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ぴいちゃん日記  作者: 虹色
お祭りだ!
41/99

写真ににっこり。



昨日までの文化祭の騒ぎを引きずったまま、今日の体育祭に突入。


各チームの団旗担当は、朝早くから校庭に出て、2本の棒に結んだ団旗を応援席に立てている。

きっと、あの中にぴいちゃんもいるはずだ。

うちのチームの旗には、若武者を乗せた馬が、桜吹雪の散る野原を疾走している絵が描かれていた。


荷物を置きに教室に行くと、先に来ていた岡田が、俺の顔を見るなり襲いかかって来た!


「藤野〜! おまえ、何てことを〜!!!」


岡田に首を絞められそうになり、あわてて廊下に出たところで、ちょうどやってきた映司の後ろに回る。


俺が何をしたって言うんだ!


映司が岡田をなだめながら、とりあえず廊下の隅に寄る。

岡田は俺を睨みながら、小声でわけを話し始めた。


「さっき、3組の前川から『ぴいちゃんが浴衣で店に出たんだって?』って訊かれて、」


あ、前川?

嫌な予感。


「逆に、『なんで、ぴいちゃんって呼んでるんだ?』って訊いたら、夏休みに宿題を一緒にやったって話で。」


あー、やっぱり。


「なんで、前川と吉野が一緒に宿題をやるんだよ? そういう関係なの?」


映司、“ そういう関係 ” なんてさらっと言うなよ。

事実じゃなくても、なんか嫌だ。


「違う! そもそも宿題を写させてくれって頼んだのは、藤野だったって。」


映司が驚いた顔をして振り返った。


「ぴいちゃんは渋ってたけど、その場にいた連中も一緒に頼み込んで、2日間、一緒に宿題やったって聞いたぞ!」


「2日間って言っても、1日2時間くらいで・・・。」


「時間の問題じゃないだろ! なんで、ほかの男の前に、ぴいちゃんを出すんだよ!? そういうの、苦手そうじゃないか!」


あのことは、ぴいちゃんには本当に悪かったと思ってるから、強く言い返せない。

一応、俺が盾になってあげたつもりではあるけど・・・反省してるよ。


「しかも、俺には一言もなく!」


岡田に断るようなことじゃないだろう?

それに、お前だって、夏休み中に “ まめに努力 ” してたんじゃないのか?


「おはよう。映司くん。」


和久井がにこやかに手を振りながらやってきた。

うーん。

この2人はすでにこんなに仲良しか・・・。


「藤野くんと岡田くんに、これ。」


和久井が俺たちに封筒を渡してくれた。


「昨日の写真。」


もう?

やった!


そそくさとお礼を言って、俺も岡田もさっそく封筒を開ける。

・・・と。

1枚じゃない。


最初の写真には、クラスの看板の前でにこやかに笑っている俺と岡田の間で、少しふくれっ面をしているぴいちゃん。俺たちと彼女の表情のギャップが可笑しい。

2枚目には、笑いだした彼女と、それを両側から驚いた顔をして見ている俺と岡田。

3枚目は3人で大笑いしているところ。


連写してた?


あのとき、ぴいちゃんはまだ、だまされて店に出されたことで機嫌が悪くて、写真を撮るような気分じゃなかったようだった。

けど、不機嫌な顔をしようとして、すぐに自分で吹き出してしまったのだ。


あと1枚ある・・・。


その写真は、空の器をお盆に載せて運ぶぴいちゃんをななめ前から写してあった。

前の方にいる誰かと話しているところらしい。自然な笑顔がこぼれている。店を閉めたあとだろうか。

見ている俺も、思わず笑顔になる。


「にやにやするなよ。」


映司に指摘されて我に返り、和久井にお礼を言う。

プリント代を払うと言うと、あとでジュースでもおごってくれと言われた。

こんなにいい写真ばっかりだと、ジュースもペットボトル1本じゃ悪いかも・・・。





体育祭が始まると、出番があってもなくても、生徒はみんな忙しい。

トラックの周囲の応援席は立ち見で、1年から3年までの全員が、応援したり、メンバーの確認をしたり、鉢巻きやゼッケンを配ったりしている。

ぴいちゃんは天文部の長谷川と一緒にいるところを何度か見かけたけど、話すチャンスはなかった。


うちの学校は全員参加の種目として、男子は騎馬戦、女子は綱取り(真ん中に置かれた何本かの綱を取りあう)と決まっている。

高校生の騎馬戦は騎馬どうしがぶつかったりして激しい戦いになるのはもちろんだけど、去年、女子の綱取りがそれにも劣らぬ迫力で驚いた。短い綱を早い者勝ちで取りあううちに、引きずられて怪我をする生徒もいる。それでも笑って戻ってきたりするところがすごい。

