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ぴいちゃん日記  作者: 虹色
お祭りだ!
46/99

そんな質問?!

クラスの打ち上げは、駅前に11時50分に集合。

自転車の方が楽だけど、駐輪場に入れるのが面倒だから、歩いて行く。

9月の終わりとはいえ、暖かい日だったので、Gパンに白いTシャツ、その上にグレーの半袖シャツを羽織った。


俺が着いたのは集合時間より10分前。

水内と木村が先に来ているのが見える・・・けど、あと3人は誰だ?


水内は、ちょっとくるっと巻いた髪型がいつもと同じだからすぐにわかった。

赤っぽいチェックの短いスカートにベージュのセーターとリボン付きのワイシャツ姿は、よくある制服っぽい私服だ。もう一人も色違いの同じような服装。振り向いたのを見たら篠田だった。髪を下ろしていたからわからなかった。

Gジャンを着ている木村は男の中ではおしゃれで、いつも髪型をかっこよく決めている。


あとの2人はのうち1人は竹内か。

2人とも、ジーンズにチェックのシャツで、俺と同じようなラフな服装にちょっとほっとする。


・・・あれ?

チェックのシャツの背が低い方、あの髪型はぴいちゃんか?


近付いて、三つ編みの後ろ姿の横から回り込んで、顔をのぞき込む。


・・・やっぱりそうだ。

こんな、男の子みたいな服装をしてくるとは思わなかった!


胸元に文字が入った白いTシャツの上に、白地に紺のチェックの半袖シャツを羽織って、ブルージーンズとスニーカー。それだけだと本当に男の子みたいだけど、手に持った白いパーカーとグレーの小さいバッグで、すっきりと可愛らしく見える。


いきなり横から覗きこまれてびっくりしたらしい。ぴいちゃんが目を丸くして俺の顔を見ている。


「・・・藤野くん?」


それからちょっと困った顔をして、ずりずりと後ろに下がってしまった。


あれれ。

ちょっと近付き過ぎたかな?


「男にしては小さいなー、と思ったら、吉野か。」


冗談めかして言って、笑ってみせると、ぴいちゃんはほっとした顔をして笑った。

よかった。


木村は、凝ったデザインのベルトに、先のとがった茶色の革靴?

