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02 失踪者

 放課後、剣道部の練習のため体育館へ向かう香凜。廊下を歩いていると、多古が隣のクラスの龍崎と話しているのを見かけた。


 多古と龍崎はアニメ同好会の仲間で、確か中学も一緒だったと聞いたことがある。体が大きく無骨に見える龍崎と小柄な多古が顔を寄せ合い話し込む様子は、どこかシュールに映る。


 だが二人とも顔色が悪く、どこか怯えたような様子。


(あのイカれ教師、伊刈の話でもしているのかな……)


 気持ちはわからないでもない。自分だって明日からのことを考えると憂鬱だ。だが、


(今は、剣道に集中!)


 どんよりする気持ちを振り払いながら、二人の横を通り過ぎ、香凜は体育館へ向かった。


 * * *


 体育館に響く、竹刀を打ち合う音。真剣に打ち合う剣道部員たちの気迫が、面越しにこぼれ、場は緊張感に満ちていた。


 香凜は二年生のエース、白井と立ち合っていた。中学時代は全国大会にも出場し、一年生では敵なしの香凜だが、二年生の白井には一度も勝ったことがない。


 小柄な香凜が得意のスピードを活かして竹刀を打ち込むが、女性ながらすらりと長身の白井に長い手足を器用に使われ、攻撃はことごとく躱され、いなされてしまう。


(今日こそ一本!)


 間合いを計るように体を揺らし、静かに息を整える。両手に構えた竹刀が、小刻みに上下する。面で隠れて見えない白井の呼吸を探る……


(──今っ!)


 弾かれたように突進すると、白井の小手を狙う。

 しかし、一瞬早く手首を返した白井の竹刀に、香凜の打ち込みはいなされる。流れそうになる体、なんとか踏みとどまる。だが、生じた隙にリーチの長い白井の剣が振り下ろされる。ビシッと響く重たい剣戟を受け、慌てて距離を取る。


 そんなことが繰り返されるうちに、無理して打ちに行った隙をつかれ、見事に面を取られて膝をついた。


「うぐぐぐ……」


 すぐに立ち上がると、香凜は言った。


「もう一本お願いします!」


 そして再び白井の前に構えを取った。



 練習終わり、他の一年生が体育館の床を皆でモップ掛けする中、我関せずと、片隅で竹刀を手にイメージトレーニングをする香凜。


(今日も勝てなかった……)


 白井との打ち合いを思い返す。入部当時は自信に満ちていた香凜。二年生ぐらいなら負けないと思っていたのだが——一人、竹刀を振り続けた。


 * * *


 翌朝、いつものように教室に足を踏み入れた香凜。だが、どこか様子がおかしい。生徒たちが顔を寄せ合い、ざわざわと騒いでいる。


「多古と龍崎、いなくなったって」


「まじで? 二人とも?」


「昨日から家に帰ってないらしいよ」


(多古と龍崎が……?)


 香凜の脳裏に、昨日廊下で見かけた二人の姿がよみがえる。何やら深刻そうな表情を浮かべていた二人……失踪と何か関係あるんだろうか? どちらも特に問題を起こすような生徒には思えないが……授業が始まっても気になって香凜のもやもやは晴れなかった。


 前日発覚した教師の負傷に続く、今回の生徒の失踪。協議の結果、学校は午前中のみとなり、部活動も全面中止が発表された。


 終業の知らせを受け、慌ただしく帰り支度をする香凜。そこへクラスメートの一人、藤倉奈美が近づいてくると、ささやいた。


「チャン~ス到来!」


「えっ?」


「せっかくの機会だし、買い物に行こうよ♪」


 奈美の提案に、思案顔を浮かべる香凜。


「剣道ばかりじゃ恋もできないぞ~」


「いや、アタシは別に……」


「いいから、ほら行くよ!」


 有無を言わさず香凜を立たせると、教室を出ていこうとする奈美。慌ててその背中を追い廊下へ出ようとした時、ゴミ箱の影で何かが光るのを見つけた。


「……何これ?」


 よく見ると、黒い筐体のスマートフォンが一つ転がっていた。拾い上げると、背面に妙なマークが描かれていることに気づく。


 輪っかのある星──土星のようにも見えるが、どこか違う。白い輪に囲まれ、中心の星は青と紫のグラデーション、綺麗だがどこか寒々しい色合い。そんなマークがスマートフォンの背面で冷たく輝いていた。


 どこかで見たような気が──


「……これ、多古のじゃ?」


 確か彼が手にしていたそれを見て、なんかアニメオタクっぽいスマートフォンだと思った記憶がある。


(先生に届けた方がいいかな?)


「かりーん!」


 廊下から催促する奈美の声。


 拾い上げたスマートフォンを持って教室を出た時、廊下をこちらに向かって歩いてくる伊刈の姿が目に入った。


(あいつと関わるのはやめとこう……)


 反射的にスマートフォンをポケットにしまうと奈美の後を追う香凜。


「失礼します」


 奈美と一緒に伊刈へ挨拶をし、男の横を通り過ぎる。気のせいか、伊刈の視線を背中に感じた。振り返るのも怖く、奈美の手をとると香凜は足を速めた。


「おっ! 香凜、急に張り切ってどうした?」


 奈美の問いかけに返事を返さず、香凜は急ぎ足でその場を離れた。


お読みいただきありがとうございます!

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