表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

第6話 にゃ……(陽向くんに嫉妬されたい……)

──放課後。

 何とか一日を乗り切った俺は、そのまま部活動の時間を迎えていた。


「帰らないのー?」

「うん。これから部活だから……母さんたちに見つからないように、先に帰ってくれると助かるんだけど」


 するとメイがぷくっと頬をふくらませ、拗ねたように言う。


「むー!やだやだ!」

「……しょ、しょうがないな。じゃあ、部活見学する?」


「する!」


 嬉しそうに飛びついてくるメイ。

 俺たちは二人並んで体育館へ向かった。


***


 体育館に着くと、まず聞こえてきたのはいつものボールを突くドリブルの音。

続いて、バッシュが床をきゅっきゅっと鳴らす音が響いていた。


「おーい、遅いぞ陽向!」

「わ、悪い悪い!」


 声をかけてきたのは、バスケ部の仲間で親友の夏目麗央。

そう──あの夏目水果の兄だ。


 彼は俺より背が高くて、顔もかっこいい。ミディアムヘアの金髪を靡かせて、一見するとモテそうなのに、その軽い性格のせいで実はあまりモテない残念なイケメンだ。


「あ、そういや水果さんは?」

「知らねえ、休むってよ。……そんなことよりさ、お前の隣の女の子誰だよ。新しい彼女か?」


 麗央がメイに気づき、指をさす。メイは警戒したように、そっと俺の後ろに隠れた。


「あぁ、ただの友達だよ。見学したいんだって」

「なーんだ、よかった。じゃあその可愛い子、俺に紹介してくれよ」


「は、はあ!?」


 別にメイは俺の彼女でも何でもないのに、なぜか嫉妬に近い感情を抱いてしまった。


 そしてメイが、ほんのり頬を赤くして言う。


「えへへ、アタシ可愛いんだって!」

「だ、だからなんだよ……」


 彼の言葉に素直に喜ぶメイを見ていると、胸がちくりと痛む。

……これが、俗にいう“NTR”ってやつなのかもしれない。


「も、もういい加減にしろよ二人とも!」


 俺が嫉妬しているのを見て、メイはニヤニヤしている。

自分は嫉妬深いくせに、人を嫉妬させるのは好きらしい。


 すると、麗央がこちらを見てふっと口を開いた。


「あ、安心しろよ、俺には本当に好きな人がいるから」

「本当に好きな人?」


 俺は半分ふざけて、誰なのかをしつこく聞いてみた。

 その瞬間、麗央は少し苛立ったような表情を見せる。


「だけど俺には振り向いてくれないよ、あの人は……だって……!」

「だって?」


 そこで麗央はハッとしたように言葉を切り、


「う、うるせえな! 早く準備しろよ! 練習始まるぞ!」


 と強引に話題を終わらせた。


 ……結局、彼が誰を好きなのかは分からないままだった。


***


 部活の帰り道、メイが「朝の公園に寄りたい」と言ったので、俺たちはそのまま公園へと向かった。


 夜の公園は静かで、街灯だけがぼんやりと照らしている。

 ベンチに並んで座ると、自然と肩が近づいた。


「ねぇ……陽向くん」


 メイが小さな声で俺を呼ぶ。隣を見ると、彼女はまっすぐ俺の目を見つめてきた。


「さっき……嫉妬してたよね。あれって……アタシのこと、少しは女として見てくれてるってことだよね?」

「え……それは……」


 言葉が詰まる。俺はどう答えればいいかわからなかった。


 そんな俺を見て、メイがそっと呟いた。


「陽向くん……もう我慢できないよ」


 そう言った瞬間、メイはゆっくり顔を近づけてきた。


 距離がゼロになる。

 次の瞬間、彼女の唇が俺の唇に触れた。


 柔らかくて、温かい。一度触れただけじゃ終わらない。

 メイはそのまま軽く口を重ね直して、もう一度キスをした。


 街灯の下、静かな夜の公園で、俺たちはしばらく言葉もなく見つめ合った。


 メイの唇が離れたあとも、俺の胸はずっと熱かった。

 彼女は俺のシャツを軽くつまんで、今にもまたキスしそうな距離で見つめてくる。


 そして、気づけば――俺は静かに彼女に身を委ねていた。


(……だめなのに)


 メイは猫だ。俺は“飼い主”で、守る側でいるべきなのに。


(こんなこと……俺は飼い主失格だ……)


 そう思ったのに、体は止まらなかった。


 メイがまたそっと触れてくる。その温かさに、心ごと引き寄せられてしまう。


「あのね……アタシ、ずっとアナタのことが好きだったんだよ……陽向くんはどうなの……?」


 メイは震える声でそう言った。今にも泣きそうな大きな瞳が、必死に俺を追いかけてくる。

 胸が痛くなるほど真剣なその表情に、俺は言葉をなくした。


 俺は――冬月さんに恋をしている。

 その気持ちは本物だ。


 だけど。


 メイが人間になってから、無邪気に笑って、素直に甘えてきて、俺を信じてくれて。

その全部が心に入り込んできて……俺は揺れていた。


(いけない……こんなの、ダメなのに)


「メ、メイ……」


 名前を呼ぶだけで精一杯だった。それ以上の答えが出せない。

 俺はただ、彼女の涙をこらえるような瞳を見つめ返すことしかできなかった。


 夜の静けさだけが、二人の間に流れていた。


――つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