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第十六話 駆除

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 紅林さやかに、そそのかされ、けしかけられて。この都市に住む市民たちは。

 さやかが言う、町のどこかに隠れている犬たちをさがし始めた。

 もしも山に逃げ込んでいれば、犬たちも発見されずにすんだかもしれない。

 あるいは、この都市から離れた別の都市へと生活圏を移して。人間を避けて暮せば。犬たちは、今回の危機を乗り越えられたかもしれない。

 でも知能犬たちは、自分たちがこれまで暮らしてきた、この町から移動をしなかった。

 ここを自分たちのなわばりだ、テリトリーだ、と信じて。都市に残って暮らすことを選んだ。

 犬たちは、逃げるかわりに。人間がいる住宅地に出向いて。各家庭で飼育されている飼い犬たちを自分たちのもとに連れて帰ると。飼い犬たちを再教育して、仲間にしようとした。

 以前にやったように。三頭の犬たちは。仲間の犬たちを増やして。もう一度、自分たちの群れをつくろうとした。人間たちに対抗できる集団をつくりあげよう、とした。

 なんでそんなことをしたのか、と言うと。

 自分たちに従う、犬の仲間の数を増やして。

 大きくした群れで、人間たちと戦えるようになれば。

 人間たちも、あきらめるのではないか。

 これでは、もう犬たちをおさえつけられない。コントロールできない、と知って。

 自分たちを追わなくなるのではないか。

 そうなれば、あとは好きなようにやっていける。

 自分たちの好き勝手に、ふるまえるようになる。

 そんなふうに、知能犬たちは考えたのだった。

 だが知能犬のその試みは、裏目にでた。

 けっきょくは、知能犬たちの行動は。犬たちの所在を。人間側に露見させることになった。

 知能犬たちの敗因は。人間たちもまた、ほかの動物たちと同様に。危険を感じると群れで行動を始める、社会性動物だ。と気付かなかったことだ。

 人間たちは。自分たちの存在を脅かす、危険な動物の集団に対抗するために。群れとして一致団結すると、相手を排除しようとした。

 犬たちは、さやかの番組が放送されて、数か月後に。集めた犬たちを再教育して。訓練するための隠れ家を、発見されてしまった。

 驚くべきことに、犬たちがねぐらにしたのは。人目を避けられる郊外ではなくて。

 駅周辺にひろがる歓楽街にある。数知れずに連なる、古くなった鉄筋コンクリートの建物のひとつ。閉鎖されて取り壊しを待つホテルだった。

 市民たちは。勝手な憶測で。犬たちが、街の郊外にある、人が訪れない森や雑木林にいる、と思ってさがしていたが。見当違いだったわけだ。

 問題の建物は。不審者が侵入しないように。ホテルの建物のまわりに、金網の柵がめぐらせてあって。人間には通り抜けできなかった。

 犬たちは。人間には通れない、金網の柵のあいだをくぐり抜けて。老朽化した建物のコンクリ壁にできた穴や、ゆがんですきまができたシャッターの間隙を利用して。閉鎖された建物内へと出入りをしていた。

 犬たちがこの建物に出入りをしているのに気付いたのは、近隣の住民だった。

 住民は、もとは飼い犬らしい、(このあたりでは見かけない、よそからきたらしい)見慣れない犬が。人目を避けるようにして、壁の穴を通じて建物のなかに入っていくのを見て。それ以来、閉鎖されたホテルを、注意して観察するようになった。

 すると、昼間のあいだはまったく姿をあらわさないのに。夜になると、暗やみにまぎれるようにして。いったい何頭いるのかわからないくらいの数の多くの犬たちが、物音をたてないように。建物にできた穴や、シャッターの隙間を通り抜けて、次々に外にでてくるのを発見した。

 見ていると、犬たちは。いくつもの群れをつくって、どこかに移動していく。

 犬たちがどこにむかったのか。なにをしにいったのか。住民には見当もつかなかった。

 さらに建物の観察を続けると。発見した住民は。夜があける頃に、犬たちがまたもどってきて。建物の内部に入っていくのをたしかめた。

 どうやら犬たちは。建物をねぐらにして、夜のあいだだけ、外に出ることを、くりかえしているようだった。

 この事実を発見した住民は、以前に見たニュースで言っていた、紅林さやかの言っていた連絡先に、この事実を伝えたのだった。


 連絡をうけて。この件に対応するための人員が、すぐにやってきた。

 彼らはまず、犬たちに気付かれないように注意をして。問題の建物を、数日間、監視した。

 そして。これが間違いなく、さがしている犬たちだ、と結論をだすと。紅林さやかに指示された先へと、連絡を入れた。

 どのような準備や手続きが行われたのかはわからないが。今度は大勢の警官たちがやってきた。

 警官たちは、通報した住人をふくめて、周辺の住民たちに。要請という名目で。犬たちを駆除する作戦のために、一日間から二日間の、一時的な避難を強要した。

 警官たちは。有無を言わせない強引さで。駆除に必要となる、突拍子もない準備を整えていった。

 その日、やってきたのは。機動隊が移動するためのバスを四台から五台を連ねて乗り込んできた。総勢で、四十人から五十人はいる、警官たちだった。

(それまで退避するのをしぶっていた付近の住人たちも。バスから降りてくる、完全防備をした、大勢の警官たちの姿を見て。あわてて、住民の退避のために用意された別のバスに乗り込んで。その場から離れる、という行動をとった)

