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09 屋上の決闘

「……お仕置きが必要だな」

 

 夜の廃校、その屋上で、不敵な笑みを浮かべ近づいてくる伊刈。

 

 香凜は後ずさりしながら距離をとる。その香凜をロン毛の男と校長が、挟み込むように取り囲む。さきほどまで青い石を持っていたその手には鉄パイプが握られていた。

 さらに階段を上がってきたドレッドヘアの男も鉄パイプを手に加わる。

 

 周囲を見回す香凜に三人が近づく。その背後に立つ伊刈。夜風が香凜の髪を揺らし、頬を撫でていく。

 

(結局こうなるのか……)

 

 心でつぶやくと覚悟を決める。

 

(幸いここに多古本人はいない……)

 

 汗が滲む手で、黒い筐体を握り直すと、深く息を吸い込み、香凜は叫んだ。

 

「ロングソード!」

 

 黒いスマートフォンが発光し白い光が天に伸びる、光は刀身へと姿を変えると、月光を映し込んだ刃が静かに輝いた。黒い筐体は、薄いつばと握りやすいつかへと形を変える。柄には光る幾何学模様の溝が走り、柄巻つかまき(滑り止め)の役割を果たしていた。

 

 すぐに左右から鉄パイプが振り下ろされる。香凜は素早い動きでその間隙を縫って進む、その先にいるのは……

 

(ごめん、先生……!)

 

 刀を小さく構え、香凜が低く唱える。

 

雷切らいきり

 

 ──バチッ!

 

 電流が走り、刃から雷光がほとばしる。

 

 刀身に触れた校長の体が、がくんと崩れ落ちる。屋上に倒れた体が、ピクピクと震え、口から泡を吹いていた。

 

(えっ、やりすぎ……?)

 

 予想以上の威力に、香凜は動揺する。

 

「ちょっと多古!」

 

『出力は抑えた。だ、大丈夫だ、たぶん……』

 

 刀の状態でAI多古が焦ったように言った。

 

「たぶんって……」

 

 だが躊躇している暇はない。ロン毛の男が大きく振りかぶった鉄パイプが襲い掛かる。あわてて飛びすさる香凜の足元に鉄パイプがたたき込まれ、鈍い音が響く。

 

 続いて、ドレッドヘアの男が無言で鉄パイプを横薙ぎに振るう。隙だらけのぎこちない動き、だが刀で受けるのは無理がある。

 

 香凜が横っ飛びで躱す。大振りしたぶん、ドレッドヘアの男が体勢を崩しかけた。

 

 (ここっ!)

 

 雷光を帯びた刀を逆刃にし、素早くドレッドヘアの男の脇腹に打ち込む。電撃が走り、一瞬男が硬直、そのまま痙攣しながら倒れ伏した。

 

──!

 

 後ろから感じる気配。ロン毛の男の鉄パイプが香凜の背中に振り下ろされる。だが香凜にはわかっていた。見えていたかのように、素早く体を反転させ、小さくかわすと雷切をたたきつける。刃から迸る雷光が、ロン毛の男を包み込む。バチバチと電流が弾け、男の体が痙攣する。

 

 カラーン──力なく鉄パイプを落とし、ロン毛の男が倒れた。

 

 倒れた男を見届けることもなく刀を構え直す香凜。迷うことなく刃を返すと、その切っ先を伊刈へ向けた。

 

「ふん、つまらん小細工を……」

 

 黙って見ていた伊刈。やいばの両手をだらりと下げ近づいて来た。5メートルほどに距離を詰めた──次の瞬間。

 

 伸長した右腕、その先で光る刃と化した右手が鋭く突き出される。香凜は刀を横に払ってそれをはじいた。

 軌道を変えた伊刈の刃が、香凜の横にあったビニールプールの縁をかすめる。ビニールが一瞬で切り裂かれ、中の水が勢いよく噴き出すと、飛沫が夜気に散った。

 

 構わず続く伊刈の攻撃、しなる左腕が横なきに香凜の顔を襲う。咄嗟に体を沈めて躱すと、刃が髪の毛をかすめて通り過ぎていった。

 

 だが、攻撃は止まらない。伊刈は素早く体を寄せてくると、そこから怒涛のラッシュが始まった。

 

 右、左、右、左──続けざまに、伊刈の両腕が繰り出され、二つの刃が執拗に香凜を襲い続ける。息つく暇もなく刀で弾き返す香凜。しかも攻撃はリズミカルでない。惑わすように遅くなったり、不意を突いて早まったり。さらに角度も上、横、斜め──予測の効かない変則的な攻撃が続く。

 

 終わることのない連撃。伊刈の腕が空を切る音と、刃どうしのぶつかる金属音が響く。

 

