表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本脱出  作者: さくらもち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/11

海上の逃亡

夜の海は、思っていたより広かった。


港を出たときはまだ街の光が見えていた。


ソウルのネオン。


ビルの窓。


橋のライト。


それが、今はもう遠い。


振り返ると、光の帯が水平線の向こうに沈みかけている。


前は闇だ。


完全な闇。


空だけが明るい。


星が多すぎて、逆に怖いくらいだった。


船のエンジンが低く唸っている。


ドゥン……ドゥン……ドゥン……


木の船体が小さく震えている。


波が横から当たる。


バシャッ……バシャッ……


冷たい海水がデッキに飛ぶ。


ユイは船の先に立っていた。


両手で手すりを握って、北を見ている。


風が強い。


髪が顔に張り付いている。


ミナが後ろで言った。


「……ねえ」


声が小さい。


「今ならまだ戻れるよね」


誰も答えない。


そのときだった。


海の向こうで、光が弾けた。


真っ白な光。


闇の海が、一瞬だけ昼みたいに明るくなる。


ミナが思わずしゃがむ。


「なに!?」


光はすぐ消えた。


でも、また点く。


ゆっくり海をなめるように動くライト。


遠く。


大きな船の影。


サラの声が低くなる。


「……あれ」


私は聞く。


「なに?」


サラは目を細めて海を見る。


そして言った。


「警備」


短い言葉だった。


でも意味は十分だった。


ミナが固まる。


「え」


サラが続ける。


「海上警備」


沈黙。


その沈黙を破るように、船長が怒鳴った。


ロシア語だった。


強い声。


同時にエンジン音が変わる。


ドゥォォォン!!


船が前に跳ねた。


私は思わず手すりを掴む。


波が横から叩きつける。


ドンッ!!


船体が大きく揺れる。


ミナが叫ぶ。


「ちょっと待って!」


船は止まらない。


むしろ速くなる。


海が荒くなってきた。


黒い水の山が、次々にぶつかってくる。


バシャッ!!


冷たい水が顔にかかる。


しょっぱい。


痛いくらい冷たい。


ミナが半泣きで言う。


「ねえこれ逃げてるよね!?」


サラが短く答える。


「逃げてる」


ミナ


「なんでそんな冷静なの!?」


サラは後ろを見る。


遠くの船。


白いライトが、海を切り裂いている。


「向こうも速い」


ミナ


「聞きたくなかった!」


船が大きく跳ねる。


ドンッ!!


足が一瞬浮く。


私は必死に手すりを握る。


そのとき。


前から声がした。


ユイだった。


風の中で、はっきりした声。


「ねえ」


誰も返事をしない。


でも全員聞いていた。


ユイが言う。


「後悔してる?」


ミナが即答する。


「してる!」


一拍置いて、ミナが続ける。


「……でも」


ミナは海を見る。


黒い海。


星。


遠ざかる街の光。


「ちょっとだけ楽しい」


サラが笑う。


「同意」


船がまた跳ねる。


ドンッ!!


船長が叫ぶ。


前を指す。


その瞬間。


巨大な波が見えた。


暗闇の中に、黒い壁。


「うそでしょ……」


ミナの声。


波が来る。


船が持ち上がる。


一瞬、空に浮いたみたいになる。


それから落ちる。


ドォン!!


衝撃。


水しぶきが舞う。


デッキがびしょ濡れになる。


ミナが悲鳴を上げる。


「死ぬ!!」


その瞬間。


後ろから、再び光が来た。


今度は逃げ場がなかった。


白いライトが、完全に船を照らす。


海も、私たちも、全部が真っ白になる。


サラが低く言う。


「見つかった」


ミナが頭に手をのせる。


「終わった!!」


でも、そのとき。


サラの視線が前に止まった。


暗闇の海の中に、影がある。


水平線の上。


黒い塊。


サラが言う。


「……島」


船長もそれを見る。


なにを言っているかは分からないが、叫ぶ。


するとエンジンがさらに唸る。


ドォォォォォン!!


船が一直線に走る。


後ろでは警備船のライト。


白い光が海を裂いて追ってくる。


前には、闇の島。


夜の海の真ん中で。


私たちの小さな船は、その島へ突っ込んでいった。

次回予告


18時、お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