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ぴいちゃん日記  作者: 虹色
楽しい夏休み?
26/99

久しぶり。



いつの間にかお盆が過ぎて、夏休みが残り8日になっていた。


部活の地区予選が始まることもあって、練習にかこつけて、宿題はあんまりやってない。

もうちょっとすると、体育祭の重要種目であるリレーの練習が組まれていたことも思い出した。

学校開始は8月29日。

宿題の提出もこの日。早く始めないと・・・。


部活は試合や練習が毎日あるけど、顧問も部員の行動はお見通しらしく、この時期はだいたい半日だけが多い。


今日は午前中が部活で、帰り支度をしていると、サッカー部の結城と木村がやって来た。

夏休み中、何度か顔は合わせていたけど、お互いにちょっとあいさつをするだけだった。

わざわざこっちに来るってことは、何か用事があるんだな。


「修学旅行の下調べのことだけど。」


うわ。それもあったっけ。忘れてた。

映司と岡田の顔を見ると、2人ともやっぱり忘れていたようだ。


「全員で集まる時間もなさそうだし、手分けしてやるってことでもいいか?それでよければ、今日、チア部と練習が重なってるから、あとで向こうと相談して分担を決めちゃうけど。夜にメールで結果を知らせるよ。」


もちろん!

篠田のことがあるから、俺はあんまりチア部と関わりたくない。


「あと、高橋には神谷か誰かが連絡できると思うんだけど、和久井と吉野はそっちでできそう?」


「ああ、大丈夫。」


映司が嬉々として答える。

連絡する用事が出来て嬉しいんだ。


「ぴいちゃんには俺から知らせるからな。」


岡田が俺に、小声で言った。彼女には和久井から連絡が回ると思うけど。


K高に行ったとき以来、ぴいちゃんには会ってない。

ときどきメールをしてみようかと思ったけど、用もないのにメールして、彼女に警戒されたら・・・と思うと、それもできなかった。

ふとしたときに、学校でぶつかりそうになったときの髪をほどいた彼女の姿が目に浮かんでくる。それと一緒に、あのときの驚きもよみがえって、いつもドキッとしてしまう。

・・・会って、話したいな。





夜、映司から電話が来た。


『ルートを組むのはチア部と高橋がやるから、その前に、結城たちと、俺たちと、和久井と吉野が観光スポットのリストアップをするってことになったってさ。』


「いつまで?」


『学校初日にリストを持って行けばいいって。結城たちが京都、俺たちが大阪、和久井たちが奈良だって。」


「ふうん。わかった。」


『じゃあ、よろしく。』


「え?何を?」


『調べ物。』


「俺が?一人で?」


『だって、お前、修学旅行委員だろ?』


「そんなの、今、関係ねーよ!」


『宿題、進んでる?』


「まだ、ちょっとしか・・・。」


『ほら、ちょっとやってあるじゃないか。俺は全然やってない。』


いばるな!


「岡田は?!」


『さっき電話したら、これから始めるから余裕ないって。』


2人で打ち合わせ済みか。


「俺、リレーの練習も・・・。」


『おお!体育祭の花形だな!応援してるぜ!じゃ、大阪だから。よろしく。』


勝手に話して電話は切れた。

くそ!





次の日、午前中の練習のあとに、市の図書館に行ってみることにした。とにかく何か始めないと。

家への道をそれて、駅の方にある図書館に向かう。図書館に行くのは小学生のとき以来だ。

たくさん本があるから、たぶん、なんとかなるよな。


ところが!


図書館は建て替えられたらしく、俺の記憶よりずっと大きい。

中に入って、目に入った本棚を見たら、子どもの本ばかり?

見回すと、館内の地図があった。


『子どもの本』、『文学』、『総記』(なんだこれは?)、『哲学』(違うな。)、『歴史』(これか?)、次は『社会科学』、『自然科学』・・・。

うーん。とりあえず『歴史』で、見てみるか。4階?


4階に行くと、やっぱり本棚にいっぱいの本。これだけあれば、俺がほしい本も1冊くらいあるだろう。

だけど、探し出せるのか?


とりあえず、本棚に沿って移動する。・・・けど、背表紙が限りなく並んでいるばかりで、ますます混乱してきた。

1列よこに見ながら端まで行って、そこから顔を出してみると、同じような棚の列が何列も!

呆然としながら、次の通路(今見てきた裏側だ。)は覗いてみるだけにして、次へ。そこも覗くだけで次へ。そこに。


制服姿で本棚に向かう、背中に三つ編みをたらした女の子。

・・・もしかして。


「ぴいちゃん?」


小声で呼ぶと、彼女がこっちを向いた。

やった!

俺、普段のおこないが、ものすごくいいんじゃないだろうか。


「藤野くん。もしかして、修学旅行の?」


俺がうなずくと、


「じゃあ、この辺のでいいと思うよ。」


と小声で言って、指差して教えてくれた。

急いでそこへ行って棚を見る・・・けど、やっぱり背表紙の行列に圧倒されて選べない。


「ぴいちゃんは?もう決めたの?」


「うん。これ。」


彼女の手には奈良のガイドブックが2冊。


「悪いけど、俺にも選んで。どれがいいか全然わからない。」


ぴいちゃんはクスっと笑って、本棚に手を伸ばしかけて、


「どこの?」


と尋ねる。


「大阪。」


それを聞いて、彼女はすーっと本棚に目を走らせると、1冊取り出した。

中を見て、すぐにそれを戻すと、また棚を見てもう1冊、また中を見て戻す。

次は自分が持っている本の背表紙を見て、同じシリーズの本を探す。見つけて取り出して、中を見る。

動きに迷いがなくて感心する。


「どうかな?わかりやすい?」


本を差し出されて、慌てて開いてみた。

カラー写真と文章がほどよく配置されていて、俺でもどうにか読めそう。


うなずくと、


「じゃあ、あと1冊。」


そう言って、さっきと同じように2、3冊調べると、その中の1冊を渡してくれた。


「助かった。ありがとう。」


「いいえ。」


ぴいちゃんがにっこりして言った。ほっとする笑顔。


貸し出し手続きをして、自転車置き場に向かう。

せっかく会ったんだから何か話さなくちゃ。


「これから部活?」


「ううん。終わって帰るところ。」


じゃあ、俺たちと同じ時間に学校にいたのか。

学校で会えれば、一緒にここまで来れたのに。残念。


「藤野くんたちは、3人でやるの、それ?」


「いや。俺が押し付けられた。映司たちは宿題を全然やってないからって。」


「そうなんだ。藤野くんは宿題、終わったんだね。」


「違うよ!俺だって少ししかやってないけど、あの2人よりは進んでるって言われて。」


むくれた顔をした俺を見て、ぴいちゃんが笑う。


「あたしも終わってないけど、なっちゃんは演劇部が忙し過ぎてできないからって引き受けたんだ。」


2人とも同じようなものか。


自転車を出してきて、それぞれの方向へ。

あそこで彼女に会えなかったら、手ぶらで出てくるところだった。

それに、久しぶりに話せたことが、やっぱり嬉しい。

下調べを押し付けられて、ラッキーだったな♪

腹も減ってるし、早く帰ろう。



・・・しまった!

ぴいちゃんだって、昼はまだだったんじゃないのか?


一緒に食べようって、誘えばよかった!







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