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2話 にゃ!!(お風呂は怖いの!!)

「あぁ……気持ちいいぃにゃぁ……♡」


メイが人間に転生したなんて、今でも信じられない。


けれど、壁に残った爪痕と、床に転がるメイのお気に入りのオモチャ達に囲まれたこの部屋で、こうして俺に撫でられながら膝の上で喉をゴロゴロ鳴らしている彼女を見ていると――


(また俺のところに帰ってきてくれたんだ)


その事実だけで、胸の奥から静かにあったかいものが込み上げてくる。


だけど、困ったこともある。

それはこの部屋で彼女を飼う(…いや、もう飼うなんて言えないけど)にも、母ちゃん達に見つからないようにしなきゃいけないってことだ。


“メイが人間に転生した”なんて突拍子もない話だけど、少なくとも俺は信じてる。

ただ、良識ある大人たちがそんな話を素直に信じてくれるはずもない。


「陽向くんの久しぶりの撫で撫できもちぃぃぃ……♡次は首元撫でてぇ……♡」

「うん……いいけどその前に話があるんだ」


「は、話!?」


頬を赤らめ何かを期待するような目でこちらを見つめてくるメイだけど、実はもう一つ深刻な問題がある。


――それは彼女が、全くお風呂に入ってくれないということだ。


「メイちゃん? 今日こそはお風呂入らないとさすがに……ね?」

「……い、嫌だ!! お風呂やだ!! お水こわい!!」


どうしたものか。

猫だった頃は風呂になんて入らなくても体臭なんてしなかった。

だけど今は人間、いつかは水にも慣れてもらわなきゃ困る。


俺は頭を抱えるしかなかった。


「うーん、じゃあお風呂入ったらメイちゃんの言うこと、何でも聞いてあげるよ」

「え!!? ほんと!? なら入る入る!!!」


やっと素直になってくれた。


***


俺は母親がいないタイミングを見計らい、そっとメイをお風呂場へ連れていく。


しかし、彼女は湯船に張られたお湯を見た瞬間、ブルブル震えながら俺にしがみついて爪を立てはじめた。


「い、痛いっ! 引っかくなって!」

「だってだってお水こわいんだもん!!」


するとメイが頬をぷくっと膨らませながらわがままを言い出す。


「陽向くんが一緒に入ってくれるなら入る!!」

「え!? でも……!」


そう、いくら元猫とはいえ今のメイは人間の女の子。

そんな彼女と男の俺が一緒に風呂なんか入ってるところを、もし母ちゃんが帰ってきて見られたら変な勘違いをされてしまう。


「何も恥ずかしがることないじゃん!アタシ、今まで陽向くんの裸なんて腐るほど見てきたもん!」

「そ、そうだけど……わ、わかったよ!一緒に入ろう!」


このままでは埒が明かない。

俺は観念してメイの言うことを聞いた。


彼女は少しだけ頬を赤くしながら服を脱ぎはじめる。

猫だった頃と違い、今は人間の姿。

少しだけメイに性を意識してしまう自分に思わず罪悪感を覚えてしまう。


俺は視線を逸らし、タオルやシャンプーの準備をしながらできるだけ平然を装った。


まずは軽くシャワーを浴びせるがそれでも彼女は暴れ回り、大騒ぎ。


「いやぁ!! やめてってば!!」

「ダメだよ、じっとしてないと!」


今にも泣きそうな顔でこちらを見上げるメイ。

すると、二人とも裸なのにそんなことお構いなく彼女は俺に抱きついて来た。


「……抱っこしてほしい……陽向くんに抱っこされながらじゃないと怖いよぉ………」

「……し、仕方ないな……」


メイを抱きながらシャワーを浴びせるとようやく落ち着いた。


次は体を洗わないといけない。

彼女に「自分でできる?」と聞いてみると、


「無理ぃ……できないもん!」


と小さく首を振り、またわがままを言った。


「分かったよ、俺が洗ってあげる。じゃあまずは背中から流すぞ」


ゴシゴシと、泡立てたタオルでメイの背中を洗う。


俺は毛のない白い肌に思わず目が止まった。

猫だった頃は、ふわふわの毛で覆われていたのに今は、ちゃんと“人間の女の子”の姿をしている。


……なんだか変な気分だ。


例えるならば、もう十分に大きくなった“妹”と久しぶりに一緒に風呂に入っているような、そんな妙な感覚に近いのかもしれない。


そして、俺がゴシゴシと背中を洗い続けているとメイが昔話を語り出した。


「ねぇ……覚えてる?アタシがまだ猫だった頃、よく脱衣所で陽向くんがお風呂から出てくるのを待ってたこと」

「……ああ、覚えてるよ」


メイは小さく笑うと、手を舐めながら顔を洗った。

その仕草は人間になっても猫のままだ。


「うん。お水が怖かったからお風呂場には入れなかったけど……陽向くんといつでも一緒にいたかったからドアの前で待ってたんだよ…?」


俺は思わず胸が熱くなった。

そして、そのままメイと俺は手を繋ぎ、ゆっくりと湯船へ浸かる。

さっきまで震えていたのにもう水にも慣れてきたみたいだ。


「ねぇ……陽向くんは、アタシのことどう思ってるの?」


急に真面目な声で、メイは俺の横顔を覗き込んでくる。


「どうも何も……かわいい猫だけど……?」


その答えが気に入らなかったらしい。

メイはむっと頬を膨らませて、そっぽを向いたかと思うと――


バシャッ、バシャッ!


「ちょっ!? お湯かけるなって!」

「ふんっ! アタシは猫じゃなくて、もう人間の女の子なんだからね!くらえ〜!」


そうやってふざけ合いながらも、俺たちは風呂から上がりタオルで急いで体を拭いた。

メイの髪もドライヤーでざっと乾かす。


「もっと優しくしてよ〜くしゅぐったいよ〜」

「文句言わないの。あとちょっとで母さん帰ってくるかもしれないんだから」


「むぅ……」


ドタバタしながら服を着せる。

人間になったとはいえ、まだ身の回りのことは何も自分一人でできない。


(はぁ……まだまだ猫だな……)


***


俺はメイに晩御飯を食べさせるためにとりあえずチャーハンを作った。

もぐもぐと頬張る姿が可愛い。

猫だった頃も、こうして食べる姿を眺めるのが好きだった。


「美味しい?」

「ん〜……美味しいけど、あのスティックのやつが食べたい!」


スティックのやつ……あぁ、ちゅ〜るか。

メイが亡くなったあと全部捨てちゃったんだよな。


「今はないけど、また買ってこようね」

「うん!」


甘い時間がゆっくり流れていく。

すると、メイが何かを思い出したように

ぱっと目を輝かせて俺を見つめてきた。


「ねぇ! お風呂入ったら何でも言うこと聞いてくれるんでしょ!?」

「う、うん……それで何を聞いて欲しいの?」


メイはもぞもぞと指先をいじりながら頬を赤らめて視線を落とした。


「……手、繋いで……一緒に寝たい」


小さな声。けれどはっきりとした願い。


一瞬、息が詰まった。

猫だったあの頃から変わらない――

いつもそばにいたいという純粋な彼女の気持ち。


「……わかった。じゃあ、今日は一緒に寝ようか」


メイはぱぁっと笑顔になり、俺の手をぎゅっと握った。

その温もりに、胸がまた少し熱くなった。


――つづく

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