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37.僥倖―4『喧噪へのいざない―4』

「わかりました」

 気がつくと、返事がするりと口をついて出ていた。

 お引き受けしましょうと言って、視線だけエルフの青年に向け、ちらと笑う。

「多分、原型はほとんど出来ているんでしょうし、いずれテストもされるのでしょう。そして、社長が今おっしゃったように私は現役のパイロットです。機体開発の手伝いを要望されるのであれば、何がしか参考になる意見をおつたえできると思います」

 それは、ハーランが〈ドラゴン・チェイサー〉見たさに、ミーシェルをそそのかして会社に忍び込んだとき、クラムが少女に向かって言ったセリフをほぼ焼き直したものだった。

 当のミーシェルはきょとんとしていたが、最初に原文を口にしたクラムには通じたのだろう――ハーランを見て、わずかに唇の端をもちあげた。

(社長は、ああ言っていますが、断っていただいて全然かまわないんですよ?)

(せっかくの(チャ)(ンス)だというのに、誰がそんなもったいない事をするものか)

 互いに口では含み笑いなどをし、存念はアイコンタクトにて伝え合うふたり。

 傍目(はため)で見ている者からすると、あんまり気持ちの良いものではない。まぁ、誰も気づいてはなかったが。

 とまれ、

 ハーランは言葉を続ける。

「なにより、以前、貴社の〈エアリエル〉のテスト飛行の際にも私は同乗させていただきましたからね。その優秀さを目の当たりにした身としては、〈ドラゴン・チェイサー〉の性能についても、当然、期待しておりますとも」

「をを……ッ!」

 単なるリップサービスではないと思わせる、過去の実績(?)を土台の言葉。

 その言葉に、モルトをはじめ、社員一同(おとこたち)は武者ぶるいめいた喜びにふるえる。

「……ああ。予定外の乗員が増えたせいで、実施するつもりだった試験が全部はおこなえなかった飛行の件ですね? いや、おかげ様で日程を組み直すハメになりましたし、余分な飛行をおこなわなければならない事にもなりました。――その節は、まことにお世話になりました、殿()()?」

「いやいや、何のそう礼を言われる程のことでは」

 じとりとした目で紡がれるクラムのチクチクとした仄めかし(アウティング)

 思わぬ僥倖(ぎょうこう)――棚ぼたに、完全に心浮かれてしまったハーラン。

 遠回しであるべき当てこすりが少しも遠回しでなければ、言われた側は居心地がわるくもなろうというものだが、どうにもまったく噛み合ってない。

 かえって周囲の方がハラハラするような場面だったが、その周囲もまた、青年ふたりと同様、こころのバランスを大きく欠いていた。

 ハーランが自分の依頼を快諾してくれてよりずっと、ググッと身を前にかがめて全身をブルブル小刻みに震わせていたモルトが、

「ありがとうッ!! ござい、まぁッすッ!!」

 部屋を(どよ)もし、その場にいる人間すべての鼓膜を破る勢いで叫んだのだ。

 よほど感極まったのか、ほとんど吠えるような声量であり勢いだった。

 気のせいか、目尻には何やら光るものが(にじ)んでいるような気さえする。

 見るからに頑固一徹、筋肉隆々な老ドワーフの瞳に浮かんだ一筋の涙。

 共感や感動、ましてや、もらい泣きなど決して誘われるものではない。

 むしろ、暑苦しさや鬱陶しさの方が勝るものであったろうが、しかし、

 同時に、どうしようもなく彼の歓喜の巨大さがわかるものではあった。

 なるほど、彼のジヴェリ機械製作所にとって、先の〈エアリエル〉の時以上に、〈ドラゴン・チェイサー〉を手がけることは、社運を賭けたチャレンジなのに違いない。

 だから、プロのパイロットたるハーランの同意に心の底から感謝し、魂が震えるくらいに感激したに違いないのだ――多分。

 が、

 しかし、

 その感激はわかるにしても、それから先の言動が、少々(?)常軌を逸していた。

 (たと)えて言うなら、ひと目で不調と見極めた客人のクルマを持ち主の許可なくバラして整備してしまった件のようにである。

 老ドワーフは、滂沱(ぼうだ)の涙をながしつつ、すっくと立ち上がると自社の社員たちの方へ身体ごと振り返った。

 そして、

「これで勝ったも同然だ!!」

 喉も裂けよとばかりに再びそう叫んだのだ。

 これにはさすがに、

「いや、いくら何でもそこまでは……」

 面食らい、陶然状態から醒めたハーランが、モゴモゴそう言いかけたのだが、それすら置き去りに、社長のノリにつられたその場の全員――ハーランとクラムを除く全員が、「ぃよっしゃ~ッ!」とばかりに、拳を天に突き上げ気勢をあげる。

 そして、その勢いのまま、雪崩をうって応接室から飛び出して行った。

 社長のモルトを先頭に、『全軍突撃、我につづけぇッ!』といった感じで、扉を破らんばかりの慌ただしさでもって社屋の奥へと突進、姿を消してしまったのである。

 平民が、

 王族で、

 軍人の、

 自分たちが呼びつけた格上の相手――頼み事をした客人をほったらかしに放置して、一目散にどこかへ行ってしまったのだ。

 非礼もここに極まれり。

 無礼である事この上ない。

 せっかく同意をとりつけたばかりの依頼も、ここでご破算になってもおかしくなかった。

 が、

 幸いにと言うか、いつもこうした不始末の処理をさせられている(のに違いない)フォロー役が、今回もあとに残っていた。

 と言うか、取り残されていた。

「……少佐殿」

 声をかけられ、呆然としていたハーランが振り向くと、クラムがそこに立っていた。

「まだ、お時間は大丈夫ですか?」

 不本意と申し訳なさがないまざったような、何ともいわく言いがたい表情をうかべ、質問してくる。

 苦虫を噛みつぶしたような顔というのはこういうものか。なるほどな、などと思いつつハーランが、ああと頷くと、

「どうやら全員、先に試験棟へ行ったようです。スケジュールの説明はありませんでしたが、さしつかえなければ私たちも移動して、そのまま作業にかかりたいと思います――よろしいですか?」

 かさねて、クラムは彼の都合を訊ねてきた。

「ああ、大丈夫だ」

「では、行きましょうか」

 エルフの青年はそう言って、眉根をもむと、やれやれとばかり、深くため息をついたのだった。

*お知らせとお詫び


拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

多忙を理由にしたくはないのですが、執筆に時間を確保する余裕がなくなってしまいました。

心苦しいのですが、次話以降については不定期掲載とさせていただきます。

あまり間をあけることのないよう頑張るつもりではいますので、どうぞご容赦お願いいたします。

申し訳ありません。

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