22.遭遇―2『〈紅い星〉―2』
「そんな風に言わなくったって、お茶くらい淹れてあげるわよ」
一体、いつ意識を取り戻したものか――仮眠から覚めたミーシェルは言った。
「……ホント、性格わるいよね、クラムってさ」
ブツブツ文句を言いながら、もう一度、寝返りをうち、半身を起こすと自分の脇に置かれてあったバスケットに手をやった。
植物の茎で編まれた、少しおおきめのそれのフタを開けると中には水筒やコップ、お盆の類が入っている。
山腹の滑走路に着陸してから、ふたたび空に舞い上がり、条件を変えたテストの数々に取りかかる前、一時休憩としてその場の全員に供するべく用意されていたものだ。
サンドイッチや果物等の食べ物は、地上班として滑走路に待機していた人間たちにも振る舞ったのでもう残ってはないが、クラムの要求したお茶は量にまだまだ余裕があったようだ。
ミーシェルはお盆を取り出すと、紙製のコップを三つ載せ、それから金属製の細長い円筒――水筒からお茶をそそいだ。
水筒の栓をひねった際、注ぎ口からほんのり湯気がくゆったから、どうやら、魔法瓶ででもあるらしい。
唇を尖らせ、気むずかしい顔をしたままカップに温かい飲み物を注ぎおえると、危ういところのない意外にスムーズな身のこなしで、ミーシェルは前へと脚をはこぶ。
男性陣ふたりとは身長差もあろうが、天井の低さには少し頭をかがめる程度に背をまるめるだけですんでいるのも移動がまだしも楽な理由としては大きいか。
自分のすぐ前に座っていたハーランには(まだ少しぎこちないものの)笑顔で「どうぞ」と、
そして、最前列の操縦士席に座るクラムへは、仏頂面で「はい、お茶」と言って、突きつけるように差し出すと、そのすぐ後ろの席へトスンと腰をおろした。
「……ホント、性格わるいよね、クラムってさ」
男たち二人と同様、自分もカップに一口、口をつけるとそう繰り返した。
多分、クラムは、ハーランとの会話の途中でミーシェルが目を覚ましたことに気がついていた。
それでハーランへの返事にかこつけて、チクチクと言葉でつついて少女をからかったのだろう。
一人だけ休憩することを良しとせず、しかし、事実上寝落ちしてしまったものだから、内心恥じていたに違いない少女は、的確に(?)それを自分に対する当てこすりと受け止め、だから、こうしてむくれている。
そういう事であるらしい。
しかし、この〈エアリエル〉のテスト飛行――往路でも、テスト本番ででも、いちばん頑張ったのはミーシェルである。
バケツの水をあびせた事やら、その当の相手の正体が実は――などといった事もあったから、それは緊張もしていたろうし、それで一件が無事落着したとなったら安堵のあまり疲労が限界を超えても仕方がない。
だから、別に気に病むことなどないとハーランなどは思うが、少女の考えはそうではないと、そういう事なのに違いなかった。
ジヴェリ機械製作所で、勝手にハーランのクルマを分解した悪事が判明した時、社長を筆頭として、それに荷担した人間たちを吊し上げたあの気の強さ――垣間見えた負けん気が、あるいはミーシェルという少女の本質なのかも知れない。 なんとはなしに、そうも思えるのだが、
とまれ、
「〈エアリエル〉を作る時だって、やれ機体は可能な限りブロック化しろとか、やれ尾部の垂直・水平の三舵は同じ平面構成のものにできないか、とか文句ばっかり言ってくれちゃって……!」
ミーシェルがブツブツこぼす言葉はとまらない。
ハーランも聞いているのだが、ここに来るまでの道中はもとより、テスト飛行もその一部始終に付き合ったわけだし、何も秘密にすることなど無い。
すでに身内。
そういう気分でいるものか。
けして意識しての事ではないのだろうが、さっきのお返しとばかり文句を羅列する事で、むしろ自分にこそ同情し、意を同じくしてほしい――ハーランを味方に引き入れたい心算のようと見てとれた。
おまけに、
「生産性の向上とトラブル発生時の応急処置、そしてメンテナンスを容易にするため、どれも必要なことだよね」
「わ、わかってるもん!」
おまけに、文句を言っても、それをぶつける相手がしれっと澄ました顔のままなので、有効打がだせずにイライラが募るばかりのようだ。
どうにもこうにも気がおさまらず、文句口にいっかな歯止めがかからない。
「でも! でもでも、すごくすごくすご~~ッく大変だったんだから! だ、だいたい新しく図面を起こすより、手直しの方が時間かかるのって絶対絶対おかしいと思う!」
これもクラムの注文が厳しすぎるせいだよ! ねぇ、聞いてる!? と、なおも一生懸命(?)言い張った。
自分の繰り出す反撃が、ことごとくクラムの鉄壁の(?)防御でもって封じられてしまうのが、地団駄踏むほど悔しいらしい。
と、
「ちょ、ちょっと待って!」
操縦士席まわりで口論(?)をつづける二人の間に割り込めず、ただ聞いているだけの状態だったハーランが、ここで流石に聞き流せない言葉を聞いて声をあげた。
「ミーシェルさん、クラム君――君たちは一体なんの話をしてるんだ!?」
身を乗りださんばかりにしてそう言った。
いや、実際に、自分の前の座席の背もたれをガシッと握ってなかば腰を浮かしている。
「あ……」
それに対してミーシェルが一転、申し訳なさそうな顔になった。(クラムの方は平然としたままである)
「す、すみません。お客様の前でお見苦しいところをお見せしてしまって……。いえ、ホント、わたしったら……」
と身を縮める。
しかし、こと飛行機関連のことについては奇矯な振る舞い、礼を失すること人後に落ちないハーランである。
「い、いや、礼儀だとかそんな事はどうでもいいんだ。そんな事より、ミーシェルさん!」
恐縮する少女に、詰め寄る勢いで問いかけた。
「は、はい!」
「今、クラム君との話のなかで、『新しく図面を起こすより、手直しの方が時間かかるのって絶対絶対おかしいと思う!』って言ったよね!?」
「は、はい!」
「それって、つまり、会社でこの機体の図面を引いたってこと!? 作図だけじゃなくって、指定された箇所の修正方法を自分自身で考えて!?」
「は、はい!」
自分の問いに、まるで首を振るだけのオモチャのように、ガックンガックン頷くミーシェル。
そんな少女の様子にハーランは、先ほど散々クラムに向けて、しかし、与えられなかった問いに対する答を得たことを知った。
自然と目がまるくなる。
「すると……、もしかして……、いや、もしかしなくても、この機体の設計者は……」
操縦士席から振り返り、こちらを見ているクラムの方へ目を向けた。
案の定、
コクリとクラムは頷いてみせる。
「そう。ミーシャです」




