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I am Sword!

作者: 総馬

 俺、こと長門将人(ながと まさと)が目を覚ますと辺り一面真っ暗でした。

 明かりひとつありゃしません。おかしいな、俺、自分の部屋で寝てたはずなんだけど?

 とりあえず起きようか。

 あれ?・・・・・・なんで体動かないんだ?

 必死で体を動かそうとしたんだけど指一本動きやがりませんよ?

 俺どうなっちゃったんでしょうか? とりあえずもう少し頑張ってみます気合とかで。

 まぁそんな感じで色々頑張ってみました。で、結論、無理です。マジ身動き取れません。

 おまけに全身がぎゅうぎゅうなにかに押されるような感じ。

 生き埋めにされたらこんな感じなんでしょうかね?


「おーい、誰かタスケテー!」


 こんな感じで力一杯叫んだりもしたけど反応がありませんよ?

 マジやばくね? とか最初焦ったんだけどそのうち諦めました。

 だって不思議と腹も減らないし、息ができないとか、トイレに行きたくもなったりしないし。

 でもね、ヒマなんですよ凄まじく・・・・・・

 とりあえず寝ます。誰か起こしてくれるまで。




 どれくらい寝てたんでしょうか。いつからか暗闇の向こう側からカンカンやかましい音が聞こえて来るようになりました。

「おーい、誰でもいいからタースーケーテー!」

 叫んでみたけどやっぱり反応ありません。でも、音は日増しに近づいてきてるようです。

 かぁちゃん、俺ようやく救出されるみたいです。神様ありがとう。

 日増しに近づいてくる音、ここから出れるという期待も高まってます俺。

 で、ある日、ガラガラっと何かが崩れるような音と明かりが見えました。薄暗いたいまつの火のような明かりが。イヤッホウ!

 で、崩れたところからにゅっと顔が現れました。真っ黒に汚れた髭もじゃのおっちゃんの顔が。

 そのおっちゃん、俺を見るとニィッと笑いました。はっきり言ってその顔こえぇよおっちゃん。


「おーい、みんな来てくれー」


 後ろを向いて人を呼ぶおっちゃん。どやどやと人が集まって来ました。ようやく救出されるみたいっす。やれやれだぜ・・・・・・。


「おおっ! スゲェこれ金か?」


 集まって来たのは全員おっちゃんと同じように真っ黒に汚れた髭もじゃのおっちゃん達。つか、ちょっと待て、俺はどう見ても人間だろう?


「バカヤロウ! おめぇそれでもドワーフか? これはな、オリハルコンっつぅんだよ」


 俺を掘り当てたおっちゃんが金とか言ったおっちゃんを怒鳴りつけました。うんうんそうだよ。俺は金じゃなくてオリハル・・・・・・ってなんじゃそりゃー!?


「馬鹿言ってねぇでとっとと掘り出すぞ」


 おっちゃんがそう言ってツルハシを振りかぶり俺の周囲を掘り始めました。他のおっちゃん達も同じように発掘作業に入ります。

 とりあえず俺、掘り出されたわけなんですが・・・・・・これからどうなるんでしょうか? 神様この前感謝したのは無かったことにガッデム。

 無事、生き埋めから救出されたわけなんですが、この時点で気づいたこと。俺マジで人間じゃなくなってました。おっちゃん達の話を聞いてるとどうやら『オリハルコン』とか言う金属のようです。どうりで体が動かないわけだハハハ・・・・・・。なんか視界も三百六十度全部見えちゃうし。

 ついでにここは鉱山で俺マジで埋められてた模様。俺を発掘した連中はみんなビア樽に髭もじゃの丸い顔と短い手足をくっ付けた様なおっちゃん達、ドワーフとかいう種族らしい。

 どうやらこれから俺、工房に送られてなんかに加工されるらしいです。お願いだから痛くしないでね。はじめてなんで・・・・・・。

 そんなワケでトロッコに乗せられてゴロゴロ運ばれていく俺。気分はドナドナですよ。ドナドナドナドーナーオイラを乗ーせてーと、もう色んな意味で人生諦めました。

 そして行き着いた先が工房とかいう所。煤で汚れたドワーフのおっちゃん達が炉の前でトンカチ持ってカンカンやってます。やっぱり俺もこれからカンカン叩かれるんでしょうか? いやだなぁ。




