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21.遭遇―1『〈紅い星〉―1』

 離陸と着陸を空荷のクリーン状態で何回か。

 それから、あらかじめ現地に運びこんでいたらしい荷物(ダミー)を積み込み、積載荷重を色々と変えて何回か。

 そうして離発着のテストを繰り返し、〈エアリエル〉の短距離離着陸性能がフロックではないと確かめた上で一行は帰路についた。

 だから、機内にあってハーランは完全にまいっていた。

 肉体的にはさほどでもないが、とにかく精神的に疲れ果てていた。

(いやいやいや……)

 際限もなければ意味もなく、そんな文句を心の中で繰り返している。

 ちがう単語に置き換えるとしたら、『まいった、まいった』――そんなところか。

 本当に今更ながら、だが、下手をすれば生命にかかわるようなテストをイチかバチかのぶっつけ本番でやる筈がない。

 今日のテストを実施する前に、十分すぎるくらいに十分に予行演習は済ませてあったに違いない。

 そんな当たり前の事に、すべてが終わった後で気がついたのだった。

 そういえば航空母艦を保有している国では、陸上の滑走路に飛行甲板とおなじサイズの枠線をひいて、まずはその枠内で離発着できるよう訓練をおこなうとか聞いたっけな、などと座席にだらんと伸びた状態でボンヤリ考えている。

「なるほど……」

 感嘆とも溜息ともつかぬ言葉が吐息とともに、ふゥと出た。

 つまりは、今日のテストは十分な成算なり自信なりの裏付けがあって実行された――できて当たり前のテストだった。

 言い切ってしまえば、単なる確認作業にすぎなかったのだ。

 操縦桿を握ったのが、クラムではなくミーシェルだったのも、その為だったかも知れない。

「なるほど……」

 (かぶり)を振ると、ハーランはもう一度そう呟いた。

 正直、まいったなという感じだった。

 彼はプロフェッショナルな飛行機乗りで、それも飛行性能を追求して作り上げられる戦闘機のパイロットだった。

 だから、同じ飛行機といっても民間用の軽飛行機にすぎない〈エアリエル〉の性能、そして、そのテストの難易度を低めに想定していたのだが、それは無理からぬ事であったろう。

 舐めてかかっていたと言えば、言い過ぎかもしれないが、甘くみていたのは事実だった。

「その結果がこれ、か……」

 苦笑する。

〈エアリエル〉の短距離離着陸性能を確認すべく用意された滑走路――『広場』

 それは長辺が二〇〇メートル弱。横幅にいたっては五〇メートルもなかった。

 上空を旋回して着陸箇所を確認している時に、ハーランが感じた通りの場所。

 周辺の樹木を伐採し、切り拓かれた跡地に手入れをしただけの空き地である。

 幅がないから着陸コースにのって、かつ降りる直前にならないと、山肌を覆う木々に邪魔され、そこに滑走路があると気がつかない。

(狼煙をあげてなかったら、わからなかっただろうな)

 それほど設定が過酷で、正気を疑うようなテストだったのだ。

 意地でぎりぎり踏みとどまり、悲鳴をあげなかったのは我ながら立派と、そう思う。(正直、着陸する寸前にクラムが話しかけてきて、注意をそらしてくれてなければどうだったのか、イマイチ怪しくはあるにせよ、だ)

「まいった……」

 もう何度目だろう――ハーランは、また、ふゥと息をつくと、のけぞるように座席の背もたれにあずけていた背中をおこし、

「クラム君」

 はじめて自分からエルフの青年に声をかけた。

 はい、と操縦士席から応じる声が返ってくる。

「お疲れになりましたか?」

 帰路は、クラムが〈エアリエル〉の操縦桿を握っているのだった。

 これで最後というテストが終わった途端、安心して気が抜けたのか、ミーシェルが気を失うように、ことりと眠ってしまったからだ。

 もちろん、このテストに備え、体調は整えていたろうが、それでも、すべてが成功裏に完了した時、張り詰めていたものが一気に解放され、反動がきてしまったのに違いないかった。

 熟睡してしまったわけではなかったが、いずれ寝ぼけ(まなこ)の人間に飛行機の操縦などさせるわけにはいかない。

 というわけで、今、ミーシェルは機体最後尾の床の上で寝息をたてている。

 操縦士と副操縦士――搭乗員をふくめて八人乗りと判断していた〈エアリエル〉だったが、驚くべし。

 なんと最後尾の座席の更に後ろにも積載スペースが設けられていた。

 もちろん、機尾にむけて絞り込まれていく狭さきわまる空間である。

 通常は荷物を積み込む貨物室として使われることになるのだろうが、人ひとり横たわる程度なら可能だ。

 床面には厚手のゴムが張られていて、物または人(たとえば傷病者)用のラゲッジスペースとして使えるようになっていたのだった。

 機体下面が乗降ハッチとして開閉するようにもなっており、ある程度以上の大きさの荷物や移動に補助の必要な人間を担架にのせた状態で運び込めるなど、一種至れり尽くせりな造りとなっていたのである。

 ミーシェルは、自分だけ先に休憩することに抵抗があったか多少ぐずったが、これもテストの一環として、ラゲッジの使い勝手を確かめなさいとクラムに諭され諦めた。

 それでも申し訳なさそうに、恥ずかしそうにしていたが、渋々といった風情で横になると、しかし、そのままコトンと眠ってしまった。

 かくして機内は、事実上、男ふたりの状態となったのだった。

 ハーランは、ひとつ咳払いをした。

「クラム君、さしつかえなければ教えてほしい――この飛行機を設計したのが誰なのか」

 テスト飛行に出発する前、当のクラムが口にした『当社の新製品』という言葉が、今になって引っかかっていた。

 今日、はじめて訪れたジヴェリ機械製作所。

 比較的おおきな工場であり、会社だとは思ったが、それはあくまでカラントゥール市内では、という条件付き。

 王国全体で見た場合、ジヴェリ機械製作所はいいところ下請けどまり――大手企業からの委託業務が仕事のほとんどを占める操業規模だと推測できた。

 それだけに驚いたのだ。

 そんな小さな会社が、軽飛行機とはいえ、これ程のものを作り上げたということに。

 だから、興味を()かれた。

 しかし、クラムは答えない。

 それどころか、

「喉が渇きましたね。何度も地面の上には降りたのに、どたばたするばかりで、結局、お茶の一杯も飲んでない」

 全然関係ないことを言いだした。

「設計者が誰か教えてくれないか?」

「なにせスケジュールが押し気味でしたからね。出かける前にいろいろあったから」

「設計者は?」

 すこし苛立(いらだ)ちがまじりはじめたハーランの再三の問いも素通りさせて、クラムは噛み合わない会話をなおも続ける。

 答えたくないわけではなさそうだった。

 その証拠に、彼の口許には悪意からくるものではない――どちらかと言うと(いた)(ずら)っぽい笑みがきざまれている。

 しかし、

 にしたところで、そうした会話を続ける意図が分からない。

「だいたい飛行機に操縦士とお客様が乗っているんだから、客室乗務員(アテンダント)だっていて良いと思いませんか?」

「クラム君!」

 さすがにたまりかねてハーランが声を荒げかけた時、

「もう! うるさいなぁ!」

 第三の声が割って入ってきた。

 若い女の声だった。

 突然の会話への闖入者に驚きハーランが後ろを振り返ると、いつ目を覚ましたのか、うつ伏せに姿勢を変えたミーシェルが、口をとがらせ、操縦士席を睨んでいた。

「そんな風に言わなくったって、お茶くらい()れてあげるわよ」

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