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ぴいちゃん日記  作者: 虹色
出会いは高2の春
11/99

“友達”? “彼女”?



梅雨入りして雨の日が続く。


もうすぐ試合なのに、部活は室内練習ばかり。

通学も自転車は無理で、混んでいるバスに乗らなくちゃいけないのがめんどうだ。


篠田とはその後も特に変化はない。

この時期、両方とも部活が忙しいから、そんな余裕がないのだ。

クラスの中でも、普通以上に親しげにしてくることもない。

なんとなくほっとしている自分に、罪悪感を覚える・・・。


ある日の帰り、バス停で笹本と会った。

文化祭の話し合いで遅くなったという。けっこう熱心なんだな。


「天文部って、部員は何人くらい?」


「1年が8人、2年は9人、3年が3人かな。」


「小ぢんまりしてるんだな。」


「うん。その分、みんな仲がいいよ。女子も含めて。」


ぴいちゃん・・・とか?


「うちのクラスにもいるよね?」


一瞬、名前を出すのをためらってしまう。


「ああ、ぴいちゃんね。」


ものすごく嬉しそうな顔をする笹本。しかも、「ぴいちゃん」て言った?

なんでお前が?

そんなに仲がいいのか?


「“ぴいちゃん”って呼んでるんだ?」


俺の声、普段と変わりないかな?


「え?ああ、そうだよ。1年のとき、彼女と一緒に入部した長谷川と、お互いに“まーちゃん”と“ぴいちゃん”って呼びあってて、それを先輩がおもしろがって、今ではみんながそう呼んでる。でも、彼女、最近はあんまり出られなくなったけど。」


「そうなんだ?」


「彼女、家の事情で春休みに引っ越して、家が遠くなっちゃったから。それに、バイトも始めたから、週に1、2回しか出られなくなったって、4月に言いに来たんだ。部の会計を頼んでいたんだけど、ほかの人に代わってもらった。」


あのときか。

でも。


「自転車で通学してるみたいだけど?よく自転車置き場で見るよ。」


「引っ越すときに、自転車を駅前の駐輪場に預けたんだって。電車で50分、自転車で20分って言ってたかな。」


遠くからの通学とバイトなんて、根性あるなあ。

彼女の一本芯の通ったような雰囲気は、そういうところから来ているのかもしれない。


そういえば天文部って、普段は何をやってるんだろう?

尋ねると、笹本は笑った。


「みんな知らないよな。地味な部活だから。普段は月とか太陽の観測をやってる。あとはプラネタリウムに行ったり、夏は合宿もやるよ。」


「合宿?文化部で?」


「合宿って言っても、学校に3泊するだけなんだけど。夜に屋上から星を観測するんだ。あとは星空の写真を撮ったり。」


プラネタリウムとか、夜に星の観測とか、暗い所で・・・なんか、女子には危険な部では?


「藤野。お前、いやらしいこと考えてるだろう?」


「え?!」


焦る。

でも、少人数なところが、よけい気になるような・・・。


「その顔見たらわかる。いくらなんでも、部活なんだから変なことが起こるわけないだろ。」


笹本があきれた顔をする。

そばに好きな相手がいても、大丈夫なのか?


「そりゃあ、好きな相手が近くにいると思うと、落ち着かないけどな。ははは。」


・・・俺の心の声が聞こえた?

笑っている笹本を見ていたら、なんとなく心穏やかではいられなくなってきた。


「でも、プラネタリウムはデートにはいいところだぜ。藤野も行ってみたらいいよ。」


なんで俺が?

よくわからなくて笹本の顔を見る。


「チア部の篠田と付き合ってるんだろう?評判になってるよ。」


なんて言った?付き合ってるって?

それって、“友達”とは違うような・・・?

それとも、友達だけど、違うのか?


驚いている俺を、笹本は、秘密がばれてびっくりしていると思ったらしい。


「チア部の女子は注目度が高いから、彼女にするとすぐうわさが広まるよ。」


ってことは、うちのクラスでも?

“友達”じゃなく、“彼女”ってことで?

なんだか罠にはまったような気がする。

確かに、可能性がないわけじゃないけど、まだ決めたわけでもない。


混乱する俺を勘違いしたまま、笹本は先にバスを降りて行った。


どうしよう?

