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06 訪問者

 翌朝、カーテンから差し込む光を受け、ベッドから体を起こす香凜。昨夜はなかなか寝付けられず、少し頭がボーっとしている。

 

 刀に変化するスマートフォン、やいばの手で襲ってきた伊刈、さらにAI多古から聞かされた荒唐無稽な宇宙人たちの話。昨夜起こった全ては、皆おかしな夢を見ていただけなのでは……そんな錯覚すら覚える。

 

 だが、机の上に横たわる星のマークが描かれた黒い筐体──昨夜の出来事が夢ではないと、現実を突きつけてくる。

 

 その黒い筐体、スマートソードを黙って見つめる香凜。AI多古は眠っているかのうように、静かなままだ。

 

『手伝ってくれないか……』

 

 昨夜の彼の問いかけに、最終的な答えは出せずにいた。

 

 それに、伊刈がなぜ自分を、というかスマートソードを狙ったのか? 結局AI多古にもわからないとのことだった。

 

(一体どうしたら……?)

 

 香凜としては、この面倒な状況からさっさと解放されたい! 剣道中心の生活に戻りたい! ただそれだけだ。

 もし今日、学校へ行って伊刈に会ったら、あの黒い筐体をヤツに投げつけ「それ持って、さっさとここ(地球)から出て行け!」そう言ってやれば少しはすっきりするかもしれない。

 

  だが、それで「はい。わかりました」と出ていく──そんな話でもないだろう……

 

「はぁ……」

 

 陽キャな香凜には珍しく、学校へ行くのが憂鬱になった。

 

 

 諦めたように布団から抜け出し、リビングへ向かうと、母親が誰かと電話をしている。

 

「はい、はい。承知しました。よろしくお願いします。はい、失礼します」

 

 そう言って電話を切った母が眉をひそめて言った。

 

「あんた大変よ、担任の先生が行方不明になったって」

 

(担任? 伊刈が消えた……)

 

 驚いた顔の香凜を見て、母が心配そうな顔で続ける。

 

「あんたの高校大丈夫なの? とにかくしばらく休校ですって」

 

「アタシに大丈夫って聞かれても……」

 

 曖昧に言葉を返しながら、昨日の伊刈の狼藉を考えればいなくもなるかと納得する……結局、部活どころか学校まで休みになってしまった。

 

 

 部屋に戻り、AI多古に伊刈の失踪を伝える。

 

伊刈スクルヴァのやつ、何を考えているのか……』

 

 八本ある足の二本で腕組み(足組み?)をするタコ型宇宙人姿のAI多古。

 ちなみに今日はホログラムではなく、画面に映るアバター姿になっていた。

 彼曰く「ホログラムは電力消費が激しいから」との理由らしい。ビジュアルが緑色のタコ星人であることに変わりはない。

 

 香凜は黙って不思議なポーズをとるAI多古を見守っていると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。対応している母親の声が続き、しばらくして──

 

「香凜、警察の人が学校のことで話聞きたいって」

 

 母親が不安げな顔で香凜に伝えた。

 

 玄関に向かうとグレーのスーツに、黒いネクタイ。地味な恰好をした男二人が立っていた。

 

 一人は、おかっぱ頭の中年、太い眉に大きなぎょろ目、全体的に濃ゆい顔。もう一人は、二十代、色白で若手アイドルばりのあっさり顔のイケメン。ソース顔としょうゆ顔の癖つよコンビが並んでいる。

 

 鈴木と名乗るイケメンがバッジのついた手帳をチラッと見せて言った。

 

「警察の方から来ました」

 

 さらに牛尾と名乗ったおかっぱ頭の中年がぎょろりとした目で続ける。

 

「失踪した生徒さんについて調べております、ご協力を」

 

「はあ……」

 

 困惑する香凜に、おかっぱ頭の牛尾が自ら「立ち話もなんですから」と言いだし香凜を近くの公園へ誘った。

 

 仕方なく、念のため──スマートソードをポケットに忍ばせ、二人についていく。

 

 公園のベンチに座り、牛尾と鈴木、二人の男に聞かれたこととは──

 多古と龍崎、二人との関係、仲はよかったのか? さらに、二人を最後に見たのは? どんな様子だったか? など。

 

 同級生であること以外の関係性は無い。そして、昨日学校の廊下で見かけたこと、不安げに話していた二人の様子を伝えた。

 

「えーと、他に何か気になったことはなかったかな?」

 

 イケメンの鈴木が柔らかな笑顔で聞いた。

 

 一瞬、躊躇する香凜。だが、『実は……多古(のAI)が自分は宇宙人であると告白しました』と、口にする勇気は無かった。

 

「さあ、特には……」

 

 小さく答える香凜。

 

「本当に? 何も?」

 

 おかっぱ頭の牛尾が目をぐりぐりさせて尋ねる。濃い顔が近づき圧が強い。

 

「え、ええ」

 

 彼は疑り深い目でしばらくこちら見た後──

 

「そうですか……わかりました。ご協力感謝します。それと、念のため──」

 

 そう言って胸元から一枚の紙片を取り出し、

 

「何か気づいた点があればこちらに」

 

 そう告げて香凜に一枚の名刺を渡して帰っていった。

 

「ふえーっ」

 

 癖つよコンビから解放され安堵の息を吐く香凜。ポケットから黒い筐体を取り出し小声で言った。

 

「……どう思う?」

 

