表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/24

【15話】チクリと痛む胸


 ミリスの誕生日当日。

 私、ローゼス様、ミリスの三人は、フィラリオル邸の食堂に集まっていた。

 

 食卓テーブルの上には、七面鳥の丸焼きと苺の乗った大きなショートケーキが並んでいる。

 ケーキの上には、火のついた小さいロウソクが十一本――ミリスの歳と同じ数だけ刺さっている。

 

 今日はミリスの誕生日。

 ということで食堂では今、お誕生日パーティーが行われていた。

 

 席を立ち上がったミリスが、ロウソクに向かって息を吹く。

 頬を膨らめて一生懸命に息を吹く姿は、なんとも可愛らしい。

 

 動画撮りたいなぁ……。ここにスマホがあれば……。

 

 どうしようもないことを悔やんでいるうちに、ロウソクの火は全て消えていた。

 席を立ち上がった私は、大きな拍手をミリスへ送る。

 

「十一歳のお誕生日おめでとう!」

「ありがとうごさいます、お姉様! 私、誕生日を祝ってもらうのは初めてで……だから、ものすごく嬉しいです! 最高の気持ちです!」

「最高になるにはまだ早いわよ。ふふふ」


 楽しい笑みを浮かべた私は、ローゼス様にチラリと目配せ。

 合図を送る。

 

 ローゼス様は小さく頷くと、指をパチンと鳴らした。

 

 そうして、一人のメイドが食堂に入ってきた。

 手に持っているのは、フリルのついたラベンダー色のドレス。

 先日、ローゼス様と一緒に選んできた、ミリスへの誕生日プレゼントだ。

 

 メイドからドレスを受け取ったミリスは、緑色の瞳を大きく見開いた。

 

「あの……これはいったい?」


 恐る恐るといった感じで、私とローゼス様を交互に見る。

 いきなりドレスを渡されたものだから、どうしていいか分からず困っているのだろう。

 

「あなたへの誕生日プレゼントよ」

「俺とレイラで選んできた。お前にはきっと似合うと思う。その……喜んでくれると嬉しい」

「……誕生日プレゼント」


 確かめるようにして、ミリスはゆっくりとその言葉を口ずさんだ。

 初めてもらう誕生日プレゼントに、動揺しているのかもしれない。


 けれどもそれは、次第に大きな喜びへと変わっていった。

 

「お姉様お兄様、ありがとう! とっても嬉しいです! 一生大事にします!!」

 

 大きな声で宣言したミリスの口元には、満面の笑みが浮かんでいた。

 

 ミリスが喜ぶようなプレゼントをあげたい――そんなローゼス様の頼みは大成功した。

 大喜びしているミリスの表情が、何よりの証拠だ。

 

 成功して良かったですね。

 

 ローゼス様に目線を向けてみれば、小さな微笑みを浮かべていた。

 青色の瞳はどこまでも優しくて、娘を見守る父親のようだった。

 

 そういう表情も素敵だわ――あっ、私ったらまたそんなことを考えて……。

 

 近頃では、事あるごとに、ローゼス様のことを『カッコイイ』『素敵』と思ってしまう。

 ミリスの誕生日プレゼントを買いに行ってからというもの、ずっとこの調子が続いている。

 

 恋をしている――のだと思う。

 

 まだ確証はないけど、きっとそう。

 中年男性に絡まれているところを助けてくれたあのとき、彼に惚れてしまったのだ。

 

 でもこの恋が実ることは、たぶんないわね……。

 

 初めて会ったときローゼス様は、『愛することは絶対にありえない』と言ってきた。

 いくら私が恋焦がれたところで、叶うことはない。一方通行の片思いで終わってしまう。

 

 それにだ。

 もし仮にローゼス様が私に好意を抱いてくれていたとしても、その先へは進めないだろう。

 

 ()()()()裏切られたら、もう立ち上がれなくなってしまうもの……。

 

 チクリと刺すような痛みが胸に走る。

 嬉しそうにしているローゼス様とミリスの横で、二人に悟られないよう私は小さく顔をしかめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