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46.僥倖―13『喧噪へのいざない―13』

 何も起こらないのはわかっている。

 ハーランは思った。

 機体そのものが模型であるのに、コクピットまわりだけが実機と同様の動作をするはずがない。

 なんと言っても動力源が無い。

 加えて、コクピット内にある操縦桿、フットバー、各種のレバー、またスイッチ――それらはどこにも繋がってない。

 油圧装置やモーターや電池、鋼索、電線、配管の類も何も艤装(ぎそう)されていないのだから当然だ。

 が、

 作動せずともわかる――確かめられることはある。

 レバー、ペダルに苦労しなくとも手足が届くかであるとか、手袋で着ぶくれた指先でもスイッチ操作を誤ることがないかとか、実際にあやつる者でなければわからない使用感覚だ。

 まさしく自分が、今、おこないつつある事だ。

 ハーランは自分の膝の間――操縦桿よりも更に手前にある警戒色に塗られた把手に手をのばした。

 何も起こらないのはわかっているのに、ひとつ唾を飲み込んだ。

 してはいけない事なら事前に注意をうけたはず。

 それが無かったのだから、試してみたところで不具合等はないのだろう。

 そうは思ってみても、やはり、どこか後ろめたさがあるのか、実行に覚悟がいったのだ。

 ちらと横目でミーシェルの様子をうかがう。

 これまでと変わらず、少女はこちらを凝視していたが、何かを言ってくる様子はない。

 ハーランは把手を思いきり上に引っ張った。

 すこし丸まっていた背中がのびて、勢いあまって背もたれにぶつかる。

 それだけだった。

 当然のこと、何かが起きることなどなかった。

 手にした把手は、引っ張った一番さいしょこそ、ガチンと引っ掛かるような手応えがあったものの、それは一瞬のことで、あとはスポンと抜けてしまった。

 なにも起こらないのまでは予期していたものの、これはさすがに想定外。

 やらかしたか!?――一瞬、ハーランが顔を蒼くした程の呆気なさだった。

 すこし呆然としていると、コンコンコン……と外からキャノピーをノックする音が響いてくる。

 見れば、ミーシェルがこちらの方へ、両掌を上向きに、差し出すように手をさしのべていた。

 どうやら、たった今、ハーランが引っこ抜いた把手を渡せと言っているらしい。

 表情には驚いたところ、怒ったところはなかったから、ハーランの頭を一瞬よぎったようには何も問題はなかったようだ。

 むしろ、ハーランが再びキャノピーをスライドさせると、

「ごめんなさい」と謝ってきた。

「い、いや、謝るのはこっちの方じゃない、かな……?」

 差し出された手にタイガーストライプに塗り分けられた把手をのせて、ハーランはハーランで頭をさげる。

「そんな事ないです!」

 しかし、ミーシェルはブンブン頭を振った。

「パイロットとしての立場で使い勝手をいろいろ試して、確かめてくださいってお願いしたのはこちらですもの。コレについても事前にちゃんと説明しておくべきでした」

 掌の上の把手を上下に揺するようにしてそう言った。

(ふム……)

 ハーランは内心で唸る。

「装備品を壊してしまったとかでなければ、ボクの方は問題ないよ。ミーシャが気に病む必要はない。それで――」

 口をひらくと質問をした。

「なにがどう働くのかまではわからない。だけど、その把手だとか、この座席だとかは、この機体が推進式のプロペラ配置を選択し結果、難度の増した脱出を補助するための工夫なんだよね?」

 言うと、『Oh……』という感じでミーシェルの目が、超・まンまるに見開かれた。

「さすが……」

 呟くように言う。

 感に堪えないという風に、ぶるりと頭をちいさく振ると、

「お見事です、ハル。ほんのわずかな時間でそこまで見抜いてしまうとは……!」

 笑みで顔をいっぱいにして、手放しな感じで賞賛してくる。

「そう! そうなんです! 確かにハルの言う通り! これって万が一の事態がおきた時、パイロットを安全に機外へ脱出させるための工夫って言うか仕掛けです! 射出座席って、クラムは言ってました」

「射出座席……」

 はじめて耳にする単語に、ハーランはすこし眉根を寄せる。

「具体的には?」

 かさねて訊くと、

「はい」と少女はうなずいた。

「ハルも知っての通り、推進式にプロペラを配置した飛行機には弱点と言うか、その基本構造からくる問題点がいくつかあります。操縦される立場の方からすると、牽引式の飛行機とくらべて機外へ脱出する際の危険が大きいことですね」

「そうだな」

 模型故、まだそこには何もついてはいない機尾に目をやり、ハーランはうなずく。

 今しがた、自分も同じことを思ったからだ。

 パラシュートを背負い機体の外へ身を投げた()()()()()は、推進力を有さず、また、空気抵抗をまともに受けるが故に後方へと吹き飛ばされる――傍目には、まるで空中に取り残されたかのような状態になる。

 そこに追い抜きをかけてくる感じですぐ(かたわ)らをそれまで乗っていた乗機が通過していくのだ。

 ほとんどの場合は大丈夫。

 だが、運が悪ければ、ぶつかってしまう事も(まれ)にある。

 そして、

 ここで、たとえば地上を走る自動車の例を考えてみる。

 ()()()()時速一〇〇キロ程度しかスピードをだしていなくとも、何かに衝突すれば乗っていた人間は無傷ではすむまい。

 これは、自動車がその外部にいた通行人をはねてしまった場合も同様だ。

 たかだか時速一〇〇キロ程度でも、()()なのだ。自動車をはるかに上まわるスピードで飛ぶ飛行機、あるいは機体そのものよりも更に高速で回転しているプロペラになどぶつかろうものなら、その人間の運命は()して知るべし。

「それで、ですね。今まで通りではダメなようなら、やり方を変えるしかないだろうってクラムが」言ったんです、とミーシェル。

「要は、(なた)みたいな垂直尾翼、回転するギロチンみたいなプロペラにぶつからないようにすればいい()()だから、だったら、打ち上げ花火みたいに安全域までパイロットをコクピットから射出してしまえば済むはなしだろうって」

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