 炎が燃え盛る炉の前に置かれた俺、目の前に一人の気難しそうなドワーフ爺ちゃんが立ってます。

 他のドワーフの会話を聞いて分かったんですがどうやら名匠とか言われてる爺ちゃんのようです。


「ほぅ、こいつは立派なオリハルコンだ純度も申し分ねぇ」


 俺を見てニンマリ笑う爺ちゃん。だから怖いってその顔。


 爺ちゃん俺をやっとこで掴んで炉の中に突っ込みやがりました。中は燃え盛る炎。


「熱! 熱いって!」


「あ? 誰かなんか言ったか?」


 爺ちゃんが辺りを見回す。しかし、「気のせいか」と呟いて作業再開。再び炉に突っ込まれる俺。


「熱! 熱いって! マジ死ぬ!」


 再び叫ぶ俺、爺ちゃんが俺を炉から引っ張り出してやっとこで掴んだままじーっと見つめます。


「そう、アンタの見てるそれが俺! OK?」


「ほう、こりゃ珍しいお前さん自我があるのかい」


 そう言って再び俺を炉の中に突っ込みやがりました。ちょ、待て!


「熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!」


「我慢我慢」


 俺の悲鳴を聞き流して炉の中に突っ込み続けるジジイ。いつかぶっ殺す。

 しばらく加熱されてからジジイが炉から俺を引っ張り出して今度はカンカンとトンカチで叩きだしました。


「イテ! 痛いってばよ!」


「我慢しろ、なぁにそのうち気持ちよくなる」


 なるか! 俺にそんな趣味はねぇ!

 色々文句言ったけどジジイは全く取り合わず俺を炉に放り込んでトンカチでカンカン叩き続けてくれます。たいやきくんの気持ちが分かった今日この頃。




 灼いて叩いて削ってーでもそれってジジイの愛なのーって、そんな愛はいらん!

 延々と続くかと思った地獄のようなつーか地獄そのものだった日々がようやく終わりました。

 俺マジで加工されましたよ。


「どうだ? なかなか男前に仕上がっただろう?」


 姿見の前で俺を手に持ってニンマリと笑うジジイ。金属の塊だった俺は一振りの剣になってます。

 長さ一メートルちょいの両刃の直刀、柄には細かな細工が施され、柄頭には宝石みたいなのがはめ込まれてますがな。なんか高級品っぽいな俺。


「そういやお前さん名前はなんて言うんだ?」


 このジジイ・・・・・・さんざん人をいたぶっておいていまさら名前を聞くのか。


「長門だよ長門将人」


「んじゃぁお前さんの銘は『ナガト』だな」 


 とまぁそんなわけで俺は『ナガト』という銘の剣にされちゃいましたと。

 ジジイが言うにこれから神殿に納められるそうです。

 俺みたいな自我のある剣は珍しい上に、オリハルコンは貴重なシロモノなんで値段がつけられないとかで売り物にならないんだそうな。

 まぁ、俺は地獄から解放された上にジジイからオサラバできるならいいけどね。




 そんなわけで神殿に納められた俺、今テーブルの上に置かれてます。

 そして俺を見てる人が居ます。若い女の人です。それもめっさ美人。

 しかし、俺は剣なんでこのおねぇちゃん口説いたりできませんジーザス。


「これが自我のある剣ですか」


 おねぇちゃんが俺を手に取り、鞘から引き抜きます。


「おう、俺はナガトって言うんだ宜しくな」


「・・・・・・なるほど本当に自我があるんですね」


 感心しながら俺を観察するおねぇちゃん。そんなにじろじろ見られたら照れるぜ。


「私はここの司祭を務めるエルザです。よろしく『ナガト』」


「あぁ、ところで俺、これからどうなるんだ?」


 自分じゃ身動きできないからね。一体どういう扱いされるのか心配なわけですよ。


「フフフ、心配ありませんよ。貴方にはここの神殿の御神体になって頂きます」


「御神体? 俺、剣だけど」


「ここは戦神の神殿ですからね。出来たばかりの神殿で御神体がまだないので困っていたんです。名匠が打った自我を持つオリハルコンの剣ならば御神体として申し分ないでしょう。それともご不満?」


