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河童

作者: ラベンダー


夏休み、俺はひとりでおばあちゃんの家に来ている。


おばあちゃんの家は森の中にあり、自然が豊かで空気もうまい。今日は散歩に出かけて、近くの川まで足を伸ばした。


ふと川を見下ろすと、何かがいた。人……か? いや、体が緑色だ。なんだ? 怖い。河童か? 近づいてみないとわからない。怖いのに、なぜか足が前に進んでいた。


目が合った。やっぱり——河童だった。


「よっ!」とそいつが話しかけてきた。しゃべれるのか? いや、妖怪なら日本語くらい話してもおかしくないか。


「おっす! お前、河童か?」俺が尋ねると、


「河童じゃねーよ!」と怒鳴るように返ってきた。


なんだ、河童じゃないのか。ちょっと残念だった。不思議な出会いを期待していたのに。


「人間なのか?」


「人間だわ!」と“河童(仮)”が答える。


……怖かった。人間のほうがよほど怖い。妖怪であってほしかった。


「何をガッカリしてんだよ!」とその“自称人間”は言った。


よく見ると、そいつはおじさんだった。禿げていて、しかも落ち武者のような円形脱毛。さらに裸。顔も体も緑なのはペンキでもかぶったのか?


突然、おじさんは俺の手を引いて川に入った。


なんで?


俺とおじさんは川の中を泳ぐ。水中で、おじさんは変なジェスチャーをしている。意味がわからない。必死に何かを伝えようとしているようだが、伝わってこない。


それでも俺もなんとか応えようとした。


すると、おじさんが急に苦しみ出し、溺れかけて川から飛び出した。俺も慌てて後に続く。


「シーッ」と、おじさんは人差し指を口に当てた。静かにしろ、という意味らしい。でもそれより、まず服を着てほしい。川の中では下半身が丸見えだった。ジェスチャーが失敗した原因はきっとこれだ。


そのとき、森の中から人の声が聞こえた。鎧を着た人たちが現れた。何かの撮影か? 俺は有名人を探したけど、見つからなかった。


すると、反対側からも鎧の武者たちが現れた。いったい何が起きるんだ?


「であえ! であえ!」と、リーダーらしき人物が叫び、戦が始まった。弓も飛んでる。


俺はそのまま見物しようとした——が、おじさんが俺の手をつかんで走り出した。その顔が、異様に真剣だった。


何が起きているのか、まったくわからないまま、俺たちはダッシュで逃げた。


——これが可愛い女の子だったらよかったのに、と俺は思った。


だいぶ川から離れたところで、おじさんがつぶやいた。


「あれはヤバいな。戦が始まっちまったらしい」


「え? 撮影じゃないんですか?」


「はぁ!? んなわけねぇだろ! 本物の戦だよ!」


「この時代に……戦……?」


「そうだよ、戦国時代だもん」


「なるほど、戦国時代なら、まあ……」


「な?」


「はい」——この人、虚言癖があるかもしれない。


「やばいな……」


「何がやばいんですか?」


「俺は戻れたけど、お前はあっちの時代に戻らないといけないんだよな」


「はぁ」


「“はぁ”じゃねぇよ、殺すぞ!」——おじさんは怒った。やっぱり、人間は怖い。


「もう一回、川まで戻るぞ」


そう言って、おじさんはまた歩き始めた。


元の川に戻ると、そこには大量の死体。おじさんはゲロっていた。俺は映画で見慣れてるので、割と平気だった。


ふたりで再び川に入る。


俺とおじさんは川の中を泳いだ。


前回もそうだったが、浅いはずの川なのに、底がないような不思議な感覚がした。


おじさんはまた変なジェスチャーをし始める。これはもしかすると何かの儀式なのかもしれない、そう思ったそのとき——


おじさんのお尻から泡が出た。


絶対、おならだ。最悪だ。


俺は川から出ようとしたが、おじさんが俺の足を引っ張った。


気を失った。



そういえば、どうしておじさんは川の中に入っても身体のペンキが落ちないんだ?特殊なペンキなのか?


目が覚めると、俺は川の岸にいた。あれほどあった死体は跡形もなく消えていた。


「おじさん、あんた河童だろ」


「は? 人だわ!」


「じゃあ、身体が緑色なのは?」


「それは……」


「ばれないと思ったのか?」


「ごめん……俺、落ち武者です!」


「嘘つけ」


——やっぱり、河童だった。


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