立ち姿も、まるでポーズをとっているようで、同じ年なのにこんなに自分と違うのかと感心した。


水内がリストにチェックして、木村が集金をしている。

集まった6人で冗談を言いながらみんなを待つ。

今日はクラスの36人のうち、33人が参加するそうだ。

うちのクラスって、意外にまとまってるんだな。


“6人で” と言っても、ぴいちゃんはこういう場では、自分からはしゃべらない。水内の隣で、みんなの話を聞きながら笑っている。

俺は次々とやってくるクラスメイトたちと話しながら、そんな彼女を視界の隅にずっととらえている。

本当は話したいけど、さっきみたいに困った顔をされてしまいそうな気がして、それができない・・・。


なんとなく、ぴいちゃんの私服は女の子らしい服装だと想像していた。

ちょっと長めのふわっとしたスカートとブラウスとか。

その予想がまるっきりはずれて驚いたけど、今日の男の子みたいな服装がかわいらしく似合っていて、ちょっと予想を裏切られたところもまた楽しい気がした。


「あれっ? ぴいちゃん?」


うしろから大きな声がして、岡田が大股でぴいちゃんに近づくと、自分がかぶってきた赤い野球帽をポンと彼女にかぶせた。


あ、かわいい・・・。


彼女の三つ編みと男の子っぽい服装に赤い帽子がよく似合って、ときどき大リーグの中継で見る、アメリカの野球好きの女の子みたいだった。


「あーっ! ぴい子、かわいーーーーー!」


甲高い声がして、横からぴいちゃんに飛びついたのは高橋だった。


「男の子のコスプレ?」


・・・高橋のコメントって、ちょっと変。


帽子を取りながら、笑って否定するぴいちゃん。


全員が集まったところでお店に移動。

学校とは違い、女子の服装が色とりどりで華やかだ。

いつもと違う雰囲気のクラスメイトに、みんなテンションが上がってる気がする。

男はそわそわしているし、女子はクスクス笑っている・・・みたいな。




会場の串揚げ屋は、串に差して衣を付けたものが何種類も中央のケースに用意してあって、それを取って来て、自分のテーブルで揚げながら食べ放題という店だった。

5、6人ずつ分かれて、6つのテーブル。

ぴいちゃんはさっさと和久井や青木たちと、1つのテーブルに座ってしまった。

俺は映司に呼ばれて座ったら、隣のテーブルのこっち側に篠田がいた。ちょっと緊張する・・・。


90分の時間制限と言われ、木村の音頭で乾杯してから、とにかく食べなくちゃとみんながケースに群がる。

普段、自分で料理をすることはないけど、こんなふうにみんなでやると、けっこうおもしろい。

他愛ないことで男女混じって笑いあって、すごくにぎやか。

いつのまにか、俺も篠田としゃべって笑っている。

緊張する必要はなかったんだと思って、ほっとした。


でも、ぴいちゃんとは話すタイミングが見つからなくて、ちょっとがっかりした。

テーブルは別々でも、真ん中のケースや飲み物のところで一緒になれる可能性があるのに。

事実、映司は和久井とそこで話していたし。

俺はそちら側に背中を向けて座っていたから、彼女が来るのを見計らって行くこともできない。

何度か彼女の声が聞こえて振り向くと、岡田だけじゃなく、ほかの男と話していることもあって、浴衣姿の効果が大きかったんじゃないかと心配になる。


90分はあっという間に過ぎた。

店を出たあと、半分以上はカラオケに行くと言う。

俺も誘われたけど、もう大勢で騒ぐのはいいかな、と思って断ったところに、映司が岡田と俺を呼びに来た。


「なっちゃんと吉野がパフェを食いに行くって言ってるけど、行く?」


映司!

なんて親切なんだ!

行くに決まってるじゃないか!


・・・だけど。

揚げものをあんなに食べたのに、また食べに行くのか?

しかも、食べ合わせ的にどうなんだ?

女の子の胃袋って、どうなっているんだろう?


カラオケ組は、いつの間にか信号を渡って移動していた。

それ以外のメンバーも、それぞれに散らばって歩いている。

カップルも2組あって、驚いた。みんな頑張ってるんだなあ・・・。


「今日子と竹内くんが付き合ってたなんて、知ってた?」


駅ビルの入り口で待っていたぴいちゃんたちのところに行くと、和久井が歩き去るカップルを見ながら、俺たちに尋ねる。

首を振る俺たちに、


「そうだよね。いつからだろう? でも、あんなに堂々としてるなんて、すごいよね。」


と感心しながら言う。

ぴいちゃんもうなずいている。


たしかに、青木と竹内は手をつないで、肩もくっつくほどに寄り添って歩いていた。

でも・・・。


「和久井と映司はどうなんだよ?」


岡田が遠慮なく訊く。

こういうストレートなところが、岡田の良さだと、いつも思う。


「あたしたちは、人前でベタベタしないもん。ねえ?」


首をかしげて、にっこりと映司に同意を求める和久井。

映司はそれを嬉しそうに見て、うなずいている。

そういうの、ベタベタしてるとは言わないのか?

まあ、俺たちが邪魔者気分にならなければOKってことなら、ぎりぎり大丈夫かもな。


それにしても、もうこの2人は決まりってことだな。岡田の質問に、何のためらいもなく答えるんだから。


そんなやりとりをにこにこと見ているぴいちゃん。

彼女は誰を選ぶんだろう・・・?