でも、“どうしよう”って、何を?

罠から抜け出せないような気がするのは何故なんだろう?



・・・ぴいちゃんと話がしたいな。



急に、そう思った。

もう何日くらい話していないだろう?


落ち着いて、ほっとする雰囲気。

まじめな顔をして冗談を言ったりすること。

きれいなノート。

「ぴいちゃん」のマーク。

困った顔、驚いた顔。

黒目が大きくて、まつ毛が長い目。


忘れていたわけじゃない。

本当はいつも気になってる。

でも、・・・きっかけがない。



“友達”は、いつまでも“友達”でもいいのだろうか・・・?





翌日、朝練に遅れてきた岡田の様子がおかしい。

なんとなくそわそわしている。いや、ニヤニヤしてる?


「なんか、お前、変だぞ。何かあった?」


制服に着替えながら尋ねると、岡田は「わかる?」と言って両手でニヤケ顔を隠した。

気持ち悪い・・・。


「今朝さー。」


2年みんなで校舎へ向かいながら岡田が嬉しそうに話し出す。

黙っていられない、という様子がありありとわかる。


「寝坊して、いつもより遅いバスに乗ったらかなり混んでてさあ。」


それは、雨が降るとよくあることだ。

岡田は駅から乗ってくるんだっけ。


「俺はどうにか吊り革につかまったんだけど、真ん中の通路も人がいっぱいで、その人たちは天井のバーとかにつかまってるだろ?」


俺もよくやる。


「そのバス、交差点で急ブレーキ踏んだんだよ。スピードは出てなかったけど、バスって立ってると安定感ないから、俺たち『おっとっと』って感じになって。」


ああ、わかる。その感じ。


「そしたらさあ、いきなり後ろから、肩にかけてたバットケースを思いっきり引っ張られて、振り向いたら吉野だったんだ。」


え?


「吉野って小さいから、真ん中の通路にいるとどこにもつかまれなかったみたいでさあ。急ブレーキで転びそうになって、慌てて目の前にあるものにつかまったらしくて。俺の顔を見て、びっくりして手を離したら、態勢が悪くてまた転びそうになっちゃって、腕を引っぱってやったんだ。」


なんとなく、話の先が読めてきたような・・・。


「で、バスが揺れた隙に俺の前に入れてあげたんだけど、混んでるからけっこうぴったりくっついてるし、彼女、耳まで真っ赤になって、ずっと下向いてて。それを見てたら、なんだか“やられた!”って感じでさあ。思わず肩を抱き寄せたくなっちゃったよ。」


おいおいおい!

危ないヤツだな。


「『ありがとう』って言われたんだけど、その恥ずかしそうな言い方がまた“ズキューン!”って感じで・・・。」


そう言って、岡田は大げさに胸を押さえる。

なんだか・・・感心する。

こんなに素直に言い切れる岡田が。

あきれる感じもするけど。


ほかの部員が笑い出す。

中には「今度、見に行ってみようかな。」なんて言い出す(やから)もいる始末。

それは、なんか、いやだな。


「藤野。なんだよ、その心配そうな顔は。もしかして、妬いてる?」


俺、そんな顔・・・してた?


「や、別に。」


「自分が一番仲良しだって、思ってたんじゃないの〜?」


「そんなことないよ。」


「だよな!お前には篠田がいるし!」


周りのヤツも「そうだよなぁ。」とうなずき合っている。

そんなふうに決めつけられるのは嫌だ。

篠田とは友達だ。


でも、ぴいちゃんとは?

友達じゃないのか?


「岡田は神谷ねらいじゃなかったの?」


横から映司が口を出す。


「神谷は神谷で魅力的だけど、吉野にはまた別の可愛らしさがある。」


「何それ?」


「それに、神谷はライバルが多いけど、吉野は目立たないから、今のうちなら大丈夫かも。」


なんか失礼じゃないか?

それに、今のうちに何をするつもりなんだよ?


「去年も同じクラスだったのに、全然知らないも同然だったじゃないか。そんなにいきなり変わるもの?」


「だって、かわいかったんだもーん。俺も“ぴいちゃん”って呼んじゃおうかな〜♪」


・・・軽いヤツ。

でも、ちょっとうらやましい。









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