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第十七話 サボットスラグ弾

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 犬たちは、催涙ガスを吸い込んだせいで。臭覚と視覚をかく乱されてしまい。

 ひどい刺激が鼻と目にひっきりなしに襲ってきて。パニックに陥っていた。

 最初の警官の包囲を抜けて。その先に、また別の警官がいるのに気付いたが。パニックを起こした犬たちは、自分から罠に突っ込んでいった。

 犬たちにわかったのは。警官が、かまえたなにかをこちらに向けると。それがパッと光って。次の瞬間には、自分が悲鳴をあげながら、道路上を転がっていることだった。

 犬たちは、先で待ちかまえていた警官たちに。真っ向から、散弾銃による銃撃をうけた。

 なぜこんなことになったのか、と言えば。知能犬たちが。ライフル銃や散弾銃などの、銃による攻撃を経験していなかったせいだった。

 銃を持って待っている警官たちにまっすぐに突っ込んでしまった点では。銃口を向けられたら左右に逃げる、野生のイノシシのが、はるかに賢明だったろう。

 しかも後方で待機していた、別隊の警官たちに渡されたのは、通常の散弾銃の弾薬ではなかった。

 作戦を立てた専門家から支給されたのは、散弾銃用の最新のサボットスラグ弾だった。

 スラッグ弾とは。複数の丸玉が発射されるかわりに、大口径の一粒弾を発射する弾薬を指す。

 近距離では高い威力を発揮するので、スラッグ弾は、大型動物の狩猟に使われる。

 創作物などの影響で、スラッグ弾は。不正なくらいに超強力なものだ、と思われがちだが。

 実際には。飛距離と命中率はあまり良くなくて、その点ではライフル銃の射撃には敵わない。


 サボットスラグ弾とは。サボットとよばれるカプセル状のプラスチックで覆った、一粒弾をいう。

 サボットで弾頭を覆うことで。口径よりも細い弾頭を、大口径の銃身から発射することができる。

 この仕組みを使った有名なものに。散弾銃のほかには、戦車砲に使われるAPDS(装弾筒付翼安定弾)があって。こちらも同じ理屈で運用されている。

 どういうものかというと。サボットの覆いによってシールをすることで。高圧ガスが前方に漏れないようにしてある。

 それによって、サボットで覆った弾頭を。運動エネルギーを失わずに、大口径の戦車砲から撃ちだせるようになっている。

 戦車砲の銃口からでたあとは、周りを包んでいたサボットは分離をするので。

 あとは、安定翼が付いた。つまりは尾羽根が付いたダーツのような戦車砲の弾頭が。敵の戦車や装甲車にむかって飛んでいくようになっている。


 散弾銃に使われるサボットスラグ弾もまた。銃口からでたあとは、サボットがはずれて。一粒弾が目標へと飛んでいくようになっている。

 だだし、命中率が悪い一粒弾の弾道を安定させるために。散弾銃の場合には。適合する銃として。ライフリングが施されたライフルドショットガンや、ハーフライフル銃身が使われる。

 じつは、スラグ弾は。散弾銃の滑空銃身から撃ち出すと、風の影響を受けやすく、弾道を安定させることができない。

 そのために、散弾銃の銃身内に半分だけライフリングがあるハーフライフルから発射しなければならない。

(なぜハーフライフルを使うべきなのか、というと。これは発射後の弾頭に回転を与えるためになる)

(サボットスラグ弾を、滑空銃身である散弾銃から撃てないわけではないのだが、それでは効果があらわれないのだ)

 

 ところが、今回の駆除作戦に使われた、最新のサボットスラグ弾は。ハーフライフルだけでなく、通常の平筒銃身のショットガンでも使えるように改良された弾薬だった。

 こちらの弾薬は。ハーフライフルだけではなくて、滑空銃身の一般的な散弾銃から撃つことができるうえに。

 通常の散弾銃の弾頭よりも安定して長距離にまでまっすぐとぶので、大型動物の駆除には最適な弾薬であった。

(ただし、値段はずっと高価になるのが弱点でもある。)

 では。いったいどういう仕組みで、そんなことができるのか、といえば。

 サボットが分離したあとの一粒玉に、戦車砲のタマと同じように、安定翼が付けてある。

 この安定翼のおかげで、弾道が安定して。長距離までまっすぐに飛ぶようになっているのである。

 また、この弾薬の他の特徴としては。標的に命中した際に、一粒弾の弾頭が、ひらいたりバラバラになることで、エネルギーを対象内に逃がすようになっていた。

 命中さえすれば、変形した一粒弾が獲物の肉体にとどまって。貫通した弾頭が、その背後にある建物や自動車を傷つける危険が少なかった。

 駆除作戦を実施するにあたって。この弾薬を用意した担当者は。このような説明でもって。司法側を納得させたのだった。

 今回の駆除作戦に使用された散弾銃には。さらにもうひとつ、工夫がされていた。

 使用された二〇丁あまりの散弾銃には、発射音をおさえるために。後付けできる、アメリカ製のサプレッサーが装着されていた。

 散弾銃の銃口の先端に取り付けられた、この不格好に大きい箱型の減音器のおかげで。

 この日、同じ区内で続けざまに発射された数十発にもなる、複数の散弾銃の射撃音は。

 耳を聾するような、大きくて、長く尾を引く、おそろしい銃の発射音ではなくて。

 町の住人が耳にしたことがない。聞き慣れない。まるで、遠くからきこえる大きめの拍手のような破裂音として、人々の耳に届いた。


 事前に付近の住民を、この区域から移動させたのは正解だった。

 テレビ放送の中継についても、警察側はすべて断ったが。そうしなければ、あとからおびただしい非難の声が出ていたろう。

 別隊と犬たちの遭遇後に、くりひろげられたのは。続けざまの破裂音とともに、いくつも犬たちの悲痛な声が響く、一方的な戦闘だった。

 命中すれば否応なく致命傷になる強力な弾頭を撃ち込まれて。犬たちは反撃するどころではなく、逃げるところを、かたっぱしから鴨撃ちにされていった。

 散弾銃の場合は、射撃の有効射程距離は一〇〇メートル前後であり。さらにサプレッサーにより威力が弱められていたせいで。警官たちは、犬たちを、できるだけひきつけて撃つようにした。

 しかし、動きまわる標的に命中させるのはむずかしく。なおかつ、敏捷に動きまわり、狙われると物陰に逃げこむ犬たちをしとめるために。散弾銃を持った警官たちは街の市道を行ったり来たりと走り回り。弾薬を撃ち尽くしては再装填して、倒れた標的にまた撃ち込むという。熟練した猟師が見たら眉をひそめそうな方法で、犬たちを駆除するよりなかった。

 最終的には、この日の駆除作戦で。数十頭からの野犬たちが捕獲されて。それよりも少ない十数頭あまりの犬たちが駆除される結末になった。

 作戦の責任者と専門家が、銃撃により駆除した十数頭の犬たちの死骸を調べてみると。そのなかに、犬たちを指揮していた知能犬が二頭、ふくまれていた。

 二頭の知能犬は、どちらも絶命していた。

 その後、野犬たちがすみかにした閉鎖されたホテルの建物の調査が行われたが。そこに、三頭目の知能犬の亡き骸は見付からなかった。

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