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43.僥倖―10『喧噪へのいざない―10』

「ふム……」

 尻から(もも)、左右の肩をそれぞれに持ち上げ、背中をよじって、ハーランは一言、そう呟いた。

〈ドラゴン・チェイサー〉モックアップの操縦席(コクピット)の中である。

 狭い、が、これまで自分が操縦桿を握ってきた機体のどれよりも余裕がある――そう思っていた。

 さすがに中で宴会がひらける程じゃあないけどな――若干の諧謔(かいぎゃく)みをこめた含み笑いと共に。

 現在、熟成中の〈ガーディアン〉も含め、これまでに搭乗してきた戦闘機、また、過去の飛行競技会観戦時に見かけた〈ドラゴン・チェイサー〉のいずれもが、操縦席の幅をギリギリにまで削った、時として、『拷問具か、コレ?』と感じるような事もあったため、余計にそう思ってしまったのかも知れない。

 が、

 どうやら、そんな様子がすこしの誤解を招いたようだ。

「ど、どうですか?」

 すぐ傍から問いかけてきた声に、おずおずとした調子がまじってしまった。

「いや、問題ないよ」

 ちょっと慌て気味に、しかし、落ち着いている風をよそおい返事をかえす。

「むしろ、良い出来すぎて嬉しくなっちゃったくらいだ」

 言うと、

「まぁ……」と、今度は応じる声が笑みでほころんだ。

「ウン。お世辞とか抜きで良い出来だ。さすがにミーシャ――名設計者だね」

「そんな、おだてたって何も出ませんよ~だ」

 ハーランの付け足した言葉に、ぺろっと舌をだす感じで返る合いの手。

 そこで互いにわらい合う。

 コクピットにおさまったハーランと、〈ドラゴン・チェイサー〉モックアップの機腹に密着させているタラップ――その最上段から降りようとせず、そこに立ちつづけているミーシェル。

 ふたりの間でかわされている会話であった。

 飛行服を身に着けた操縦者が実際にコクピットに入り、その上で評価をおこなう、実地試験の端緒である。

 前回、ハーランがジヴェリ機械製作所――試験棟を訪れた際には、〈ドラゴン・チェイサー〉モックアップは(みて)(くれ)はともかく、内部はがらんどうだった。

 液体(なかみ)の詰められてない(さか)(だる)にも似た状態だったのだ。

 風防(キャノピー)こそ被せられてはいたものの、搭乗口はただの開口にすぎなかった。

 間近から覗きこんだなら、樽そのものな内側が見える――そんな状態だったのだ。

 それがようやく座席が据えられ、計器板、操縦桿、スロットルレバー等々々が取り付けられて、依然、張りぼてだという事実に変わりはないものの、『らしく』なった。

 キャノピーも、まずは全体との()()()()を見るといった感じの――形状修正あるを前提としての木製だったそれから、これが完成形だと言わんばかりの金属製のものに代わって、コクピットまわりだけを見ればほぼ実機と同じ。

 そう錯覚しそうな仕上がりなものになっていたのだった。

 今日は、そのテスト初日である。

 コクピットへの()()()()、それから座席についての機器類操作や外部の視認性等を搭乗者自身の目や身体で確認してもらう最初の日だ。

〈ドラゴン・チェイサー〉とは広義でのドラッグレーサーに他ならず、また、地上と違って障害物も何も無い空をゆくワケであるから、視界の良し悪しは、まぁ、それほど重視しなくてもいい。

 ただしコクピットそのものへのアクセスと、操縦系を中心とした機器類の操作性についてはしっかり確認する必要がある。

 なぜなら、本来、地を這う存在として生をうけたる生き物が、空を飛ぶというのは不自然きわまりない行為なのであり、

 かつ、〈ドラゴン・チェイサー〉は、〈紅い星〉を追うことを目的として、限界超えを要求される機械だからであった。

 パイロットが飛行機械をあやつり、また外部状況を確認する手段――それらはすべからく良好でなければならず、

 また、万が一にも飛行の継続が不可能な事態に陥ったなら、確実、かつ安全に機外に逃れられなければならない。

 機械は喪われてもまた造ればよいが、その機械に搭乗する人間の方はそうはいかない。

 操縦操作系の視認、操作が良好であること、

 緊急時には容易に機外へと脱出できること、

 それらは実際に〈ドラゴン・チェイサー〉に搭乗する人間に確かめてもらう必要があった。

 更に言うなら、ジヴェリ機械製作所にかぎらず〈ドラゴン・チェイサー〉は、まず間違いなく一品物である。

 量産はされない――衣服でいえばオートクチュールなオーダーメイド品も極めつけということになる。

 極限に挑むのであるからむしろ当然なのかも知れないが、だから人間が機械にあわせるのではなく、可能な限り〈ドラゴン・チェイサー〉に乗る個人に機械の方をあわせて製作される傾向にあった。

 つまりは、設計製作側からは機械の具合、その良否の最終判断はおこなえず、それが出来るのは実際に〈ドラゴン・チェイサー〉をあやつるパイロットだけという事になる。

 今や遅しとミーシェルが、ハーランの到着にやきもきし、焦れた挙げ句にスネてしまっていたのはそういうワケだ。

 操縦士(ハーラン)の評価を聞かなければ、現状で問題ないのか、それとも手直しが必要なのか、その判断がつかない――仕事が進められないからである。

 いや無論、ジヴェリ機械製作所の手になる〈ドラゴン・チェイサー〉を最終的に飛行競技会にて操ることになるのは、まず間違いなく従業員であるクラムだろう。

 現役軍人――一種の国家公務員たるハーランが、一私企業にそこまでの肩入れは出来ない筈だし、じっさい社長のモルトを筆頭に社員の誰もが頼むつもりは無い。

 が、

 そうであっても、実機が完成し、動力飛行、いや、その前段階の滑空試験の段階くらいまではハーランが操縦桿を握ることもあるのではないか。

 ハーランは空軍の高級士官であり、なにより王家の一員だ。

 こと飛行機の操縦に関するプロである事と、今後、〈ドラゴン・チェイサー〉の開発製造工程が、順調にすすむとは限らない。

 トラブルが生じてその打破に煮詰まり、時間だけが無為に過ぎて切羽詰まっていく――起きてほしくはないが、その可能性は考慮しておく必要がある。

 すなわち、工員と操縦士――二役をこなすクラムの負担を軽くするためにも、巻いていけるところは巻くべきで、最低限まもるべきは事前にさだめた工程をキチンとこなすこと。

 幸いにも正操縦士のクラムと予備のハーランとは背格好がほぼ同じ。

 機器類に対するフィッティングを厳密レベルで追求するなら微調整が必要だろうが、逆にいうならそれだけで済む。

 ハーランが操縦士としての目線で〈ドラゴン・チェイサー〉開発に携わるなら、その分、クラムは工員としての立場で製作作業に専念できる。

 そうした事情もあって、とりわけミーシェルはハーランのことをお客人あつかいしようなどとは思ってもいなかったのだ。

 彼の名を呼ぶ、その呼び方は別として。

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