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厨房


ボクことフラム=クラウン3歳は家の書庫で埋もれていた


「ぷはっ!あぶないあぶない。本を背伸びして取るのは、この身長だと危険だな」


しかし、読みたい本のジャンルもちょうど落ちてきていたので都合はよかった。


「フラム、なんかすごい音がしたけど・・・って何よこれ!」

「ああエリエ姉さん、何って本だよ?」


我が姉の一人エリエ=クラウン。8歳にしては平均よりやや高い身長を持ち、黒に近い青みを含んだストレートの髪が美しい。顔も前世の女優でもトップに入るほどの可愛さだ


「本だよ?・・じゃないわよ!なんでこんなに散らかってんのよ!」


「なんでって・・・ボクが本を落としたからかな?」


「じゃあ間違いなくアンタが原因じゃない!!!」


エリエ姉さんは怒りながら、逆エビ固めを決めてくる


「ぎゃああぁぁ!ちょ、ちょギブギブ!エリエ姉さん!ギブ!」


ボクは意味もなく床にタップする

くそっ、このフィールドにロープは無いのか!


「2人でなにしてるんだい?」


この人は兄でベル=クラウン。黄緑と白が混ざった綺麗な色をした髪がきれいである。

中性的な顔をしており、昔よく女の子と間違われていたらしい。

そしてクラウン家のやさしさでもあり、その兄に救助を求める。


「ああ!ベル兄さん!救助を必要としている弟を助けて!」


「・・・ベル」


「フラム、ごめんね。」


「ベル兄さ――ん!!!」


エリエ姉さんのツルの一声がボクを絶望させた。

ベル兄さんは申し訳なさそうな顔をして去るが妙に速足だった。


「神は死んだ」


そしてボクも死にかけている


「まったく、フラムったら。罰としてアンタ、お菓子を作りなさい。レシピとか考えるの得意でしょ」


ボクの行動のどこにも罰は無かったのに、これが姉という力か。

しかもお菓子を作れという無茶ぶり。お菓子のレシピは知っているが少し前までは屋敷を一人で歩くこともできなかった子供だぞ。

だがボクも3年ぶりにお菓子が喰いたいのには同意である。

そして姉に命令された時の弟としての返事は決まっている。


「不肖、このフラム、しっかりと菓子を作らせていただきます。」


ボクは軍隊にも入れるような綺麗なお辞儀をした。


「よろしい。行っていいわよ。」


「はっ」


回れ右をしてボクは急ぎ足で書庫を出ていく。


「まったく、フラムったら」


エリエは周りに散らばっている本の1つを手に取り、内容を確認する。

そこにはフラムが言った通り、魔法のことがびっしりと書かれていた。


「こんなの何が面白いんだか・・・」


ポンポン


エリエは肩を叩かれたので振り返ると、そこには鬼がいた。


「エリエ、これはいったい何かしら?」


「か、母さん!?」


そう、母のレイラ=クラウンがニッコリとしながら背後に炎が幻視できるほどの迫力が出ていた。綺麗な青と白が調和した髪色のストレートは見る人全員が魅了される美人であろう。怒っていなければ。


「まったく、こんなに本を散らかして!」


「か、母さん、これはフラムがやったことで!」


「フラム?・・いないじゃない」

「あ・・」


エリエは先ほどフラムにお菓子作りをしに行かせたことを思い出した。


「こっちにいらっしゃい、お説教よ」


「そ、そんな~・・」


ズルズルズル


抵抗をして無駄ということはわかっているのか、大人しく首を惹かれて空き部屋に連れていかれたエリエであった。


――――――厨房


厨房、それは戦場の1つである。ここには門番がいる。


「おう、坊主!なんかようかい。飯ならまだだぞ」


そう、シェフであるヴァンさんだ。彼こそ厨房における主and門番である。スキンヘッドが怖いが、しゃべると気のいいおっちゃんである。

彼に認められなければ、今後の料理作りにも影響がある。

そして、今は数時間後のボクの命を預かっている。死んでも引けん。引いたら死ぬ。確実に自分が!


「ヴァンさん、お願いがあるんだけど・・・」


「なんだ?腹減ったのか?」


「いや、厨房を使わせてほしいんだ」


「なに?」


ヴァンさんの目が鋭くなった。ここは予想通り。


「厨房は戦場だ。ガキがいたんじゃ怪我されて終わりだ。帰んな」


真っ向からの否定である。まぁ確かにまだ3歳のガキだしな。向こうが正しい。だがこちらも前世26歳+今世3歳の29歳、三十路手前の男を舐めないでいただきたい


「わかったよ、ヴァンさん。じゃあ、今から作るお菓子が口に合わなかったら、もう二度と厨房には入らないよ。それじゃダメかい?」


「・・・いいだろう」


ふぅ~なんとか交渉は成功だ。ボクの命がかかった精神年齢三十路手前の目が輝いたのかな。

さて、ここで下手なのを出したら、どちらにしてもTHE・ENDだ。

というわけで『記憶魔法・調理本』

この魔法はもちろん魔法創造で作成したものだ。文字通り記憶を確認して調理を思い出している。


「よし、ラングドシャにしよう」


「ら・・なんだそりゃ」


「まあ、見ててよ。

 ヴァンさん、卵と砂糖とバターと小麦粉はある?」


「あ、ああ。それならあるが砂糖は貴重でそんなにねぇぞ?」


「大丈夫だよ。なるべく砂糖は抑えるよ」


よし、ではさっそく取り掛かっていこう。

バター、砂糖、卵の卵白、小麦粉を順番に入れて混ぜる。

この世界にビニール袋はないのでスプーンで取って小分けにして耐熱できる容器に置く。

かまどがあるので、そこに火を灯す。これは火魔法で行う。安上がりだ。

温度と生地を観察しつつ、見極め、すると・・・


「できた。名付けてラングドシャ異世界版!」


「これが新作の菓子か?」


「うん、ヴァンさんも食べてみてよ」


ヴァンさんが手に取ったのでボクも手に取り一口。


「うん、うまくできた」


我ながら自画自賛である。


「こりゃうめぇな。サクサクとした触感と軽さがいい。

・・・坊主の菓子はうめぇ。調理手順も見たがあそこまで動けりゃ文句はねぇ。

 認めようじゃねぇの。坊主・・・いや、フラム様」


おお、認められた。前世でも料理をやってたのが活きたな。

第一関門突破ってところかな?


「そんな様付けなんていいよ。坊主って呼ばれたほうがヴァンさんにはしっくりくるよ。」


「そうですかい?じゃあ、アッシのこともヴァンとお呼びくだせぇ」


「いいの?じゃあ・・・ヴァン、これからもよろしくね」


ボクは前世で漫画でよく見る男同士の拳のコツンをやりたくなったので、拳を突き出す。


「おう。フ・・いや、坊主」


コツン


世界が変わってもこういった粋な感じの作法は伝わるようだ。


「じゃあ、ボクは行くね。エリエ姉さんが待ってるから。」


「エリエお嬢さんにもよろしくお伝えください。」


「うん」


これで第1関門突破、残すは最終関門エリエ姉さんだ!


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