解決したのかな?
映司と話した翌日の土曜日、篠田にはっきり断ろうと思って部活に行った。
昨日の夜、映司からもらったぴいちゃんのアドレスにメールを送って、その返事をもらったとき、やっぱり篠田じゃないってはっきり思った。・・・とは言っても、別にぴいちゃんが俺に気があるとか、そういう返事が来たわけじゃない。
『吉野です。メールありがとう。間違いなく届きました。
昨日も、今日も、あんなに笑ってしまってごめんなさい。だいぶ慣れたので、もう笑いません。』
ただ、これだけ。(慣れないでほしいけど。)
でも、これが来たときには気持ちがふわっと温かくなった気がした。
映司が、篠田の「友達」を断ってもいいんだって言ってくれたから、これで自由になれると思って、ものすごくほっとした。
ところが、いつもは練習時間がかぶっているのに、今日はチア部の姿がない。
仕方ない。明日か。
そう思ったのに、翌日曜日も、チア部はいなかった。
せっかく決心したのに。
なんだか気が抜ける。
月曜になると人目が多いから、できればこの土日で終わらせたかったのに。
夏休みも近いし。
こういうときに、メールが使えれば便利だよなぁ。
・・・いや、こんな話でメールを使うのは良くない気がする。
月曜日。
いつ篠田と話したらいいか、昨日からずいぶん考えた。
ほかの人がいないところじゃないと話しにくいし、と悩んだ揚げ句、部活終了後にしようと決めた。同じクラスなのに昼休みに呼びだしたりするのは変な感じがするし。
篠田に「部活のあと、話したいことがある。」って伝えるのは大変だった!
彼女はいつも神谷たちと固まって行動している。
断る話をしたいという後ろめたさもあって、ますます声をかけにくい。
それでもなんとか、教室の出入り口で捕まえて、部活のあとに待ち合わせの約束をする。
そのときの篠田が嬉しそうな顔をしたので、また罪悪感に悩まされてしまう・・・。
それからずっと気分が落ち着かなくて、部活中もミスの連発。
3年生が抜けて新しいメンバーになったばかりだけど、これじゃあレギュラーになれないかも。
でも、あの用事が終われば、明日からは新しい俺だ!
ようやく練習が終わって、篠田と待ち合わせた場所へ。
映司には「これから篠田と話をする」と、こっそり打ち明けてきた。映司は親指を立てて応援してくれた。
篠田は先に来ていて、俺を見て手を振る。明らかに、嬉しそうだよな・・・。
近付きながら、心を落ち着ける。
「待たせてごめん。」
と言うと、
「そんなに待ってないから平気。」
と、篠田は笑って答えた。
次の言葉を言い出しにくくてためらっていると、向こうが先に話し出す。
「昨日、大会があったんだけど、惨敗でね、すごく落ち込んでたんだ。でも、藤野くんが誘ってくれたから元気が出た。」
あれ?
いや、誘ったってわけじゃ・・・。
俺、「話がある」って言わなかったっけ?
そう言って、篠田は先に立って自転車置き場へと歩き出す。
あわてて後を追うしかない俺。
「あたしたち、今年の大会はいいところまで行けるかなって思ってたのに、ほかの学校と点数が大きく開いちゃって。あんなに頑張ったのにって、悔しくて。先輩たちと一緒に号泣しちゃった。」
そうですか・・・。
その気持ちはわかるんだけど、俺の話は・・・。
自転車置き場には部活帰りの生徒がたくさんいて、俺は何も言いだせないまま自転車を出す。
下校する生徒の波に混じって篠田と並んで走る。
これじゃ、この前と同じだ。
それよりも困ったことに、今日は俺から誘ったことになっている!
篠田の話にうわの空で返事をしながら考える。
とにかく、こんなことは終わりにしないと。
分かれるところまで来て、「じゃあね。」と篠田が言ったとき、ようやく「ちょっと待って。」と言うことができた。
「ちょっと話が」
と言うと、篠田が自転車を押しながら俺の横に戻って来た。
その笑顔、もしかして、何か期待してる?
う・・・、話しにくいよ。
「あ、舞ちゃん。バイバーイ。」
後ろから声がして、手を振りながら横を通り抜けていく自転車。
うちの生徒?
・・・っていうか、あの後ろ姿、ぴいちゃん?!
なんでこんな時間に?!
篠田が「バイバイ。」と手を振っている。
見られた?よね?完璧に。
ああ、もう!
パニックになりかけた俺に、篠田が問いかける。
「あのう、話って?」
そうだった。
とにかく、この状況を終わらせなくちゃならない。
「ごめん!俺、気になってる人がいて、篠田とは無理だと思うんだ。」
ぴいちゃんに見られたことがショックで、一気にそこまで言えた。
お詫びの気持ちで頭を下げる。
篠田は黙ったまま身動きしない。
泣いてたらどうしよう・・・?
そうっと顔を上げて篠田を見たら、何か一生懸命、考えている顔をしていた。
「あの、ごめん。友達からって言われたけど・・・。」
「その人とは、うまく行きそうなのかな?」
え?
「いや、まだ何も・・・。」
「じゃあ、その人とのことがはっきりするまで待つから。」
「え?だけど。」
待つって言われても・・・。
「もう、一緒に帰ったりしなくていい。普通のクラスメイトってことでかまわないから、返事は保留にして。」
「クラスメイトなら、別にわざわざ言わなくても。」
話がこんがらがってるような気がする。
返事が保留じゃ、今と変わらなくないか?
「お願い。藤野くんがその人とうまくいったらあきらめるから。」
それまでは、あきらめないと?
「だけど、いつになるかわからないし、そのときに俺が篠田のことを好きになるかどうかも・・・。」
「いい。それでも。」
困ったな。
こんなに食い下がられるとは思わなかった。
篠田ならかわいいし、すぐに彼氏ができるよな?
なにしろチア部なんだから、ファンだっているはずだ。
「篠田のこと好きなヤツなら、たくさんいると思うけど。」
だいたい、俺なんかのどこがいいんだ?
ほかにもたくさん男はいるじゃないか。
「それは、あたしの気持ちとは別の話だから。藤野くんとその人のことを邪魔したりしないから、お願い。」
お願いって、何を?
クラスメイトでいること?
そんなの当たり前のことなのに。
どうしらいいんだろう?
「・・・よくわからないけど、お互いに自由ってことでいいんだよね?何もないってことで?」
これが大事な点だ。
「うん、そう。」
「“返事は保留”っていうのは・・・。」
「それは、その人とのことが決まるまで、ほっといていいから。」
なんか、引っかかる。
「保留じゃなくて、一旦終了ってことにしてほしいんだけど。」
「藤野くんはそう思っててくれていい。あたしの中の問題ってことで。」
うーん・・・、どうなんだろう?
でも、これ以上は譲歩してくれない気がする。
「わかった。じゃあ、これからはただのクラスメイトってことでいいよね?」
「うん。ありがとう。気を遣わせちゃってごめんね。じゃ。」
そう言って、篠田は自転車に乗って帰って行った。
終わった・・・?
ちょっと曖昧なところもあるけど、とりあえず俺は自由だ!
これからは「友達」で悩まなくてもいいんだ!
ただ、さっきぴいちゃんに、一緒にいるところを見られたのが気になるけど。