ちがう
※2026/02/26後半部分に 手紙の〜 という字幕? を追加させました
※2026/03/01〜2026/0405シャワーカーテンの件を除外しました
これは友人が買ったマンションに行ったときの話しだという
「大学のときの友人がマンションを買ったというんで、それでいまでも仲のいい友達たちで集まってお祝いしよう、ということになったんです」
仕事先へはやや遠くなるが、交通や乗り換えがいい街にあるマンション。そこは夜景が格段にきれいに見えるところだったという
「えー? わー、きれーい…やるじゃないの…マンションのついでに旦那もかあ…ここもその人が探してきてくれたんでしょう? いいわねえ……」
「ふふふ、まだよ。まだ籍は入れてないの。でも住むところは決めておこうって…彼が」
「彼って…そう呼んでるじゃないでしょう? もう、なんて呼んでるのよ? ほら、いいなさいよぅ」
そんなところを友人が買ったというのにも驚いたが、それとほぼ同時にすぐに結婚するっていう話しにみんな、何倍も喜んでいたのだという
「その彼とは以前に一回だけ会ったんですが…なんていうか、そんな感じには見えなかったんです。だから、そんな急に話が進んで、こんなところに友人が住むようになるなんて、思ってもいなかったんです」
「でもすぐにってことなんでしょう? これで残りはあんただけかあ」
「あんた呼ばわりされるゆわれはありませ~ん。私はもう少し、ゆっくりしま~す」
「あははははは、いってろ、この~」
お酒も入り、上機嫌になったみんなは、彼女のことの成就を聞いたのだという
「でもここ、いーところじゃない…いまどき2LDKでこの値段なんて…ないわよ」
「その部屋は、ひとつひとつの部屋が広くて、ゆったりとしていて、解放感というか、リラックスできる感じがすごくよかったんです。私が住みたいぐらいでした」
「掘り出し物だったの、周りはね、ここの倍以上するんだけど、彼の知り合いがちょうど売りたいってことでね、安くしてもらったのよ」
「へー、そうなんだ…駅近でいいよね。エントランスとかちょーきれいだし…中もいい雰囲気…でも大変じゃない? うちもさあ…ローンがさあ……」
パンパン
「はいはい、そんなしみったれた話しは今日はしないっ。じゃあ…誰か先にお風呂入っちゃって? わたしはここを片付けるから…そしたらまた飲もう。今日は学生時代に戻って、オールで飲み明かそ~」
「え? それはパス、さすがにお肌に悪いもの」
「え~? みんなそんなこと考えるようなお歳ではありませ~ん」
「あ、じゃあ私が持ってきたの準備してい? みんなリラックスできると思うから……」
「はぁ~いお願~いします…へえ…アロマキャンドルってそういう使い方してもいいのねえ…今度家でも試してみよう」
彼女がお祝いとして持ってきたもの。それは香りの良いアロマキャンドル。お風呂で焚きつけて入ろうとしていたのだという
「リラックスできるし、その部屋にもあっているかなって……」
彼女はそう思ったらしい
「これでいいかな?」
部屋に備え付けられている風呂はホテルにあるような豪華さで、そこにはシャワーカーテンが取り付けられていた。アロマキャンドルを置く場所を慎重に決めると、彼女はキャンドルに火を灯した
「できたよー? 誰が先に入る? 一番最初が一番気持ちがいいのよ」
「え? じゃあ…こーゆーときは……」
「あ、あれね?」
「ええ……せーのっ」
「じゃーんけーん……」
そうしてキャンドルを持ってきた彼女が一番最初に入ることになったのだという
「昔からあんたはじゃんけん弱いよね」
「それ以外も弱いよね」
「うっさい、じゃあお言葉に甘えて…あのすごいお風呂を堪能してきましょうかね」
「あーそういうのもか…まあ、それぐらいはあんたに譲ってあげるわ」
「昔の彼氏はダメだったのに?」
「いうなっ…あれは…若かったのよ、お互いに…まだ若いけどさっ」
キャンドルを付けているため、お風呂の電気は点けなかった。彼女はこのことを後で後悔することになる
暗いお風呂の中、アロマキャンドルの炎が揺れる。お酒も入っていたためか、危うく眠りそうになった彼女は、慌ててお風呂のお湯で顔を洗った。そのときだ
ピンポーン
不意に玄関のチャイムが鳴った。突然の訪問者。しかし、そこで彼女は不思議に思ったのだという
「私たち以外には誰も招待していなかったんですよね。だから…噂の彼が帰ってきたのかも? そう思って…お風呂に入っているのをどうしたらいいのか、迷っちゃったんです。こっちには来ないだろうって…そう思ったんですが……」
彼女の意に反して、洗面所のドアが開いた。誰かが入って来る。お風呂に入っている彼女には気がついていないようだった
うそ? どうしよう……
洗面所で服を脱いでいるような気配。ダイニングにいる友人たちもが気がついていない様子に、彼女は迷わずカーテンを引いてそこに身を沈めた
お風呂のドアが開き、入って来る誰か
それなのに……
電気が点かなかった
「お風呂はキャンドルの明かりで薄暗くなっていて…それを楽しんでいるのか、その誰さんかはシャワーを使い始めました。それに私は、ははあ…これはたぶん、友人のうちの誰かが、私を驚かせようとしているんだな。そう思ってお風呂から身を乗り出そうとしたんです…でもそのとき、気がついちゃったんです」
シャワーの勢いでキャンドルの炎が揺れ動く薄暗い中、誰かが隣で…水を出していた
「その人が使っているのはお湯ではなく、水でした。しかも…体に当てているような感じじゃなくて…ただそこにシャワーの水を出している、そんな感じだったんです」
どうして?
