プロローグ ~愛する竜を殺すもの~
R15は保険です。現時点ではそういった描写が必要になる可能性のみですので、どうかご了承くださいませ。
また、2013年8月7日に10話以降大幅に変更致しました。
「寂しくて死ぬなんて、か弱い兎さんでも無理なのに……」
生まれて初めて目の前にした力強くも気高い竜の巨体を思い出し、それは無理だと私は思う。
私は今、一つ目の世界へ渡る前にと、〈統べる竜〉御自ら竜や世界について教えてもらっている。
その説明も、本当に説明する気があるのか疑わしいほど雑だが。
それでも、もはや疑いようもなく〝言うだけ〟となっているさらさらとした言葉の羅列の中に、つい天然母との攻防で育て上げられたつっこみ根性が刺激されてしまった。
だって、竜が寂しくって死ぬなんて言うから。
「死ぬぞ」
「え?」
返ってくるとは思わなかった返事に反射的に顔を上げた。
と、まったく己の仕事に情熱のない教師のような〝一応やることやっている感〟満載で、丸めた尾にあごを乗せ音(ついに説明とは言えなくなった)を出し続けていた竜が、こちらを見つめていた。
そして私を喚んだこの竜、〝竜の世界を統べる竜〟は、オパールの瞳で言い募る。
「愛しい者に放置されれば、寂しさか嫉妬で竜は死ぬ」
「……ぇ?」
「ああ、嫉妬の場合は愛しい者も嫉妬の対象も死ぬかもしれないがな」
〈うん、明日は暇だよ。あ、でも出かけるには天気悪いかもしれないけど〉
こんなふうに明日の予定について話してたって、そんなに何気なくはない。
あれ、そんな感じでいいの?
私の生死、普通に関わってるみたいなんですけど。
世界を渡り、竜を癒す人間を「竜癒」と呼ぶ。
そんなタイソウなものになることを受け入れた私は、もしも〝癒し〟を失敗すれば、その世界の竜が滅ぶのも時間の問題という重すぎる現実を回避するために全力を尽くすつもりでいた。
ああ、でもそんな……。竜が私を傷つけることはあっても、私が竜を傷つけることはないと思っていたのに。
小説や映画の中でしか会えない、最愛の存在。
こんなに強くて格好良くて気高くて大きくて美しくて少しだけ怖い、可愛い可愛い可愛い生き物を。
高層ビルのような体を小型化しても、私の腕では抱えられないほど大きな尾が私を包み引き寄せる。
透明な真珠のような、生きた宝石の鱗を撫でると〝彼〟は嬉しそうに喉を鳴らした。
それからそっと顔を寄せて鼻先ですり寄ると、低くも優雅な声で囁く。
「竜は、嫉妬で死ねる生き物なんだ」
〈お前の竜である、我もな〉と、私の閉じた瞼に口づけて満足そうに笑った。
あなたさまがこの作品を少しでも好んでくださったならば、心の底より、嬉しく思います。