 どうやら俺は御神体扱いされるくらい上等なシロモノだったらしいアンビリバボー。

 まぁ、ムサイ野郎に握られて乱暴に扱われるよりはずっといい。俺は名匠のジジイに少しだけ感謝した。


「OK、ただし条件がある」


「条件?」


 そう、これは大事なことだ。これが受け入れられなければ俺は錆びて燃えないゴミになる覚悟だ。


「俺の手入れは美人で若い女の子限定。それ以外は却下」


 エルザは大爆笑しながら俺の出した条件を受け入れてくれた。とりあえずは一安心。

 そんなわけで御神体になった俺、祭壇に抜き身で飾られて毎日朝晩二回司祭が手入れしてくれます。

 戦神ってのは男でそいつに仕える司祭は若い女限定らしい。俺は大事な御神体なんで司祭くらいの格が無いと無闇に触れるのは色々と問題なんだそうな。人間は色々面倒だねぇ。まぁ俺も元は人間なんだけど。




 毎日騎士とか戦士が俺を拝みにやって来ます「次の決闘に勝てるように」とか知るかボケ自分で何とかしろ。

 そんな感じで年月が流れて司祭も何度か代が替わり、今はマリアって娘が司祭をやっている。

 このマリアって娘、今度若い騎士と結婚して司祭を引退するそうだ。超美人なんで人のものになるのはくやしいが!

 まぁ、今の俺は剣なんでどうしようもない。と思ってたら最近そのマリアの表情が優れない。なにか心配事があるらしい。

 一応御神体やってるんだし人の悩みくらい聞いてやるべきだろう可愛い娘なら尚更な。


「マリア、なんか悩み事があるのか?」


 とりあえず晩の俺の手入れをやっているマリアにストレートに聞いてみることにした。


「え? いえ、ナガト様そんな事はありませんよ」


 にっこり微笑みながら否定するマリア。しかし、俺の目は誤魔化せないぜ。肉眼なんて無いけどな。


「おいおい、俺はお前さんが見習いやってたころから見てたんだ誤魔化せると思ってるのか?」


「はぁ、敵いませんねナガト様には」


 苦笑しながら「実は・・・・・・」と悩みを打ち明け始めるマリア。

 どうやら彼女の婚約者が数日後、戦場に赴くらしい。この国が今戦争をやっているのは知っていた。なんせ最近来るのは「今度戦争で手柄を立てられますように」とか「戦争から生きて帰ってこれますように」って拝みに来る騎士や兵士ばっかりだったからな。