『悪いが警察にどうこうできる問題とは思えない』

 

 画面に映るタコ型宇宙人が答える。

 

「まあ、そうだよねー」

 

 返事を返す香凜、指先で持て余すように持っていた名刺を、重さをおしはかるかのように掌に乗せる。

 

 その時、不意に風が吹き抜けた。

 

「あっ!」

 

 名刺が手から離れ、ふわりと宙へ舞い上がる。くるくると回転しながら、頭上を越えて、空の方へ吸い込まれるように消えていった。

 

 しばらく飛んで行った方を見上げる香凜。

 

「まっ、しかたないか……」

 

 そうつぶやくと、名刺の存在はすぐに頭の外へ追いやられた。

 

『と、とにかく』

 

 AI多古が話を引き戻す。

 

『この問題は我々でどうにかしないと』

 

(我々……?)

 

 香凜は思わず心の中で復唱する。

 

『多古本人、龍崎、伊刈……誰でもいいから見つけないと』

 

「で、当てはあるの?」

 

『──無い』

 

「はぁ……」

 

 あきれ顔を浮かべる香凜。だがそんな彼女に構わずAI多古が声を上げる。

 

『今はとにかく動かないと!』

 

 そう言った途端、黒い筐体の一部が突起し、四方向へ伸びていく。伸びた先で葉のように二つに枝分かれし、ひねりが入りプロペラ状に。またたく間にドローンの姿に変形していった。

 

「嘘でしょ!? なんでもありか! 一体どんな仕組みよ……」

 

『スマートソードは、地球の技術と我々の技術の融合フュージョンだからな』

 

 画面の中のAI多古があっさりと答える。

 

「技術? どう見てもオタクファンタジーでしょ……」

 

 香凜のツッコミをスルーして、ドローンはプロペラを回転させふわりと浮かび上がる。

 

 そのまま飛んでいくかと思われたその時、ドローンから電話の呼び出し音が響いた。

 

 ドローンがスマートフォンの形に戻り、香凜の手の中に落ちてきた。黒い画面に、かけてきた相手の名前が表示される──龍崎だった。

 

 香凜は通話ボタンを押した。まっ先にAI多古が声を掛ける。

 

『無事か、ドラケス?』

 

「おぉ、オクタンも無事だったか!」

 

『いや、ボクはオクタン本人ではない。スマートソードに搭載されたAIだ』

 

「AI? そうか……すると、やはり本人はやつに?」

 

『やつ? スクルヴァのことか!』

 

「龍崎、伊刈の居場所知ってるの?」

 

 香凜もたまらず気になることを聞いた。

 

「その声は……魚住? なぜ君が?」

 

『そんなことより、ドラケス、昨日何があったんだ?』

 

 各々の呼び名が飛び交い、紛らわしい三人の会話を整理すると──

 

 多古オクタン龍崎ドラケスは、昨日学校の体育館裏で、伊刈スクルヴァに襲われた。龍崎は負傷し、多古は伊刈にさらわれたらしい。龍崎は傷を癒すため海に潜っていたので連絡がつかなかったのだ。

 

 龍崎の無事こそ確認できたが、依然多古本人は行方不明のまま。その龍崎は、治療の為再度海に潜るとのことだった。そして、電話の最後に言った。

 

「校長が伊刈に操られている可能性がある……」

 

 驚く香凜とAI多古。

 

「昨日、俺たちを体育館裏に呼んだのは校長なんだ……それでつい油断した。おそらく校長も伊刈の手に落ちて……とにかく学校は危険だ、気をつけろ」

 

 そう言って電話を切った。

 

 話を終えて開口一番、香凜が毒づいた。

 

「たく……どこの世界に体育館裏へ生徒を呼び出す校長がいるのよ! 怪しいでしょう、どう考えても」

 

『そうなのか? 日本の学校では、大事な話は体育館裏でするものだろう?』

 

 AI多古が真顔で返す。

 

「は? あんた本気で言ってるの? まったく……ポンコツAIか!」

 

『ポ、ポンコツ!?』

 

 画面の中のタコ星人が、目を見開いた。

 

「そうよ、一体今まで何を学習してきたのよ」

 

『いや、今のはあくまで多古本人の考えをトレースしての発言であって……』

 

「ふーん。じゃあポンコツなのはAIじゃなく、多古本人ってこと?」

 

『えっ……?』

 

「そういうこと?」

 

『いや、それは……』

 

 画面の中のタコ型宇宙人が変な汗をかき始める……と、突然足の一つを握り拳にして、別の足をトンと叩いた。そう、まるで、何か閃いたかのように……

 

「そ、そんなことより、これは使えるかもしれない。校長の居場所が分かれば、伊刈──スクルヴァの居場所も知れるかもしれない」

 

「校長の居場所ねぇ……自宅なら知ってるけど」

 

『本当か!』

 

 香凜の言葉に、AI多古が飛びつく。

 

「校長、高嶋先生の家は、この辺の名士として有名だから」

 

『場所を教えてくれ』

 

 そう言って香凜から住所を確認すると再びドローンに変身する。すぐにプロペラが回転を始め、ふわりと浮き上がった。そのまま高度を上げていくと、やがて住宅街の屋根の向こうへ消えていった。

 

「はぁ…」

 

 ため息をつき、飛び立つドローンを見送った香凜。

 

「……まあ、私には関係ないか」

 

 ぽつりとつぶやき、そのまま自宅へ足を向けた。


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