1-3. 梓恩、殿下の朝食をつくる
「温かい……っ! 美味である!」
「おそれいります。こちらは薏苡仁と鶏肉、山芋のお粥で 「温かい……っ!」
「白ゴマと浅葱を上に散らし 「美味である! 温かい……っ! おかわり!」
「はい、どうぞ」
「うむ。温かい……っ!」
わたしの作った朝食に、巽龍君は涙ぐみそうな勢いで感激してくれた。感激の内容としては、味1割、温度9割ってところか。
料理の説明まで聞いてくれる余裕は、ないみたい…… まあ、いっか。
よぶんなことを考えず、出されたものを美味しくいただく…… これも養生ですよね!
用意したお粥は、あっというまに空っぽになった。さすが食べ盛りだ。
「ふう。温かかった……!」
「よろしゅうございました。温かい食べものは気血の巡りを良くしますので、養生の考えかたにも適っております」
「養生……?」
「はい。養生とは、人が本来、天と父母より与えられた寿命を楽しく生ききるための術なのでございます…… それはさておき、甜点に季節の梨のはちみつ蒸しを用意しておりますが」
「えっ。これだけでもう甜…… 「食べりゅううっ!」
なにか言いかけた寧凛を遮って、巽龍君が叫んだ。
顔が期待でキラキラ輝いている。ああ、かわいい。めっちゃ癒される。
「―― 実に美味であった! 温かかった!」
とろりとした黄金色に輝く、梨の蒸し物 ―― 芯をくりぬき、なかに干しブドウと生姜とハチミツをつめてやわらかくなるまで蒸したおしゃれデザート。これも、すんなり完食。
不自由なく育っただろうに、巽龍君は好き嫌いがないみたい ―― 作りがいがあるな。
「この調子で昼食もよろしく頼むぞ! 梓恩!」
「かしこまりました」
朝食が巽龍君のお気に召したようで、まずはよかった……
だけど、納得いってなさそうなひとが、ひとり。
皇太子づきのエリート宦官、寧凛さんである。
「ちょっと、梓恩さん、お話が」
―― きた。
わたしが昼食の仕込みを始めようとしたとき、寧凛が背後から話しかけてきた。深刻そうだ。
「どうされました?」
振り返れば目に飛び込む、絶世の美少女顔…… 本人は真剣なのに、ごめん。眼福でしかなくて。
「失礼ですが、作業しながらでもかまいませんか、寧凛さん?」
「…… まあ、いいでしょう」
「で、なんでしょうか?」
「えーとですね、朝食ですが、あれでは皇太子殿下のお食事としては、貧しすぎるかと」
「そうですか? 殿下は満足されていたようですが」
「あれは温かかったからでしょう! これまでは坊っちゃまのご朝食は、前菜2種、湯―― これはツバメの巣かフカヒレ。そして肉や珍味をふんだんに使った主菜5種、それから主食と甜点だったんですよ!?」
「それが犯人ですよ」
「…… は?」
眉間にシワを寄せる寧凛。
わたしは包丁を置き、ビシリ、と指をつきつけた。気分は前世の、頭脳は大人な小学生探偵だ。
「殿下の丘疹の ――!」