2. パニックに陥った私は。
〈京都タワーとは、何だ〉
虹色ウォーターオパールの瞳で見つめる巨大竜の第一声は、これだった。
あ、口に出しちゃってた?とかは、頭が真っ白になるほど驚いていたから言えもせず。
だから私と竜のはじめての会話は、「え~確か高さは130メートルほどの京都駅前にある泊まれたり宴会やらができたりする塔のことで……」から、はじまった。
* * *
五分後、私はかなり頑張っていた。頑張り続けていた。
「私、去年近江から引越し京都の大学に通うようになりまして、京都駅も帰郷などに使うようになったのですが、しばらくはその存在に気づかなかったんです。入学から大分経った頃、大学の友人がたまたま「もっと大きいかと思ってたー」「え、あれ、電波塔じゃないの?じゃ、なんなの?」と京都タワーネタについて盛り上がっていまして。え、そんなもんあったっけと思い、駅のデパ地下に幼馴染殿下のために高級ケーキを買いに行ったついでに見上げた所、なぜかやたら印象に残……」
尽きていた、もうネタは尽き果てていたんだ。
だって私、そんなに話せる程京都タワーについて知らないし。五分間のうち四分は、中にある100円均一の話で引っ張ってたからね。
しかしこの目的・ゴール共にわからない時間稼ぎにも、意味はあった。
日常について話していたせいか、私はかなり落ち着きを取り戻し、自分の置かれた状況を把握しようという心の余裕が生まれていた。
どうやら、この美しい宝石床は一枚辺り畳十五畳ほどの竜の鱗で(表現の単位になぜいまいちわからないはずの畳を選んだ私)、座っているのはこの巨竜が地面についている右手(前足)の甲の上で(この時点で私はかなり高いところにいたことを知った)、その私を取り囲むようにジャンボジェット機もくしゃりと潰せそうな尾が横たわっていた(注釈が多くて申し訳ない。なんかぎゅうぎゅうにしないと心もとなく感じてしまって……。それになんか頭がぼぅっと……ってちょっと待て)。
おいおいこれ、心の余裕というよりただのパニックによる症状と脳貧血でね?
うん。心に余裕なんてあるはずが、わけがなかった。
だって、ねえ、フィクションであるはずの130メートルの生き物にガン見され続けているんですよ?
本来日本人とは、初対面の見知らぬ親戚に注視されただけで対応に困る生き物だというのに……!
あ、それと後で気づくんだけど、大変まずいことに私の心と口が直通なのも、改善されてなかったのよね。
その結果。
「ってしまって…………、あの、触ってもいいですか」
気づけばするりと、欲望がダダ漏れていた。
鱗の大きさについて計算していただいたのですが、愛歌は間違っていました。本当は、10畳くらいです。(たぶん)
ご指摘、本当に有難うございましたっ!