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竜癒の姫と五つの竜  作者: 君祈
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6.   幼馴染殿下という存在は。




「空の冷蔵庫、まとめ買い重い! 重い殿下持つ、私料理作る!」

「……その片言は現実逃避の一種か」



 こんな感じで恐慌状態に陥ってた私だけど(ここに来てからそんなんばっかりだな)、半眼になってこちらを見つめる竜様に白界はくかい(竜様へ質問中〝こっちの世界〟とか〝あっちの世界〟とか指示語がわかりにくかったので、白い世界をそのまま名づけました)じゃ時間が流れないこと(へぇ~そりゃすごい)を聞いて徐々に落ち着きを取り戻していきました(ねぇでもなんかこのぎゅうぎゅうじゃないと落ち着かない症状に見覚えがあるんだけど……)。


 しかし、とにかくまずは。 どうして私がこうなってしまったのかを説明しなくては。




   「殿下怒る、怖いっ!」




  あ、やっぱまだ駄目じゃん。






   *  *  *






  伏見 蒼夜そうや、こと通称「殿下」。

 私は、日に五回ほどこの渾名をつけた幼い自分を褒めてやりたいと思っている。 


 小学1年生の夏休みも、もう終わる頃。保護者さんの仕事の都合で隣りに引っ越してきた同い年の少年は、〝とんでもない〟が標準装備の恐ろしい奴だった。


 記憶力の悪い私が今でもはっきり覚えている。


 宿題の追い込みがあるってのに母親に呼ばれ、むっとしながら玄関のドアを開けた。外は最も暑い13時の炎天下で、吹き込んだ熱風が顔にかかって一気に汗がにじみ、田舎かつ庭に木があるせいで耳が痛いくらいの蝉の鳴き声がわっと押し寄せた。けれど、手にしていた重いドアノブを押し切ったその瞬間に、夏空を割るような恋の歌は突然。

  ぴたりと、止んだ。

 あれなんでだろ?と思い、原因を求めて顔を上げた私は、驚きすぎて固まった。

 なぜなら。

 灼熱の太陽に焼かれたアスファルトからの熱でゆらめく空気の中、汗ひとつなくじっとこちらを見つめる〝とんでもなく綺麗な男の子〟に度肝を抜かれていたから。



  それから、私たちは幼馴染になるわけだけど。

 あんなに色白で綺麗で可愛かった赤銅色の髪のハーフの男の子は、〝とんでもなく整った顔と長身の〟〝とんでもなく頭が良くスポーツができ〟〝とんでもなく家がお金持ちでその上仕事を手伝っては荒稼ぎする〟という、もうとんでもなく嫌味な奴に成長した。


  そして皆さま、想像してみて欲しい。


 日ごと少しずつ可愛さが抜け凛々しくなってゆく男の子は、家の事情で我が家にほぼ預けられる状態になり、学校も食事もお風呂も寝るのも一緒。そして時と共に、繊細な少年美よりも角ばった線の雄々しい造形美へと変わってゆき、大きな手も高い身長も広い肩幅も低い声も、男の人のものになっていった。それを、一番近くで見続けた私は……。


 慣れちゃったんだよ、驚異的美にっ! 毎日千度見てるから、普通になっちまいやがったよ!

  あと、女友達がどんだけできづらかったかも察して! 呼び出しってほんとにあるんだぜっ?



 はいはい、そうとも。あんたは、見た目も頭ん中も貯金通帳の残高も完璧に育ったとも。

 だけど、だけどなぁ。 約束の時間に3秒遅れたら、嫌がらせで警察呼んで親に緊急連絡して捜索させた挙句とんずらするような奴なんか私はやだぁあああ。


「何? 俺が悪いの? ああ、確かに焦って中途半端に探した俺が悪かった。今度はちゃんとお前に連絡入れるし5分くらい待つよ。でも、5分1秒になった瞬間、ICPOだ。……文句ないな?」


 ありますぅう! ごめん、私が悪かった! 寝坊とか、ほんと申し訳なかったっ! だから殿下、前に冗談でいじったら「どこの国のトップの所有物?」ってなったその、絶対にヤバイ非表示のナンバーを映している携帯の通話ボタンから手を離してぇええ……っ!









    「で、お前にとってその男はどんな存在なんだ」



  竜様の低い声に、私ははっと我に返った。

 己の記憶にムンクのように恐怖していた私を眺める目は、先程の半眼よりも見える瞳が狭くなっている。

 それだけ呆れられている事実に、一人演技をしながら回想していた私は慌てて居住まいを正し。

  それから、考えてみた。



 殿下が、ソウヤが、私にとってどんな存在かを。 



「とんでもない寒がりで、秋口からマフラー巻こうとしたり体温高いくせに冬には人様の暖を奪って寝てしまうような変な奴。靴を揃えろと妹に怒られ、テレビのチャンネルで弟と争い、嫌いなキノコを母に笑顔で口に突っ込まれ、夏になると半裸族化する父と一緒に嬉々としてトランクスいっちょで歩き回る駄目な奴。それから……」

 

 ソウヤがどんな存在か? そんなの、簡単だ。


 

 最強の幼馴染で、殿下で、困った時には頼れる兄で、意地っ張りな寂しがり屋の弟で。




   「私の一番の理解者で共闘者。……大事な大事な、家族だよ」

 


 

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