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誰が鬼ですって? 〜王妃になったスパダリ国王、今日も愛妻を守るために悪役を演じます〜  作者: なな日々


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第9話 我慢できなかった国王陛下

「ロ、ロザリアァァァッ!!」


 そこに立っていたのは、息を切らし、豪奢なマントを派手に翻した我が国の偉大な国王陛下――中身はロザリア――だった。


 額にはうっすらと汗を浮かべ、護衛もつけずに単騎で愛馬を限界まで爆走させてきたことが丸わかりの、実に見苦しく、そして最高に男前な乱れ姿だ。その大きな片手には、亡き前公爵夫人が生前最も愛していた、白い百合の花束がこれでもかと固く握りしめられている。


「へ、陛下!? ど、どうぞこちらへ……っ! 今、最高級の茶葉を淹れ直させますわ、ですから……っ!」


 地べたにへたり込んでいた義母たちが、あまりの衝撃に悲鳴を上げながら慌てて平伏する。


 だが、国王(ロザリア)はその這いつくばるゴミどもを完全に視界から締め出し、長い足を大股に動かして、真っ直ぐに俺のもとへ駆け寄ってきた。


「半日! 半日も君と離れていたら、もう寂しくて執務に手が、手がつかなかったんだ! 一緒にお墓参りして、一緒に帰ろう!!」


(……このバカ、我慢できずに本当に来やがったな)


 脳裏に、王城の執務室で「アレクシスがいない!無理!」と駄々をこねる国王(中身乙女)と、それを「陛下、本日だけは王妃様お一人での公務にございます!落ち着いてください!」と必死に引き留めていたであろう側近たちの、血の涙を流すような絶望顔がありありと浮かぶ。


 

 わたくしは呆れて深く溜息をつきながらも、大型犬のように大きな体を擦り寄せてくる国王(ロザリア)の頭を、優しく、慈しむように撫でてやった。


「仕方のない方ですわね、陛下ったら。……ほら、お聞きになりまして?」


 わたくしは、国王(ロザリア)の広い胸の中にすっぽりと収まりながら、床で震える義母たちへ冷ややかに視線を向けた。


「陛下はわたくしがいないと、半日たりとも生きていけないそうですの。わたくしがこの屋敷に帰るなど、もう二度とないと思っていただいて結構ですわ」


 義母と義妹は、冷酷非道で知られる「氷の王」が、王妃に泣きつきながら甘えるという、天変地異レベルの信じられない光景を前に、完全に脳の理解が追いつかずに白目を剥いて気絶していた。


◇◇◇


 帰り道の馬車の中。


 ガタゴトと揺れる車内で、自分より頭一つ分デカい国王(ロザリア)が、俺(王妃の姿)の肩にすりすりと、大型犬さながらに顔を埋めていた。


「……お前なぁ。いくら俺が心配だからって、国王が護衛もつけずに単騎で飛び出してくる大馬鹿者(おおばかもの)がいるか」


「だってぇ……お母様のお墓参りだし、アレクシスがあの家で酷い目に遭わされてないか心配だったんだもん」


 普段は国王(ロザリア)姿で、ガチガチの重圧に耐えながら慣れない公務を必死にこなしてくれている彼女の苦労を思えば、これくらいの我が儘は可愛いものかもしれない。


「あの連中に、この俺が言い負かされるわけないだろ。……それに、お前の母親の命日くらい、俺が代わりにこの体で、しっかり義理を果たしてやりたかったんだ」

 俺が少し照れ臭くなってそっぽを向きながら言うと、ロザリアは嬉しそうにふにゃりと、完全に中身の乙女が透けて見えるような笑みを浮かべた。

「ありがとう、アレクシス。……母は生前、あなたのことをとても気に入っていたもの。だからね、私の健康な体と、あなたの優しくて強い魂。大好きな二人にいっぺんに会えて、きっと天国ですごく喜んでるはずよ」


「……っ」


 俺の元の顔でありながら、そこから滲み出る本来のロザリアの優しい雰囲気、そしてその表情と優しい声。そんな純粋な、蕩けるような言葉を紡がれるなんて反則だ。胸の奥がギュッと締め付けられる。


「……まあ、結局私も我慢できずに来ちゃったんだけどね! ふふっ」


「……お前ってやつは、本当に」


 照れ隠しのように小さく笑うロザリアの背中に腕を回し、俺は彼女をその細い(けれど中身は男の)腕で強く抱き寄せた。


 馬車の窓から差し込む夕日の中、言葉の代わりに深く、深く重なり合う唇。


 外から見れば国王と王妃の優雅な帰還だが、馬車の中ではいつだって、この愛しくてたまらないおバカさん(国王)に、俺の方が翻弄されっぱなしなのである。

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