男女とも午前中に予選、午後に決勝戦がある。

ただ、全員参加といっても、リレーの選手は怪我をすると困るので、これには出られない。


ぴいちゃんも綱取りに出ているみたいだったけど、どこにいるのかわからないうちに、うちのチームは負けてしまった。

ばらばらと戻って来た女子の中に彼女を見つけて声をかけたら、「踏まれちゃった。」と笑ってる。

驚いた俺に、背中にくっきりと靴あとが2つもついた体操服を見せてくれた。

大混乱のフィールドで転んでいるぴいちゃんが目に浮かんで、思わず笑いそうになった。・・・怪我しなくてよかったね。


その代わりと言っては何だけど、騎馬戦では岡田が持ち前の大きな体と声でフィールド内を縦横無尽に駆け回り、自分の青チームを決勝へと導いた。



騎馬戦や綱取りなどの大きな種目の間に、100m走や借り物競走をはさんで、盛り上がりのうちに午前中のスケジュールが終了。

午後は応援合戦から始まる。



昼食のあと、応援合戦の集合場所に行くと、ぴいちゃんは先に来て、浴衣の準備をしていた。ほかの3人もすでに来ている。

俺が近付くと、ぴいちゃんが気付いてこっちを見て・・・また、横を向いてしまった。

笑ってるな。

先週、浴衣姿は十分に見たじゃないか!

そりゃあ、今日はさらにかつらを被ることになってるけどさ!


今日は誰も文句を言わずに、お互いに手伝いながら、ぴいちゃんに浴衣を着せてもらう。

俺はリハーサルで慣れたつもりだったし、もう彼女に腕を回されることもなかったけど、浴衣越しに彼女に触れられるだけで、その度にドキッとして冷静でいられなくなって困った。

それにしても、ぴいちゃんはなんでこんなに笑いをこらえているんだろう?

こらえているのがバレバレなところが、なんとなくかわいいけど。


かつらは2本のおさげ髪とおかっぱの2種類で、俺にはおさげ髪の方が回って来た。

2年と3年の女装チームができあがったところで、応援担当の先輩がカメラを持ってやって来て、ぴいちゃんと3年の宮古先輩も一緒に記念撮影。

浴衣姿の俺たちは半分やけくそで、みんなで一緒に笑顔でVサイン。

女装は嬉しくないけど、ぴいちゃんと一緒に写った写真がもう一枚増えた。




うちのチームの出番は3番目。

1番目の赤チームも、2番目の黄色チームも、登場するごとに笑い声や口笛が響く。周りで控えている集団も、女子は華やかだけど、男はたいてい笑える衣装を着ている。どこのチームも似たり寄ったりだとわかってほっとした。

合図と一緒に俺たち浴衣組が登場すると、やっぱり笑い声が上がったけど、逆にそれで吹っ切れて、寸劇は大爆笑のうちに終えることができた。


女子のくのいち集団と入れ替わりに俺たちは退場。

ちょっとハイになって、お互いに「お前のセリフが」とか「かつらが似合いすぎ!」とか言いながら大笑いしていたら、いきなり抱きつかれた!


「すごくよかったよ!!」


女子?!

誰?!

ぴいちゃん?・・・は、2、3m前で、目をまん丸にしてこっちを見ている。


誰ーーーー?!


その人は俺たちを次々と抱き締めながら褒めてくれている。

俺たちの指導をしていた宮古先輩だった。感極まって泣いている。

一生懸命だったのは知ってるけど、ぴいちゃんの前で抱きつかないでほしかった・・・。








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