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ぴいちゃん日記  作者: 虹色
楽しい夏休み?
28/99

一緒に勉強しよう。



日にちが過ぎるのは速く、夏休みは今日を含めて残り4日になってしまった。

ぴいちゃんと図書館で会った翌日から地区予選が始まって、忙しかったのは事実。(試合の成績はあんまり良くなかった。)でも、本当は、宿題はもっと前から始めておけばよかったはずなんだよな・・・。


宿題は、合間を見つけてやっても残りが減らなくて、もう、部活に出る時間も惜しいような気分。ひたすら焦っている。まあ、集中力の問題でもあるんだけど。

しかも、今日から3日間、リレーの合同練習がある。リレーは俺一人のものじゃないから、休むわけにはいかない。ほかのチームも来て、陸上部の指導で練習するのだ。体育祭のリレーは、それくらい各チームにとって重要な種目なんだ。

午前中に部活、午後は1時から3時までリレーの練習、というスケジュールが3日間続く。


野球部でリレーに出るメンバーと一緒に弁当を食べて休んでいると、1時少し前にぴいちゃんがやって来たのが見えた。

今日はこれからなのか・・・。




午後3時。

今日の練習は終了。


暑さと慣れない練習に疲れきって、校舎の影に入って、みんなで横たわる。

軽い足音がしたな、と思ってそっちを見たら、ぴいちゃんが回れ右をして迂回して行くところだった。

いかにも彼女らしい行動。

通るくらいの場所は空いているけど、男が何人も寝転んでいるそばを通るのは、彼女には無理だよな・・・。

そのまま横たわっていると、だんだん眠くなってくる。


「宿題!!」


いきなり誰かが叫んで起き上がり、その一言で、みんなも慌てて起き上がる。事情はみんな同じだ。

バラバラと立ち上がり、それぞれ着替えに動き出す。俺も、ぐずぐずしていられない。本当に終わらないかもしれない。

着替えて5人で話しながら自転車置き場へ向かっていたら、ぴいちゃんがそっちからやって来た。手にコンビニの袋を提げている。

俺たちに気付いて、一瞬、立ち止まったけど、覚悟を決めた顔でそのまま歩いて来た。さすがに、あからさまに逃げる態度はとれなかったんだろう。


「買い出し?」


すれ違いざまに声をかけると、ちらりと俺を見て「うん。」と言ってから、「お疲れさま。」と小さい声が聞こえた。

やった!

こんなちょっとだけのことが、すごくうれしい。


そのいきおいで、その場で浮かんだ思いつきに、よく考えないで飛びついてしまった。


「あの、ぴ、・・・吉野。」


振り向いて呼びかけると、半分走り出しかけていたぴいちゃんが、不審そうに振り向いた。

やっぱり、ほかのヤツの前で「ぴいちゃん」とは呼べない。

急いで2、3歩近付いて話しかける。


「宿題、どのくらい終わった?」


その質問に警戒心をあらわにする彼女。


「あと、日本史のプリントで終わりだけど・・・。」


「頼む!英語と古文だけでいいから、写させて!」


手を合わせて頼み込む俺を見て、“やっぱり” と “困った” の混ざったような顔をする。

後ろでは、一緒にいた連中が成り行きを見守っているのを感じる。


「・・・写すって言ったって、持って帰られちゃったら、ちょっと心配なんだけど・・・。」


「じゃあ、吉野が学校に来る時間に合わせるから。明日の予定は?」


「・・・午前中は体育祭の準備で、午後は図書室に・・・。」


「図書室?」


「そこで日本史のプリントをやろうかと・・・。」


「何時までいるの?」


「う・・・5時くらいまで・・・かな。」


「じゃあ、3時から吉野が帰るまで。その間に写すから。頼む!」


「だ、だけど、藤野くん、成績いいよね?自分でやった方が・・・。」


「もう時間がないし、一人じゃ絶対無理!それに、時間がないのは体育祭でチームが勝つためなんだぞ!個人的な理由じゃないんだ。」


今までサボっていたことは、都合よく忘れた!

あくまでも食い下がる俺に、ぴいちゃんはものすごく言いにくそうに言った。


「・・・・・。藤野くんと2人でってところが問題なんだけど・・・。」



それが問題?!

ぴいちゃん、ものすごく困った顔してるよ。

もしかして、嫌われてるのか・・・?


「じゃあ、じゃあ、俺たちも一緒ならいい?!」


後ろで見ていた連中が、ぴいちゃんの周りに集まる。

彼女はびっくりして、一歩後ろに下がった。


「みんなでやれば、解らないところを教えてあげられるかも知れないし。」


「俺たちも、予定は藤野と一緒だから。」


「俺たちがいれば、藤野のことも恐くないし。」


「同じN中出身だろ?」


調子のいい男どもに囲まれて、ぴいちゃんはおろおろしている。

それより、俺って、恐がられて、嫌われてるのか?

ものすごくショックなんだけど・・・。


「ぴいちゃーん!」


頭の上から女子の声がした。上を向くと、天文部の長谷川が校舎の窓から顔を出している。


「ごめん。今、行くから。」


ぴいちゃんはよく通る声で返事をした。


「「「ぴいちゃん、頼む!!」」」


男どもの声が重なり、ぴいちゃんはあきらめた顔をしてため息をついた。


・・・・・ごめん。







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