 と、その音が一瞬止まった。だが、すぐに両肩を大きく開いた伊刈から、湾曲した腕が左右同時に香凜へ襲い掛かる。

 

 左右から香凜の体を挟みこむように飛んでくる対の刃。刀で受けきれない……香凜は体を前方へ投げ出すように飛び込んだ。

 

「くっ……!」

 

 片手で受け身を取り転がるとすぐに立ち上がる。素早く刀を構えなおし、伊刈と正対する。

 

 (どうにかしないと……)

 

 伊刈の懐に飛び込んで雷切の一撃を──と思うが、その隙が見つけられない。

 

 (何か使えるものは……)

 

 だが、香凜の思考を遮るように、伊刈が動く。右腕を大きく振りかぶり、勢いをつけ放った。空を切る刃が真正面から香凜に迫る。顔を狙って来たその刃を、振り下ろした袈裟切りで叩き落す。

 

 キィンッ!

 

 刃と刃がぶつかり、甲高い音。

 

 だが──。

 

「えっ……?」

 

 叩き落した刃、その刃の背後に隠れていた、左腕の刃が襲ってきた。

 

 刀は間に合わない。香凜にできること……彼女は咄嗟に顔を反らした。

 

 ──ヒュッ。

 

 鋭い風切り音とともに、香凜の頬をかすめる。血が一筋、顎へと伝い落ちた。

  

 (やばい、やられる……)

 

 自らの皮膚で、刃の冷たさと、生温い血の感触を同時に感じ、抑え込んでいた恐怖が体全体に広がっていく。

 

 そんな香凜の顔色を読んだのか、伊刈が静かに、だが勝ち誇ったように言った。

 

「そろそろ終わりにしようか……」

 

 言い返す言葉を発することもできず、ただ荒い呼吸を繰り返す香凜。手にした刀を握りなおす。だがその手に力は入らず、無意識にじりじりと後退していく。

 香凜の背後に屋上のフェンスが迫っていた。

 

「行くぞ!」

 

 余裕の表れか、香凜への威嚇か、伊刈は自ら宣言して攻撃してきた。

 

 右足を大きく踏み出すと、ひきつけた両腕を左右同時に香凜へ向け放った。うなりを上げ伸びる両腕。

 

──!?

 

 その軌道は真っすぐではなかった。刃の両手が螺旋を描くようにからみあい、香凜に迫って来た。不規則な軌道、周囲に響く不気味な風切り音──

 

(ダメ、目で追いきれない……)

 

 それでも香凜が半ば無意識に立てた刀の刃が、飛来する二つの刃を受ける。すぐに刀身を通して伝わる衝撃、香凜はそのまま後方へ吹き飛んだ。

 

「っ、くああっ!」

 

 視界がグルンと回転。次の瞬間──背中からフェンスへと叩きつけられた。

 

 ガシャァァンッ!!

 

 金網が大きく歪み、乱暴な音を立て軋む。そのままフェンスの反動で押し戻された香凜の体は、一度通気ダクトの上でバウンドすると、屋上の床に転がり落ちた。

 

 そのまま動かない香凜。スカートから伸びた足が白く光り、無造作に横たわっている。その傍らに転がる刀──スマートソード。

 

 5メートルほど先で、その姿を満足げに見下ろす伊刈。ゆっくり右腕を伸ばすと、ぐるぐると円を描くように回し始めた。刃と化した右手が空気を裂き、遠心力で唸りを上げる。

 

 ヒュン、ヒュン、ヒュン──

 

「終わりだ……」

 

 勢いのついた右腕を解き放つ。やいばの手が弾丸のように飛ぶ。

 

 ──ガッ。

 

 乾いた音を立てて、伊刈の刃は香凜の胸を貫通し、そのままコンクリートへ深々と突き刺さった。鋭い斬撃。ピクリとも動かない香凜。血飛沫もあがらず、悲鳴さえもなかった。

 

「バカな小娘が」

 

 薄ら笑いを浮かべる伊刈が、刺さった刃を抜いた、その瞬間。

 

「……ん?」

 

 香凜の体が、ノイズを走らせながら淡く揺らぎ、ふっと消えた。まるで、モニターの電源を切ったかのように……そして、その場には、えぐられたような穴の跡だけが残った。

 

「何っ……?」

 

 伊刈の表情から笑みが消える。彼が刺し貫いたのは、実体ではなく、スマートソードが投影した虚像ホログラム

 

 そして、実体である香凜は──通気ダクトの後ろ、苦痛に顔を歪めながら立ち上がる彼女の姿がそこにあった。


お読みいただきありがとうございます!

10話目以降、絶賛執筆中です…φ(。。;)

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