 予定通りに、住民の移動を終えると。

 警官たちは、犬たちが眠っている昼間に。

 犬たちに気付かれないように、建物とは距離をおいて。指示された、行動を開始した。

 警官たちは事前に、この隊を指揮する専門家を中心に、今回の駆除計画について話し合い。必要な準備をととのえていた。

 警官たちは、まず数名が。犬たちがねぐらにするホテルに近づいて。見取り図を参考に、ホテル内部に通じる通気口から、催涙ガス弾をそれぞれが投げ込んだ。

 それにあわせて、付近に待機していた警官隊の面々が、問題の建物を包囲すると。建物から、犬たちが出てくるのを待ちかまえた。

 ガス弾からガスが噴射されて、それがホテル内に充満した頃だった。

 建物の内部に通じる、建物に生じたそれぞれの穴から。犬種もサイズもさまざまな犬たちが次々にとびだしてくる。

 犬たちは、ガスを自分への攻撃だと理解していた。だから、そのまま、まっすぐに、警官たちに襲いかかる。

 犬たちは、リーダーである知能犬たちから教えられたように。警官たちの顔面や。咽喉もとや。太ももの付け根や。上腕の付け根といった。人体の急所になる場所を狙い。

 跳びついて、そこに食いついて。相手が倒れるまで強く噛むことで、警官たちを倒そうとした。

 だが警官たちは、顔面に、催涙ガスに対処するためのガスマスクを装着していた。

 さらには、専門家からの指示に従い。胴体や腕や脚に、さらにはくびまわりまで。体表を覆うようにして保護する、剣道の防具のようなプロテクターで、自分の肉体を守っていた。

 犬たちは次々に警官たちにとびかかって、何度も何度もその身体を噛みついたが。プロテクターを貫通するほどの歯の長さがないので、警官たちに致命傷をあたえることはできなかった。

 警官たちは、このような場合にはどうすればいいのか。事前に教えられた通りに。

 分厚い手袋でつかんだ、手持ちの警棒で。犬たちを殴って、犬の戦意を失わせてから。

 からだに食いついている犬たちを手袋でつかんでもぎはなして。

 バスから運んできた、折り畳み式の金属製のオリの中へと次々に放り込んでいった。

「……! ……! ……!」

 催涙ガスがたちこめるなかで、警棒で打たれる犬たちの悲鳴と。オリに入った犬たちが悲痛な声をあげながら金網に体当たりをする、恐ろしい音が。あたりに響く。

 周囲も見通せないガスの霧の中で。警官たちは各々が、指示されたことをこなそうとする。

 作戦の目的は、三匹の知能犬を見付けだすことだった。だがこの混乱の中で、指示された犬を見付けるのは大変なことだった。

 三頭の犬たちの外観の特徴は、事前に警官たちに教えられていた。が、催涙ガスの煙が立ち込めるなかで、ガスマスクのガラス越しに見る犬たちは、どれも区別がつかない。

 そこで警官たちは、自分たちにとびかかってきた多数の犬たちを。ともかく、かたっぱしから殴打してオリに放り込むしかなかった。それに集中するよりなかった。

 あとでわかったことだが、目標とした三頭の犬たちは、襲ってきた犬たちのなかにいなかった。

 オリに放り込まれた犬たちのなかにもいなかった。

 三頭は、他の犬たちに警官たちを襲わせて。

 自分たちは。仲間の犬たちかを、警官一人一人に群がって争うのを尻目に。混乱まぎれて、その場から脱出しようとしていた。

 そのままであれば、三頭の犬たちは、混乱の場からまんまと逃げおおせていたろう。

 再びどこかに潜伏して、また市民からの情報提供を待つ、持久戦になっていたろう。

 今回の作戦が、これまでとは異なっていたのは。駆除を目的に集められた警官たちのなかに、銃器を用意して包囲網の後方で待機していた、別隊がいたことだった。

 鳥獣保護法の観点からすれば、野犬たちへの発砲は。警官の指示のもとで、猟友会の有志が行うべきだった

 だが今回は、専門家が働きかけによって。より積極的な駆除の対応が行われることになった。

 ここからがムチャだよな。


 専門家は。今回の市街地での害獣の駆除に際して。犬たちに対して、クマと同様の危険性を訴えることで。野犬の駆除に銃器を使用する許可を取り付けていた。ただ、そのあとが問題だった。

 野犬は、身体のサイズがクマよりも小さいので。銃で狙いにくい。また動作も敏捷で、すばしっこくて、足が速い。

 では、どのような方法で、駆除をするのか。

 議論の結果。司法側がだした回答は。市街地での発砲は、選ばれた警察官が。市民に精神的に大きな負担をあたえない方法で。市民の財産を傷つけない方法で行う。というものだった。

 つまりは、市街地や住宅街での発砲は。それた弾丸が建物や自家用車といった市民の財産を傷つける可能性があるわけだから。散弾のような複数の丸玉が撃ちだされるものではなくて。散弾銃よりも命中率が高くて。ライフル弾よりも威力の弱い弾薬を用いるようにする。

 それができるならば。そういう弾薬があるのならば。野犬の駆除に銃器を使用していい。と許可されたのだった。

 そこで専門家は知恵をしぼったすえに。

 必要な弾薬を、なんとかして用意すると。

 警察組織が所持する拳銃や短機関銃といった銃器ではなくて、民間から猟銃を借りて対応することにした。


 三頭の知能犬たちは、警官と多くの犬たちとが争っている横を通り抜けて、全速力で人間たちの包囲の中から脱け出そうとした。

 だがそこで、待ちかまえていた別の警官たちが用意した、二十丁あまりの散弾銃による銃撃を。全速力で逃げる、その鼻先に受けることになった。

 建物から脱出した犬たちが。どういう経路を移動して包囲網を抜けようとするのかは、事前に専門家により推測されていた。

 散弾銃をかまえた別隊の警官たちは、バスから降りると。割り当てられた、それぞれの経路で待機していて。犬たちを、散弾銃をかまえた格好で待っていたのだった。

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