見知らぬ街のやさしさ
私たちは市場まで走った。
朝来た道を必死に戻る。
屋台の通り。
煙。
人の声。
でもさっきより人が増えていた。
ミナが息を切らして言う。
「ここ……だよね」
トッポッキを食べた屋台。
赤い看板。
同じ店。
でも地面を見ても、財布はない。
ミナの顔が少し青くなる。
「……ない」
サラが言う。
「まだわからない」
私たちは屋台のおばさんに話しかけた。
でも韓国語。
通じない。
サラが英語で話す。
「Excuse me…」
おばさんは首をかしげる。
サラがジェスチャーをする。
財布の形。
落とす動き。
おばさんは考えて、それから言った。
韓国語。
早口。
全然わからない。
ミナが小さく言う。
「終わったかも」
そのときだった。
隣の席にいた男の人が立ち上がる。
二十代くらい。
黒いTシャツ。
「Japanese?」
英語だった。
私たちは一斉に頷く。
「Yes」
男の人は少し笑った。
「財布?」
ミナがすぐ言う。
「Yes!」
男の人はおばさんと韓国語で話す。
しばらくして、私たちに向き直った。
「おばさん、見たって」
ミナの目が大きくなる。
「ほんと?」
「うん」
男の人は屋台の奥を指さす。
そこには小さな箱があった。
おばさんがその中を探す。
そして。
黒い財布を取り出す。
ミナが叫ぶ。
「それ!」
おばさんが笑う。
ミナは財布を受け取る。
開く。
中を見る。
それから、深く息を吐いた。
「……ある」
お金も。
カードも。
全部。
ミナの目が少しだけ赤くなる。
「よかった……」
私も思わず笑う。
サラも小さく笑った。
ユイはおばさんに頭を下げる。
「カムサハムニダ」
おばさんはまた笑った。
男の人が言う。
「よかったね」
ミナは何度も頭を下げる。
「Thank you、Thank you」
男の人は手を振る。
「No problem」
それから聞いた。
「旅行?」
サラが答える。
「Yes」
男の人は笑う。
「どこまで?」
サラは少し迷う。
それから言う。
「モンゴル」
男の人の顔が止まる。
「……モンゴル?」
ミナが頷く。
「うん」
男の人は少し考えてから笑った。
「Crazy」
私たちも笑う。
確かにそうだ。
知らない国の市場。
屋台の前。
財布を落として。
それを探して。
でも戻ってきた。
そのとき私は思った。
この旅は
たぶん
何回も困る。
何回も迷う。
でもきっと。
そのたびに、
誰かに助けられる。
市場を出るとき、
ミナが言った。
「もう絶対財布落とさない」
サラが言う。
「フラグ」
私が聞く。
「次どうする?」
ユイは空を見る。
青い空。
知らない国の空。
それから言った。
「ソウル行こう」
私たちは駅に向かって歩き出した。
モンゴルはまだ遠い。
でも少しだけ、
この旅は
本当に行けるかもしれない
そんな気がした。
次回予告
18時、お楽しみに




