04 多古の告白
「どういうことか、きちんと説明して!」
夜の公園で伊刈に襲われながらも、無事に自宅に戻った香凜。自室のベッドの上で、謎の黒いスマートフォンを睨みつけ、声を荒げた。
スマートフォンは充電ケーブルが差さったまま、真っ暗な画面で沈黙している。家に着くなり「まずは水を一杯」のような口ぶりで、「まずは一度充電を」と言葉を発し、それきり黙り込んでいた。
「ちょっと! 聞いてるの?」
香凜は人差し指をツンツンとスマートフォンに突き立てた。
『ふー……どこから話したものか──』
黒い筐体が重たい口を開いた。
「まず、あんたが何者か、そこからよ!」
香凜は腕を組み、問いただす。
「あんた、多古なの?」
『んー、なんと答えればいいのか……多古かと言われれば、イエスであって、ノーだ』
「はぁ?」
香凜は眉をひそめた。
スマートフォンから聞こえる多古の声は、淡々とした口調で続けた。
『意識パターンと記憶、すなわち“ボク”という存在の構成要素は、おおむね元の多古優作と一致している』
「……どういうこと?」
『つまり、ボクは“多古優作という存在の、電子的再現体”ということになる』
「ちゃんと、わかるように言え!」
香凜が先ほどより強くスマートフォンをつつく。
『つ、つまり、“多古の人格を持ったAI”だ。多古本人とは異なるが、本人の意志は引き継いでいる』
「めんどくさいなぁ。ようするに、ほぼ多古ってことでいいのね?」
『いや、正確に言うなら……』
「いいのね!」
『ま、まあ、問題ないだろう』
「で、さっきのは? なんでスマホが刀に化けんのよ」
『それはこのスマートフォンの機能だ。──厳密に言えばこれは、スマホではない。通信機能付きでAI搭載の電脳刀剣、スマートソードなのだ!』
ドヤ顔ならぬドヤ声、自慢げに響くAI多古の声に、香凜はあきれて一瞬言葉を失った。
「オタクここに極まれり……ね。にしても……こんなもの普通の高校生に作れるものなの?」
黒い筐体──スマートソードが再び沈黙した。
「ちょっと!」
香凜はつつく手を拳に変え、振り上げながら言う。
「もしもーし」
『わかった、わかった』
観念したようにAI多古の声が言った。
『実はボク、と言うか、ボクの本体、多古優作は……宇宙人なんだ……』
「はぁー? 何だって? ふざけるのもいい加減にしろ!!」
香凜は黒い筐体をつかみ、今度は二つに折ろうとする。
『待て待て! この筐体に二つ折りの機能は実装されていないぞ』
「黙れ! あんたのヨタ話に付き合ってる暇はない!」
大声で返す香凜、その時。
──ダンッ!
突然、部屋のドアが乱暴に開かれた。
「うるさいっ!」
弟の孝之が、興奮した様子で香凜を睨みつけていた。
「あっ、えーと、ごめんごめん……」
香凜は照れ笑いを浮かべ、謝った。
ぶすっとした顔で部屋を見回す隆之。
「てか、さっきから誰と話してんだ?」
「ん? えーと、えーあい……かな?」
香凜は手にした黒い筐体を見ながら言った。
隆之は呆れた顔で言い放つ。
「アネキ~、そろそろボーイフレンドの一人ぐらい作ったほうがいいんじゃないか?」
「うるさいっ! 余計なお世話だ!」
「はぁ? うるさいのはそっちだろ!」
「えっ、まあ……そうか」
弟に一本取られ、赤くなりながら頭を掻く。
「とにかく勉強の邪魔すんなよ」
そう言って隆之はドアを閉めた。
ドアへ向かってべーっと舌を出す香凜。そして、ため息をつくと、黒い筐体に向かって話を続けた。
「あんたが筋金入りのアニオタなのはわかったから、真面目に話して」
『何度も言わせるな、ボクは真面目だ』
「いやだから~」
しばらく押し問答が続いた後、AI多古はため息交じりに言った。
『仕方がない……』
そう言うと黒い筐体、スマートソードが空中にホログラムを映し出す。
淡い光の中に浮かび上がったのは──
丸い頭に、くるくる動く目、そしてぬるりとした足が生えた──
タコ型の宇宙人だった。




