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【21話】選んでくれた

 シアンを見た時から、私の胸の中には嫌な予感が渦巻いていた。

 そんな私の感覚は、的中してしまうことになる。


「これから会場を巡りませんか? 私と二人きりで……!」


 シアンのその言葉を聞いた瞬間、過去の光景がフラッシュバックする。

 

 それは前世。

 姫宮さんとの関係を問い詰めたあの日の夜、開き直って大笑いしてきた亮の顔だ。

 

 締め付けるような強烈な痛みが胸に走る。

 めちゃくちゃな力で心臓を握りつぶされているかのようだ。

 

 激しい痛みに顔を歪めた私は、両手で胸を抑えながら、

 

 今世でも私は裏切られてしまうのね……。

 

 なんてことを考えてしまう。

 

 ローゼス様の次の言葉を聞くのが怖い。

 今すぐ背中を向けて、ここから消えてなくなりたくなる。

 

 もう嫌だ。もう傷つきたくない。

 

 でもローゼス様は、

 

「…………おい。いくら妹とはいえ、俺の妻を愚弄することは許さんぞ……!」


 誘いをはねのけてくれた。

 シアンではなく、私を選んでくれた。

 

 胸に走っていた痛みがスッと消え去る。

 それと入れ替わるようにして全身に広がっていくのは、温かで心地よい気持ちだった。

 

 ローゼス様の力強い言葉が私の心を恐怖から解き放ち、救いをもたらしてくれた。

 

 ありがとうございます……! ありがとうございます……!

 

 涙を流しながら、私は心の中でお礼を繰り返す。

 

「どうしてよ……! レイラは生きる価値のないゴミなのに!」

「それが貴様の本性か……レイラとはまったく違うな」

「そうよ! 私はレイラとは違う! こんな欠陥品と一緒にしないで!!」

「貴様の方が優れているだと? ありえないな」


 必死の訴えを、ローゼス様はバッサリと切り捨てた。


「レイラは他人の心に寄り添うことのできる素晴らしい女性だ。人を見下し好き勝手に価値を決めつける、貴様のような愚か者とは雲泥の差。比較するのも馬鹿馬鹿しい。欠陥品はどちらだ?」

「愚か者ですって……! 欠陥品ですって……! 誰のことを言っているのよ!!」


 声を荒げたシアンは、唇を強く噛んだ。

 細めた瞳で、ローゼス様をキツく睨む。

 

「素敵なお方だと思ったけど、どうやら違ったようね。あんたもレイラと同じ……! 生きる価値のないゴミよ!!」

「言ったそばから見下すか。ここまでくると救いようがないな」

「うるさい! 私にケチをつけたこと、あとで後悔しても遅いんだから!」


 シアンはそう言ってから、私たちに背を向けようとする。

 

 しかしその行動を、「おい、待て」というローゼス様の声が止めた。

 

「何を勝手に帰ろうとしている。話はまだ済んでいないぞ」

「はぁ? あんたは私の誘いを断るんでしょ? だったらもう、話は終わりよ!」

「いいや、まだ残っている。……貴様への罰がな」


 ローゼス様の雰囲気が一気に重々しくなった。

 凄まじいプレッシャーを放っている。

 

 そんな恐ろしいものを向けられたシアンは、焦った顔で一歩後退した。

 

「公爵夫人を侮辱した罪は非常に重い。よってシンデュリオン子爵家の領地の半分を、没収することとする」

「な、なによそれ!? ちょっと待ってよ!」


 領地の広さは、その家の収入に直結している。

 それを半分も失うというのは、かなり致命的なものだ。

 シアンの慌てようも当然と言えた。

 

「そんなつまらないことで領地を召し取るなんて、横暴もいいところよ!」

「……つまらないこと、だと?」


 ローゼス様の額に青筋が立つ。

 重々しい雰囲気は、これまでに見たことないような激しい怒りへと変化した。


「レイラは俺の大切な人だ。これ以上彼女を侮辱してみろ……シンデュリオンの名を、今すぐにでも王国から消してやる!!」


 これ以上にないくらいの怒りが乗った言葉には、強い意志を感じる。

 冗談ではなく、本気でやるつもりだろう。

 

「そんな……どうかご慈悲を!!」


 事の重大さに恐怖してか、シアンが大きな声で叫んだ。

 大粒の涙がボロボロと流れ落ちていく。

 

 しかしローゼス様は、いっさい構おうとしなかった。

 シアンを一瞥し、私の手を取る。

 

「行こうか、レイラ」

「はい」


 私とローゼス様はこの場を去っていく。

 背中越しにシアンの泣き叫ぶ声が聞こえてきたが、私たちが振り返ることはなかった。

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