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47.僥倖―14『喧噪へのいざない―14』

(『だけ』――()()、か……)

 ミーシェルの言葉にハーランは、と胸を衝かれた感じで暫時(ざんじ)、黙り込んだ。

 トラブルが起こり、その結果、乗機を捨てて脱出しなければならなくなった時、パイロットが機体に接触すれば、程度の差こそあれ、まず間違いなく肉体に損傷をうける。

 打撲、骨折、折損、切断等だ。

 プロペラが牽引式配置(フロント)にあってもそうなのだから、推進式(リア)の場合は被害の程度がより重くなる。

 その難問を『安全域までパイロットをコクピットから射出してしまえば済むはなし』の一言で、クラムは片付け……、解決してしまった。

 いや、それは理屈をつきつめて考えたなら、論理の妥当な帰結点としてそういう解を得られるのかも知れないが、常識的にはまず無理だ。

 普通は……、と言うか、自分のような凡人は、その『常識』にとらわれ、縛られてしまって、みずから『解答』から遠ざかってしまう。

(いずれにしろ、だ……)

 ハーランはもぞりと(しり)をうごめかせた。

 ミーシェルの口から今きいた言葉の通りかどうかはわからない。

 だが、クラム(いわ)くの『打ち上げ花火みたいに安全域までパイロットをコクピットから射出してしまう』仕掛けが、たぶんはこの座席の下には仕込まれることとなるのだろう。

 (さく)(やく)をつかい、大砲みたいに人間を発射するものか、

 それとも、研究中だと風聞(うわさ)に聞く、ロケット方式か。

 いずれ、パイロットの身命を保護してくれる仕掛けなのには違いなかろうに、なんとも得体が知れない感じで、どうにも落ちつかない。

 ミーシェルといい、クラムといい、こと空を飛ぶことに関しては、風精(エルフ)はまさしく天才と評すしか言葉もないな――そう思って、ハーランはかるく(かぶり)を振った。

「どうかしましたか?」

 すこし不思議そうな顔でミーシェルが訊いてくる。

「いや……」

 ハーランは苦笑した。

「すこし気になっただけだよ。クラム君のこの新方式は、たしかにパイロット保護の観点からはプラスだろうが、座席そのものは従来タイプと較べるとどうしたって重くなるはず。

「前人未踏の速度達成を狙うのにはマイナスになってしまうだろうし、加えて、ボクに限らずパイロット役を務める人間は、新方式をつかっての脱出に、手順や動作を身体に馴染ませとかないと、最悪、あたらしいタイプのケガをするかも知れないなって」

「新しいタイプのケガ……?」

「うん。クラム君発案のこの射出座席は――」

 首をかしげる少女に身振りをまじえて説明をする。

「前向きに背中をかがめて座席座面のすぐ前にあるレバーを両手で引き上げる。それでスイッチがはいって座席そのものを機外に打ち出すことになるんだろうけど、まずはキャノピーをどうするか」

 頭上の風防(ガラス)枠を指さした。

「同時、かつ自動的に排除されるようになっていないと、パイロットはキャノピーに内側から激突することになってしまうだろ? たんこぶをこしらえるだけならまだしも、キャノピーにぶつかった事で脱出……、射出、か――が不首尾におわるような結果となったら目もあてられない。

「それから射出時にかかる加速度()も問題だ。それがどれ程のものになるかはわからないけど、あまりに過大すぎると人体が耐えられないし、そこまで負担が大きくなくとも、適切な姿勢をとっていないと(けい)(こつ)や背骨に異常をきたす危険も考えられる」

 一品モノの速度記録機とはいえ、パイロットの安全についてここまで配慮している以上、それに応えるためにも脱出時の動作訓練は必要だろうな、と、そう言った。

「はぁ……」

 溜め息のような、吐息のような、そんな感心とも呆れともつかない調子でミーシェルが声をもらす。

 両の目をまンまるに見開き、両掌は音の鳴らない拍手をしている様子から、純粋に驚き、そして、尊敬したもののようだった。

「それ、クラムにきっと伝えます!」

 やおら拳をにぎって叫ぶように言うと、

「やっぱり、ハルにお願いして正解でした! はじめての搭乗でそこまでわかるだなんてスゴいです! それって軍隊ででも新型の飛行機をテストするのをお仕事にしているからなんですか? スゴいなぁ」

 スゴい、スゴいと、手放しで賞賛の言葉を口にしつづけ……、そこで何に気づいたか、

「あ……」と声をあげると、あさっての方へ顔をねじまげ、やおら片手をあげるとブンブン大きく振りだした。

 そして叫ぶ。

「クラム~~!」

 お~い、と声を張り上げ、呼ばわった。

 ミーシェルの視線を追ったハーランも、

 いつの間にか試験棟の扉が開かれ、そこからトラックが一台、バックで進入してきている事に今更ながらだが気がついた。

 そして、トラックの窓から頭を突きだし、顔をねじまげて後方を確認している――ハンドルを握っているのが件のエルフの青年だという事にも。

(ここのところ姿をみないと思ってたが、どこかに出掛けてたのか……)

 出張?――そうも思ったが、それについて深く考える以前にトラックの荷台の方に注意が向いた。

 クラムが運転し、試験棟建屋の中に車体を突っ込んできたトラックは、荷台の上に(ほろ)で覆ったなにやら大きく、そして長い棒状のモノを載せていた。

(なんだ……?)

 ハーランは首をかしげる。

 わざわざ試験棟(ここ)に運び込むということは、〈ドラゴン・チェイサー〉関連のなにかであるのは間違いないが、今この段階になって用意するような品となると見当がつかなかった。

 トラックが停車すると試験棟の外からクラムに同道していたのだろう工員たちが数人駆け込んできて、荷物を固縛し、保護していた幌やロープをほどき、はずしていった。

 テキパキとした(よど)みない作業の結果、姿をあらわしたのは案の定と言うか細長い――複数の金属パイプと円盤型のゴムからなる複合体。

 飛行機の着陸脚だった。

 どう見てもそれ以外ではありえない構造をしたモノ。

 それが一基。

 一セットではなく、ただの一基だ。

 トラックの荷台上に水銀灯の光を鈍く重たくはじき、横たえられて運ばれてきたのだった。

「と、()()()()……?」

 ハーランは、荷物の()()がなにかが判明すると、思わず、といった感じで、そう呟いていた。

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