明るい店の中で、ぴいちゃんと和久井は大きなグラスに入ったパフェを満足そうに食べている。

俺と映司は控えめにしようと思ってチーズケーキを頼んだ。・・・けど、これが意外に重くて、半分までいかずにギブアップ気味。さっき、揚げものを食い過ぎていた。

岡田はぴいちゃんたちと同じようにパフェを頼んで、うまそうに食べ続けている。


「・・・ちょっと、訊いてもいいかな?」


ふと話題が途切れたとき、ぴいちゃんが遠慮がちに、俺に話しかけてきた。

またおかしな想像をしているんじゃないかと、一瞬、警戒しながら「何?」と答える。

でも、彼女は笑いをこらえている様子はなく、大真面目。


「あのね、藤野くんの好きなタイプって、どんな人?」


はい?

それを訊きますか?

今、ここで?

そんなに真面目な顔で?


あきれてぴいちゃんの顔を見つめる俺の周りでは、和久井と映司が笑いをこらえて顔をそむけ、岡田は金縛りにあったようにぴいちゃんを見つめている。


「えーと、どうして?」


何て答えたらいいのか考えながら、時間稼ぎに尋ねてみる。


「うん、ちょっと。」


それだけ?


和久井は声を出さずに笑って、もう涙目になっている。

理由を知っているんだったら教えろよ!


映司も岡田も助け船を出してくれない。

この様子じゃ、何か言わないとぴいちゃんは満足してくれそうにないかな。でも、下手なことを言うと、また妙な解釈をするかもしれないし。

何て言えば・・・?


ぴいちゃんの特徴を言うべきか?


いや。

そんなことを言っても本人は気付かないで、俺が岡田と映司の笑い物になるのがオチだ。


「特に好きなタイプとか、考えたことはないけど・・・。」


ちょっと様子を見る。

それを聞いて、考え込む様子をするぴいちゃん。


「じゃあ、・・・どうして舞ちゃんを断ったの?」


そう来たか!

話す態度は控え目ではあるけど、はっきり言うなあ。

ぴいちゃんって、こういうところもあるのか。


でも、興味本位とか、俺を責めてるとか、そういうことではないらしい。

彼女なりに、何か理由があるんだろう。

できれば、俺に興味があるからっていうのがいいけど、こんなふうに、みんなの前で訊くってことは、きっと違うんだな。

だけど、ここは俺も、真面目に答えた方がよさそうか?


「何度か話してみて、なんとなく違うなって思ったから・・・かな。」


「そうなんだ・・・。」


全員が見守る中で、彼女は真剣な顔で考え込む。


「じゃあ、そういうことって、話してみないとわからないってことだね?」


あ、それなりに納得した?


「ごめんね。急に変なこと訊いちゃって。」


にっこりと微笑んで、ぴいちゃんは何事もなかったように、元気に残りのパフェを食べ始めた。

それを見て緊張を解いた岡田が、軽い口調で言う。


「ねえねえ。俺には訊いてくれないの?」


「あ、ごめん。岡田くんは、どんなタイプの人が好きなの?」


ぴいちゃんが楽しげに尋ねる。


「もちろん、ぴいちゃんに決まってるじゃん!」


・・・やっぱり、言うんだ。

どうする、ぴいちゃん?


「本当? ありがとう。岡田くんなら、そう言ってくれると思ってた。」


あははは、と笑いながら、ぴいちゃんは軽く受け流してしまった。

彼女にとって、岡田は今のところ、冗談を言ってばっかりいる楽しい友人ってこと・・・だよな?

それとも、わかってて、わざと冗談として受け取っているんだろうか・・・。

いや。

やっぱりぴいちゃんは俺たちのことを、お互いに仲良しの友達だと思っているんだろうな。


「食べかけだけど、これも食べる?」


満足そうに自分の分を食べ終えた彼女の様子がおもしろくて言ってみたら、


「いいの?」


と、嬉しそうな顔をした。

・・・腹をこわさないようにね。








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