【17話】嬉しい……はずなのに
「レイラ!!」
私の部屋のドアが、大きな声とともに勢いよく開く。
ドアを開けたのはローゼス様だった。
急に何ごと!?
驚愕の表情を浮かべた私は、その場に固まってしまう。
ローゼス様が私の部屋訪ねてくるのは、これが初めてではない。
けれども、こんなにもダイナミックな方法は初めてだった。
部屋に入ってきたローゼス様は、私の正面に立った。
眉を寄せ、真剣な表情をしている。
「話がある……とても大切な話だ。どうか、聞いてくれないだろうか?」
「は、はいっ!」
動揺しているせいで頭がうまく働かない。
何も考えず、ただ反射的に返事をしてしまう。
深呼吸をしたローゼス様は、まっすぐに私を見つめてきた。
いつもよりも重厚な雰囲気からは、並々ならぬ覚悟を感じる。
何を言うつもりかは分からないけど、それなら私も真剣に向き合わないと……!
動揺した状態で話を聞くというのは、ローゼス様に失礼な気がする。
相手が真剣な雰囲気を出しているなら、私もそれに合わせるべきだ。
ローゼス様と同じようにして、私も深く息を吸う。
心を落ち着けてから、ローゼス様を見つめ返す。
お互いが真剣な表情で見つめ合ってから、少し。
ローゼス様が口を開く。
「ミリスに言われて気が付いたのだが、どうやら俺は君のことを好きになってしまったみたいだ。これからは本当の夫婦として歩んでいけたら、とそう思っている。君の答えを聞かせてくれないだろうか?」
温かな気持ちが、胸いっぱいに広がっていく。
それは私にとって、最高に喜ばしい言葉だった。
ローゼス様は私のことが好き。
そして私もたぶん、ローゼス様のことが好きだ。
つまりは、両想いということになる。
考えるまでもなく、答えは既に決まっている。
あとは、私も同じ気持ちです、と本心を言うだけでいい。そう言えば幸せになれる。
それなのに私は、
「お気持ちはとても嬉しいです。ですが、少しだけ考える時間をください」
と答えを先延ばしにしてしまう。
この世界でもまた裏切られてしまうかもしれない――そう思うと、どうしても気持ちを伝えることができなかった。
勇気が出なくて、怖気づいてしまった。
「構わない。いきなりこんなことを言われて、君も混乱していることだろう。少しだけと言わず、好きなだけゆっくり考えてくれていい。俺はいつまでも待とう。おやすみ、レイラ」
申し訳なくなるくらい優しい言葉を私にかけて、ローゼス様は部屋から出て行った。
「……ごめんなさい」
ポツリと呟いた私は、窓辺から夜空を見上げる。
雲一つない空は黒一色に染まっていて、美しい三日月の存在を際立たせていた。
「あの日の夜とそっくりね……」
こんな夜には、前世の私――新出礼良のことを思い出してしまう。