急激に低下していく室内の温度。温かいお湯に入っているのに寒気がした彼女は自分の肩を抱いた。恐る恐る、そこにいるのが誰かを確認しようとカーテンへと手を伸ばそうとした。しかし……
「ぅくゃっ」
「誰もいないはずの後ろから…湯船の中から誰かの手が出てきて、私の首を掴んで、お湯の中へ引きずり込もうとしたんです」
首を絞められて、ものすごい力で、後ろへと引っ張られる彼女。誰がいるのか…お湯が口に入り呼吸を塞ぐ。その恐怖に、彼女は無我夢中でカーテンを掴んだ
引きずり降ろされるカーテン。そこには……
「!ぐぼううううう」
見たこともない黒い女性。カーテンを開けた先、そこに居たのは全身が濡れ、髪から水を滴らせていた女性が、こちらをじっ、と見ていたのだという
「そのとき、その女性ははっきり、こういったんです」
「ちがう」
「きゃあああああああっ」
「やっと…それだけいうことができて…その悲鳴を聞いて、みんなが来てくれたんです。助かった…本当にそう思いました」
「どうしたの?」「大丈夫?」「なになに、どうしたの?」
「明かりが点く寸前にその女性はいなくなっていました。私は…どうしたらいいかわからなくて、湯船の縁にもたれかかることしかできませんでした」
温まるはずのお風呂。その中で彼女は震えるしかなかったという
「のぼせちゃったのかな? それに…ちょっとキャンドル焚きすぎじゃない? 息ができないわ」
「キャンドルを焚きすぎて…酸欠になっていて、それであんなのを見たんだと思うことにしました。彼女が買った新居に…あんなのがいるなんていえないし、到底信じられません」
しかし……
「ちょっと…どうしたのよ? それ……」
友人が指差す先、それは彼女の首
「そこにはくっきりと手の跡が残ってたんです。後ろから…締め付けるようにしている小さめの手の跡が……」
お風呂にキャンドルを焚くのは危ないということで取りやめた。首のことは…首がかゆくなって掻いたのがそうなった、と説明した。介抱された彼女は、もっともお風呂から遠いところで就寝したのだという
「でも…それで終わりじゃなかったんです」
数日後、電話が鳴った。部屋を買ったという友人からだった
「ねえ…どうしよう? 今日、部屋の住人だっていう人が来て…ここを売ったことはないっていうの。それで調べてもらったら…頭金もなにも全部なくなってて、振り込みもなにもされてないっていうの…ねえ、おかしくない? おかしいよね? ここ…わたしたちの家だよね? どうしよう…警察の人が来て…わたしも詐欺を働いたっていうの…ねえ、変だよね? 絶対うそだよね? そんなこと…ねえ? 聞いてる? ねえ? わたしどうしたらいいの? ねえ……」
「彼女…ロマンス詐欺に会ったんです。その男、詐欺師だったんです。彼女…貯金全部、そいつに預けてて…新居の頭金にするようにって…ほかの友人からもいくらか借りていて…私たちでも助けてあげられないような借金を抱えてしまって……」
「お風呂であった女性。あれはたぶん、あの男を追ってきたんだと思います。あの女性も騙されて、悔しくて、悲しくて…だからあんな姿になってまで追っかけていたんだと……」
嫌な記憶のあるそのマンションに、彼女たちは二度と近寄らなかった。あれは本当に男を追ってきた女性だったのか、それともマンションにいたモノだったのか、それは最後までわからなかったという
「ちがう」
差出人不明の手紙に書かれていたのはこんな内容の話。そしてそこには、そのマンションのものであろう住所が、違う筆跡で、震える字で、書き加えられていた
※手紙の内容を基に再現
「ちがう」
『速報です 東京都■■市の撮影スタジオで機材が転倒するトラブルがあり、下敷きになった女優○○○○27才が心肺停止の状態で見つかり、病院に搬送されましたが、その後、死亡が確認されました 警察は当時の状況を確認すると共に、事故、事件、両面から調べを進める方針です』
「ちがう」




