05 タコの告白
「あっひゃひゃひゃひゃっ!」
香凜はベッドの上で腹を抱え、涙を流しながら転がり回っていた。
「多古がタコ? 何それ、笑うしかないんですけど! しかもそのビジュアル……ベタすぎでしょ、あんた!」
ホログラムで浮かび上がった緑色のタコ型宇宙人を見て、香凜の我慢も限界だった。
『笑いたければ笑えばいいさ……』
対照的に、つまらなそうな顔で、ホログラムのタコ星人が答える。
『まあ、ボクから見れば君だって“服を着たサル”だけどね』
「なにぃぃぃ!」
香凜がむくりと起き上がる。
「言ったなコラ!」
『言ったけど、何か?』
服を着たサルと緑色のタコのにらみ合い。しかしすぐに香凜はため息をつき、ベッドの上であぐらを組み直した。
「でもさー……刀のこととか、このホログラムとか、あんたの話、信じてあげてもいい気がしてきたわ」
『やっとか……まあ、その上から目線なのは気になるけど』
そう言うと、ホログラムのAI多古はゆっくりと語り始めた。自分の正体について。彼の告白、その話をまとめると……
この緑色のタコ型宇宙人、名前はオクトン。
マリッサと言う星から来た、魚類型宇宙生命体。マリッサ星では研究者をしており、地球には生態及び技術調査のために潜伏していたらしい。
マリッサ星人は強い擬態能力を持ち、人間やその他の生物に成り済ますことが可能なのだとか。つまり、香凜のクラスメート「多古優作」は、オクトンが地球の高校生に擬態した姿だったのだ。
そしてあの黒服眼鏡──伊刈。
彼の正体は、イカ型宇宙人スクルヴァ。母星に不満を持つ一団の一人(一匹?)として、マリッサ星を抜け出し、最近、地球へ飛来して来たらしい。
さらに、あの龍崎も──。
彼は龍型のマリッサ星人で名はドラケス。オクトンのボディガードとして地球に潜伏していたとのことであった……
そこまでを何とか聞き取り、
「じょ、情報多すぎ……もう無理」
額に手を当てうなだれる香凜。
「ていうか、うちの学校どんだけ宇宙人いんのよ……」
あきれた顔でつぶやく。そして小首をかしげ続けた。
「それにしても……タコ型→多古、イカ型→伊刈、龍型→龍崎って……マジメか!」
『今そこはいいだろ!』
香凜の指摘に対し、興奮気味に答えるAI多古。
「で、本物の多古……オクトン? は今どこにいるの?」
『それが、わからないんだ。だが、スクルヴァ──伊刈のやつが関わっているのは間違いない。もともと暴力的で支配欲が強いヤツだった。きっと、よからぬことを企んでるんだ』
だからこそ、多古は万一に備え、自衛のために自ら開発したスマートソードを携帯していたのだという。
「それならあんた、なんで多古本人と一緒にいなかったのよ?」
『それは……矢木と富田のせいだよ。教室でいたずらされて、ごみ箱の下に隠されたんだ』
「はぁ~……あいつらほんとロクなことしないわねー」
二人の名前を聞いて、顔をしかめる香凜。
「それにしても……」
先ほどの公園での伊刈の凶行を思い出し香凜がつぶやく。
「伊刈……何がしたいのあいつ? それにあの気持ち悪い手──」
香凜の脳裏に、暗闇で切りかかってきたあの鋭い刃の記憶がよみがえる。
『あれはスクルヴァの能力だ。やつの両手は高度な変態機能を持っている』
「ええ、たしかにあいつは変態だわ」
『いや、そう言う意味では……』
「え?」
『いやなんでもない……』
AI多古のホログラムが気を取り直して続けた。
『伊刈の手、というか“触手”は、先端を刃物のように変形させ攻撃できる。さらに、その触手から“ゲソマター”という物質を注入し、他者を操る能力もある』
「ゲソマター……」
ネーミングが気になり口をはさむ香凜。
『どうした?』
「いや別に……」
香凜はそれ以上、考えるのをやめた。AI多古が話を続ける。
『ゲソマターは、スクルヴァの体液の一種だ。注入された者は、一時的に伊刈の意のままに動かされる。公園にいたナイフの男たちも恐らく……』
「きもっ! 考えるだけで、もう無理無理!」
身もだえしながら、嫌悪感を拭うように頭を振る香凜。
「けど……イカのくせに手を使うなんて生意気ね」
『……ん?』
「普通イカは“足”でしょ?」
『いや、地球のイカにも“触腕”ってのが二本ある。10本足と思われがちだが、実際は8本足だ』
「まじで?」
『ああ、まじだ』
そう言った後、小さくため息をついた。心なしか、悔しそうな表情を見せるホログラムのAI多古。
「んっ?」
香凜の問いかけに小さく答える。
『ボクには無いからな、手が……8本全部、足だから……』
自分の足で足を指さす(足さす?)タコ星人。
「はあ……」
『ま、まあ、器用さでは負けないけどな、全く!』
「……」
タコ星人のイカ星人に対する複雑な思い、言うなれば地球外コンプレックス。自分では理解し得ぬとあきらめた香凜は、気を取り直すように聞いた。
「で、ドラケスだっけ? 龍崎とは連絡取れないの?」
『何度も連絡しているんだが、繋がらないんだ……』
「ふぅー、じゃあ、どうするのよ。これから」
『ボク本体──多古と、龍崎の行方を突き止めて、伊刈の企みを暴く。このままだと何か恐ろしいことが起こりそうな気がする……』
そう言うと彼は一旦言葉を切り、間をおいて続けた。
『で……そのー、魚住、できれば協力してもらえないだろうか?』
上目遣いをしてこちらを見る緑色のタコ、香凜は物珍しそうにその姿をまじまじと見ながら言った。
「断る」
『なっ!?』
AI多古が目を見開き驚愕の表情を浮かべる。
「当たり前でしょ。勝手に地球来て、勝手に潜伏して、その上問題まで起こしておいて何言ってんのよ。自分たちでどうにかしなさいよ!」
AI多古を睨みながら畳みかけるように続ける。
「あんたの星にも警察的なのはあるんでしょ?」
『もちろん母星には連絡してある。彼らの飛来を確認して、すぐに。ただ……』
「ただ?」
『到着するのは──早くて八年後だ』
「はちねん!? おっそ!」
『そうは言うが、地球の技術なら、来るのに数万年はかかるんだぞ……』
「んなこと、知るか!」
『なあ、頼むよ……』
「アタシは、剣道一直線なの! 部活の邪魔される筋合いはないし、あんたに義理立てする理由もない!」
『で、でも……このままだと、部活の再開もいつになるかわからないぞ?』
「うっ……」
『それに、スマートソードを持ってることがバレた今、また襲われる可能性だって……』
「それよ! なんでアタシが襲われなきゃならないのよ!」
公園での出来事を思い出し、香凜の怒りが再燃する。
「とっとと捨てたほうがいいかしら、コレ!」
そういって、ホログラムのAI多古、そしてその先にある黒い筐体を指さした。
香凜の剣幕を見て、タコ型宇宙人が一回り小さくなって言った。
『す、少し落ち着こうか、魚住』
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※次回更新11/28(金)予定




