表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/24

【4話】揺るぎない決意


 私とミリスは、ベッドの縁に横並びになって座る。

 

 ミリスの視線はうろうろとさまよっていて、落ち着きがない。

 私と二人きりという状況に、まだ緊張しているのかもしれない。

 

 緊張を解くべく、私は朗らかな笑みを浮かべる。

 そうしたら安心したのか、ミリスの表情がほんの少しだけ柔らかくなったような気がした。

 

 ほんの少しだけど、雰囲気が良くなったわ。このままお話を始めましょう!

 

「私のことはもう知っていると思うけど、改めて自己紹介するわね。私はレイラ。歳は十八。好きな食べ物はカレーよ!」


 前世の私の食生活といえば、ほとんどがカレーとなっていた。

 

 朝昼晩、毎日三食カレーでもまったく飽きないくらいに、私はカレーが大好き。

 愛しているといっても過言ではない。

 

「カレー……!」


 カレー、という単語にミリスは大きく反応。

 落ち着きのなかった緑の瞳が、ピカッと光り輝いた。

 

 ……これは!

 

 ミリスも私と同類。カレーのことが好きで好きでしょうがない人間――私の直感がそう告げる。

 

「あなたもカレーが好きなのね?」

「はい! 大好物です!!」


 好みの味付け、辛さ、トッピング――カレーについてミリスが熱く語る。

 

 話を聞いているだけで、熱意と愛情が伝わってきた。

 私の直感はやはり正しかった。

 

 カレー好きが二人そろったことで、話は大盛り上がり。

 一通りの話を終える頃には、ミリスとの仲はかなり縮まっていた。

 

 短時間で相手との距離をこんなにも縮めることができるなんて、流石はカレーね!

 

 異世界であっても、その素晴らしさは色あせることはなかった。

 偉大な食べ物だと、私は改めて実感する。

 

「それじゃあ次はミリスの番ね!」

「分かりました!」


 気持ちの良い返事をしたミリスは、笑顔満点の晴れ渡った顔をしている。

 カレーの話をする前の緊張感は、もうどこかへ飛んでいったようだ。


「ミリス・フィラリオル、十歳です! 好きな食べ物はカレーと、イチゴの乗ったショートケーキ! 嫌いな食べ物はありません!」

「その年で好き嫌いがないなんて偉い! とっても素晴らしいことだわ!」

 

 腕を伸ばした私は、よしよし、と撫でようとする。

 けれど、頭に触れる前に腕を引っ込めた。

 

 あんなにも晴れ渡っていたミリスの顔が、急に曇り始めてしまったからだ。

 

「でも、みんなからは嫌われています。いつも私を怒るお兄様。事故で天国に行ってしまったお母様とお父様。他にもいっぱい……。みんなみんな、私のことが嫌いなんです……!」


 ミリスの目の端に、じわりと涙がたまる。

 

「たくさん魔力を持っていて、頭も良い――優秀なお兄様と違って、私は何もできません。だから、嫌われるのも仕方ないんです。全部私が悪いんです。でも……それでも、痛くて、悲しくて……!」


 溜まっていた涙が決壊。

 大粒の雫が、ボロボロとこぼれ落ちていく。

 

 あまりにも悲しい自己紹介を聞いた私は、ズキズキと胸が痛くなる。

 

 これまでの人生、ミリスは誰からの愛情も感じてこなかったのだろう。

 孤独に耐えながら、ずっとひとりぼっちで生きてきたはずだ。

 

 まだこの子は十歳なのよ! そんなのかわいそうじゃない……!

 

 膝立ちになった私はミリスの背に両手を回し、包み込むように抱きしめた。

 ミリスの顔が、すっぽりと胸に埋まる。

 

「レイラ様!?」

「さっきの自己紹介で、一つ言い忘れていたことがあったわ。私ね、カレーよりも、もっともーっと好きなものがあるの」


 小さなミリスの背中を撫でながら、優しく語りかける。

 

「それはね、ミリス――あなたのことよ。私はあなたが大好きなの」

「――!? どうして……どうして私なんかのことを……」

「理由を聞きたいのね? いいわよ。いっぱいあるけどまず、あなたはとっても可愛い。見ているだけで心が癒される。あと、話していてとっても楽しかったわ。カレーについての話を、これからもいっぱいしたい。それからね――」


 三つ目の理由を言おうとしたところで、ミリスが大きな泣き声を上げた。

 

 ミリスを抱く力を、私はもっと強くする。

 

「あなたのことを大好きな人間が、少なくともここに一人いるわ。大丈夫よ」


 ミリスは何も答えない。

 ただひたすらに、泣きじゃくっている。

 

 決めたわ……! 世界中の人間がミリスを嫌っても、私だけは味方であり続ける!

 

 ミリスの震える体を抱きながら、私は揺るぎない決意を固めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