長い夜のバス
ソウル行きのバスは、思ったより普通だった。
大きな長距離バス。
青いシート。
静かなエンジン音。
でも私たちにとっては、初めての長距離海外移動だった。
ミナが席に座って言う。
「六時間ってさ」
サラが窓の外を見ながら答える。
「長いね」
「めっちゃ長い」
ユイは地図を膝に広げていた。
いつもの赤い線。
韓国。
その先。
中国。
さらに上。
モンゴル。
ミナが言う。
「まだ韓国なんだよね」
サラが言う。
「うん」
「先長すぎない?」
「うん」
でもユイは少しだけ笑っていた。
バスが動き出す。
窓の外の街が流れる。
知らない看板。
知らない店。
知らない道路。
私は思う。
本当に外国にいる。
しばらくして街が終わる。
高速道路。
山。
空。
夕方の光。
ミナが小さく言う。
「ねえ」
誰も見ないけど、聞いている。
「もしさ」
少し間を置く。
「モンゴルまで行けなかったらどうする?」
サラが言う。
「帰る」
「そんな簡単?」
「うん」
ミナは笑う。
「サラらしい」
ユイは窓の外を見ていた。
私は聞く。
「ユイは?」
ユイは少し考える。
それから言った。
「途中でもいい」
「え?」
「国境一個でも越えたら」
ミナが言う。
「もう越えてるよ」
韓国。
ユイは首を振る。
「海のはちょっと違う」
サラが言う。
「陸路主義」
私たちは少し笑う。
バスは走り続ける。
夜になる。
サービスエリアで止まった。
小さな店。
明るい光。
トラックの列。
ミナが伸びをする。
「腰痛い」
サラはコーヒーを買う。
私は外の空気を吸う。
少し涼しい。
遠くで虫が鳴いている。
韓国の高速道路。
夜。
不思議な感じだった。
ユイが隣に来る。
「ナツミ」
「うん」
「なんで来たの?」
私は考える。
ちゃんと考えたことなかった。
「なんとなく」
ユイは少し笑う。
「ナツミっぽい」
「ユイは?」
ユイは少し黙る。
それから言う。
「ここまで来たかった」
「モンゴル?」
「うん」
「なんで?」
ユイは空を見る。
星が少し出ていた。
それから言う。
「子どもの頃ね」
私は待つ。
「モンゴルの写真見たことある」
「草原?」
「うん」
少し笑う。
「地球って広いなって思った」
それだけだった。
でも私は少しだけわかった。
バスに戻る。
ミナはもう寝ている。
サラは音楽を聞いている。
バスはまた走り出す。
暗い高速道路。
私は窓の外を見る。
日本じゃない夜。
知らない道。
でも。
この道は
確実に
モンゴルにつながっている。
そう思うと、少しだけワクワクした。
次回予告
3月11日8時、お楽しみに




