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【9話】たまには休息も必要

 ミリスの専属侍女になった私は、ミリスの部屋に向けて通路を歩いていた。

 

 フフフフン!

 

 専属侍女になれたことが嬉しすぎて、上がりに上がった気分は最高潮。

 リズミカルにステップを踏みながら、ルンルンと足を進めていく。

 

 

 ミリスの部屋に入った私は、ミリスの専属侍女になったことを本人に伝える。

 もちろん、ありったけの満面の笑みを浮かべてだ。

 

「これから毎日、お姉様と一緒にいられるのですか!」

「ええ。ずっと一緒よ!」

「やったー!!」


 飛び跳ねたミリスが、おもいっきり抱き着いてきた。

 口元には、私と同じような満面の笑みが浮かんでいる。

 

 ミリスが笑っている顔は色々と見てきたけど、今が一番輝いてように見えるわね!

 

 最高潮を迎えていた嬉しさが、限界を突き抜けたその先にまで達していく。

 過去一番の笑顔をここで向けてくれたということが、本当に嬉しい。

 

「これからよろしくね!」

「私の方こそお願いします!!」


 活気に溢れた二人の声が、ミリス部屋をいっぱいに埋めた。

 

 

 フィラリオル邸、一階の角部屋――書斎。

 広々としたこの部屋の中には、複数の勉強机が等間隔で置かれている。

 

 書斎には今、三人の人間がいる。

 私とミリス、そして教育係の先生だ。

 

 教育係の先生は品のある高齢女性で、人が良さそうな雰囲気をしていた。

 

 私とミリスは隣り合った机に座り、先生は私たちと向き合う形で前方で立っている。

 生徒と先生のような立ち位置は、学校の授業風景のよう。

 今からここで、ミリスの貴族教育――王国の歴史についての座学が行われようとしていた。

 

 貴族教育を受けるのはミリスだけで、私は対象者ではない。

 それなのにどうして私までここにいるのかというと、それは一時間ほど前に専属侍女となったからだ。

 

 専属侍女の仕事は、ミリスの一番近くで彼女のサポートをすること。

 貴族教育を行っている間も、それは例外ではない。

 だからこうして、隣り合う机に座っているという訳だった。

 

「ミリス嬢。今日はとてもご機嫌なようですね。なにか心躍るような、良いことでもあったのですか?」

「はい! 優しくて可愛くてかっこいい――そんな素敵な人が、私のお姉様になってくれたんです!」


 きゃー! そんなに褒めてくれてありがとう!


 チラリと目線をよこしてくれたミリスに、私は大興奮。

 今すぐ抱き着いて、頭をナデナデしたくなる。


「……なるほど。ミリス嬢が上機嫌なのは奥様のおかげだったのですね。それでは、お勉強をいっぱい頑張って奥様に良いところを見せてあげないといけませんね」

「はい! よろしくお願いします!」


 楽しそうに笑う先生に、ミリスはバッと頭を下げた。

 やる気の炎がみなぎっているように感じる。

 

 頑張るのよミリス!

 

 気合の入っているミリスに、心の中でエールを送った。

 

******


 ミリスの専属侍女になってから三週間が経った。

 

 ミリスは毎日いきいきと、貴族教育に励んでいる。

 

 その姿を、私は一番近くで見守っている。

 一日一日ちょっとずつ成長していくミリスを見られるのは、本当に喜ばしい。

 専属侍女になって、本当に良かったと思う。

 

 この三週間で、私には分かったことがあった。

 それは、ミリスがとても頑張り屋さんということだ。

 

 週に一度、貴族教育が休みの日――週休日があるのだが、ミリスが休むことはない。

 遊ぼうとはせずに、勉強をしている。

 お姉様に良いところを見せたいんです! 、というのがその理由だ。

 

 今日もその週休日なのだが、ミリスの予定はいつもと同じ。

 一日中、勉強をするらしい。

 

 目的のために一生懸命頑張ることは、大変素晴らしいことだ。

 頑張った経験というのは、絶対に将来の財産になる。

 

 でも私は、こうも思う。

 

 ときには休息を取ることも必要なのではないか、と。

 

 ずっと全力疾走では疲れてしまう。

 頑張るときと、休むとき――目的を達成するためには、そのバランスが大事な気がするのだ。

 

 

 朝食を終えた私は今、ミリスと一緒に通路を歩いてる。

 これからミリスの部屋に行き、ミリスが勉強をしている姿を近くで見守る――というのが今日の私の予定だ。

 

 でもこれから、その予定に変更を加えようと思う。

 

「ミリス。今日は私に付き合ってくれないかしら?」

「ですが、お勉強をしないと……」

「その気持ちは偉いわ。でもね、たまにはおもいっきり休むことも必要なのよ。それに、ミリスは絶対に喜んでくれると思うの」

「私が喜ぶこと、ですか……?」

「ええ。一緒にカレーを作りましょう!」


 カレー愛に溢れる私は、食べることはもちろん、作る方も大好きなのだ。

 前世では、ルー不使用のオリジナルスパイスカレーを何度も作っていた。

 

 この家のキッチンには、カレーに必要なスパイスが揃っていることは既に確認している。

 深夜、誰もいないキッチンに忍び込んでカレーを作ったことがあるからだ。

 美味しいカレーを作るにあたっての問題は、何ひとつとしてなかった。

 

「お姉様と……カレー!」

 

 ミリスの表情に笑顔の花が咲き誇る。

 ワクワクしているのが、こっちにまで伝わってくる。

 

 やっぱり喜んでくれたわ! ありがとうカレー!

 

 ミリスはカレー愛に溢れる私の同士。

 カレーという単語を聞けば、絶対に喜んでくれると思っていた。

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