 しかし、今回の戦争はかなり旗色が悪いらしい。聞けば近隣でも有数の大国が相手だそうな。

 そりゃ最近表情が優れないわけだ。自分の婚約者が戦死するのかもしれんのだから。

 これは男として一肌脱がなきゃいかんだろ。いや今は剣だけど。


「マリアの婚約者、確かマックスって言ったな?」


「えぇ、ナガト様も何度かお会いになられてますよね」


 えーえー、知ってますともあの金髪のイケメンな。俺のマリアを口説いてモノにした不届き者だ。何度背中からバッサリやってやろうかという衝動に駆られたことか。

 まぁ相思相愛の仲を引き裂こうとするほど俺はアホじゃない。妬けるけどな。そもそも自分じゃ動けないし。


「マリア、そいつに俺を使わせろ」


「え? それは・・・・・・」


 俺の言葉に戸惑うマリア。まぁ、御神体を人に使わせるのはためらうわな。いくら自分の婚約者でも。


「まぁ、戸惑うのは分かる。だがな、マックスに死なれてお前さんが悲しむのは忍びない」


「しかし・・・・・・」


「それに戦争に負けてこの国が無くなったら俺やこの神殿がどうなるか分からん。俺はここに飾られてのんびり過ごしたいわけよ」


「本当に宜しいのでしょうか?」


「俺、御神体、俺の言ってることは御神託OK?」


 俺がそういうとマリアはようやく頷いた。


「分かりました。ナガト様、マックスの事お願いします」


 こうして俺はマックスという若造の剣として戦場に赴く事になった。

 ところで俺ってこれが初陣なんですけどマジで大丈夫なわけ? いきなりぽっきり折れたりしないよね? 名匠のジジイの腕前信用していいんかな・・・・・・





「ナガト様、本当に大丈夫なんですかね?」


 かっぽかっぽ馬に揺られながら戦場に赴くマックス。その腰には俺がぶら下げられている。そのマックスが弱腰に俺に尋ねてきた。


「あぁ!? 今更なにヘタレな事言ってやがる。ふざけたこと抜かしてると首切り落としてクソ流し込むぞ!」



「ヒィッ! す、すいません」


「貴様はこの戦争を生きて帰って”俺の”マリアと結婚するんだろ? 貴様は俺の許可なく死ぬ事は許さん! 分かったかウジ虫!」


「わ、分かりました!」


「ふざけるな! 大声だせ! タマ落としたか!」


「分かりましたっ!」


「口でクソたれる前と後に『サー』と言え! 分かったかウジ虫!」


「サー! イエッサー!」


 とまぁこんな感じで道中奴に気合入れてやりました。おかげでマックスも覚悟を決めたようです。いい事するな俺。




「ひぃぃぃ!」


 戦場で敵兵に追っかけられながら情けない悲鳴を上げるマックス。やれやれ情けない。


「なんだそのへっぴり腰は! ジジイのファ●クの方がまだ気合入ってるぞ!」


「サー! イエッサー!」


「クソまじめに戦うこたぁない! 神様に任せりゃケツに奇跡を突っ込んでくれる!」


「サー! イエッサー!」


 俺の言葉を信じ、マックスが遮二無二に俺を振り回す。

 ってやべ、目の前に居る奴が自分の剣で俺を弾こうとしてやがる。

 南無三! 俺は来るべきであろう衝撃に備えて気合を入れる。

 だが、衝撃はやってこず、俺は目の前に居る男の持つ剣を音も無く両断していた。その男の体ごと。俺すげぇ!


 「す、すごい・・・・・・」


 俺の切れ味の凄まじさに呆然とするマックス。


「ぼやぼやするな! 戦争が終わる前にお前の人生が終わっちまうぞ、アホ!」


「サー! イエッサー!」


 我に返ったマックスが再び俺を振り回す。やれやれ、世話の焼ける奴だ。

 このヘタレのマックスと共に戦場を縦横無尽に駆け抜け、俺は幾多の兵士をぶった切った。




 気が付けばいつの間にやら戦争は終結。結果はこっちが勝利していた。まぁそれはいい。

 だがな、このヘタレのウジ虫マックスが英雄扱いされてるのはどうよ? まぁ、確かに俺を振るって何度も劣勢ひっくり返してるんだけど、こいつは今でもヘタレだぜ?

 俺の方はいつの間にやら『神剣ナガト』と呼ばれるようになっていた。

 そしてヘタレと一緒に戦って分かった事がいくつかある。

 ひとつは俺はとんでもない斬れ味をもっている剣だった事。なんせ敵を鋼の鎧ごとぶった切ったり、岩を斬ったりできるんだぜ? しかも刃こぼれひとつありゃしない。俺を打ったジジイの腕前はホンモノだったらしい。だからと言ってあの地獄の日々を許すつもりは欠片も無いが。

 もうひとつは風の刃が放てる事が分かった。これは俺が刀身をむき出しにしている状態なら気合入れれば打てるようだ。こっちの斬れ味も剣本体と同様の斬れを誇る。

 最後にもうひとつ、俺は電撃を剣身に纏う事ができた。こっちも俺の気分しだい。ちょっとその気になれば相手を感電死させる程度の威力がある。

 まぁそんなワケで俺は数ある剣の中でも相当変り種だったようだ。まぁ元人間な時点で変わってるけどな。

 とりあえず俺は無事神殿へ返され、今も祭壇に祀られている。

 ヘタレのマックスとマリアは先日無事に結婚する事が出来た。マリア、幸せになれよ。

 まぁヘタレにちょいと釘刺しといたから大丈夫だと思うけどな。

 え? どんな風に釘を刺したのかって? こんな感じさ。


「いいかウジ虫! 俺のマリアを悲しませるような事をしてみろ。その時はじっくりかわいがってやる! 泣いたり笑ったり出来なくしてやる! 分かったか!」


「サー! イエッサー!」


 な、大丈夫そうだろう?




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