゃんと話しているところをクラスで見られていなかったのはよかったのかもしれない。

岡田があんなにはっきりと、彼女に付きまとっていることも。(岡田には悪いけど。)

あれほど気になった青木と小暮への話題のパスも。


さすがに篠田が、ぴいちゃんに何かするとは思えないけど・・・。


今までだって、ぴいちゃんには話しかける隙がないって感じたことが何度かあったのに、これでますます話しかけにくくなってしまった。

それに、“友達” って彼女は言うけど、相変わらず、彼女からは話しかけてくれない。俺が話しかけなくちゃ、接点がない。

メールとか電話だけじゃさびしいし。


「ありがとう。」


いきなりのぴいちゃんの声にドキッとする。

昼休みで置き去りにされている机に、考え込みながら、端からパンフレットを置いていたら、いつのまにかぴいちゃんの机まで来ていた。


彼女の控え目な笑顔にほっと癒されながら、ちょっとうなずいて、今日は俺の方が先に目をそらす。

周りの目が気になる・・・。


『2人でってことが問題なんだけど。』


ふと、夏休みにぴいちゃんに言われた言葉が浮かんだ。宿題を見せてほしいって頼んだときのことだ。

もしかして、こういうことなのか?


そう思ったら、急にいろいろなことを思い出した。


インフルエンザで学校を休んだあと、ノートを貸してくれって頼んだとき、すごく渋った。

『誰かほかに』って言われて。

あの7月の朝も、初めは不安そうにしていて、逃げてしまうんじゃないかと思った。

文化祭の初日、調理室で話していたときも、急に部活に行ってしまったのは篠田が来たあとだ。


だけど、図書館で偶然会ったときや、宿題の帰りに本屋に一緒に行ったときにはリラックスして話してくれた。

電話で話したときもだ。


警戒しているのか、誰かに遠慮しているのか。



・・・ってことは、つまり、だ。


教室以外で話しかければいいってことか。

みんなの前では、2人だけにならないようにすればいいんだな。

そうすれば、篠田のことを心配する必要もないし、簡単なことじゃないか!


だけど、ぴいちゃんは岡田にはすごく気を許しているような気がするけど。

体育祭のあと、平気で2人で帰ろうとしていたし・・・。

なんでだ?!








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