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はじまりの日


 この国には人や動物や昆虫などとは異なる、妖というモノが存在する。多くの人には目に見えない霊のようなものや獣に似たもの、人の姿をして人語を操るものなど一言で妖と言ってもその種類は様々だ。


 妖の中には不思議な術を使い人を害するものや、存在そのものが人とは相容れないものも多く、そのため人と妖は古くより争いが絶えなかった。


 はじめは対抗する力を持たなかった人だが、長い時の中で妖の術にも対抗ができる存在が現れた。危険な妖に対抗する為の術として最も優れた力、それが巫女の力だ。巫女の力は穢れを祓うもので危険な妖に対しては絶大な効果があった。


 巫女の力を得た家系は代々その力を血で繋いできた。そして巫女には護り寄り添う者の存在があった。その者は巫女から武器に対魔の力を賜り、その力で物理的に妖を滅した。


 それが巫女の守護者だ。



 しかしそれも過去の話。

 150年前の大きな争いで、人は危険な妖の力を大きく削ぐことに成功し、この現代では妖の存在を生活の中で感じることはほぼなくなった。多くの人にとってその存在自体過去の物だ。妖などもう存在しないと思っている人も多い程に。


 実は現代にも人に姿を変え紛れて暮らす妖はたくさん存在するのだが、多くの人はその妖も人としか認識できていない為、それを伝えても信じることはないだろう。表向きは人間様の天下だ。

 

 妖との争いがなくなったことで妖に対抗する力を持つ者も減っていった。きっと時代が過ぎゆくにつれて存在自体も忘れ去られていくのだろう。




 しかしそんな時代の流れと逆行し、力や技を磨き続けている一族がいる。


 それが巫女の守護者の一族である綾瀬家だ。その娘である綾瀬心あやせこころも当然のように日々武術の鍛錬に明け暮れている。いつ巫女を護る役割を任されてもいいように。


 今日も高校から帰ってくるとすぐに道場へ向かい素振りを始める。


「ふっ!ふっ!」


 刀を振り下ろす度、高い位置で一つに束ねた絹のような長い黒髪が揺れる。その見た目は守護者と言うよりも巫女と言う方が余程しっくりとくるような、儚い少女である。


 しかしこの少女、見た目に反して数々の豪胆な逸話を持つがっつり武道派である。小学生の頃にいじめっ子のガキ大将を張っ倒した事から始まり、街で難癖をつけてきた不良の集団を一人で一掃したことは記憶に新しい。


 彼女を知る人たちは、彼女を美少女の皮を被ったゴリラだと語り恐れている。絶対に怒らせてはならないと。


 幼い頃から剣道を始めあらゆる武術を極めてきたことで、物理的で純粋な力もとても強くなった。か弱い女性とは対極にいるのが心だ。



 いつか巫女様を護るべき時に力を発揮できるように日々力や技術を磨いてきた。その“いつか”など、ないならない方が良いとわかってはいるが、いつかが来た時に足手まといには絶対になりたくはなかった。



 道場の戸が開き人影が覗く。


「心。大爺様が呼んでいるよ。落ち着いたら顔を出しなさい。」


「わかった。あと素振り50本終わったらすぐ行く。」


 戸から覗いた父は返答を確認して去っていった。


 大爺様とは心の曽祖父で、先の大きな争いで妖を滅した巫女の守護者の孫に当たる人物だ。心の武術の師でもある。心が小さい頃から、自分が祖父から聞いた絶大な力を持った巫女様の話をよく聞かせてくれた。曽祖父の代では巫女様と仕事をすることも少なかったと言うが、時々会う巫女様はそれはもう神々しい美しさだったそうだ。


 そんな大爺様が昼間から心を呼びつけるのは珍しい事だった。


 心は50本の素振りを終えると汗を拭い、すぐに大爺様の部屋を訪ねる。


「失礼いたします。心です。」


「おう。心、入れ。」


 戸を開けるととても90代には見えない背筋の伸びた男性が頰を綻ばせた。


「急に呼び出してすまないな。実は先程巫女様より伝達があったのだ。近頃妖の動きが活発化しているそうだ。各地の神力が弱化している影響で、封印も揺らぎが出ているらしい。なので当代の巫女様と今綾瀬家で一番力を持つ者でその揺らぎを直して周ってほしいそうだ。」


 かつての争いの中で滅することが出来ず、封印をした妖が存在する。封印を守る力を神力と言う。巫女様の血筋ほどではないが他にも力を持つ家系は存在し、その者たちが神職に就き封印の守護をしている。


 しかしその神力も代を変わるごとに弱まっていき、それが封印の揺らぎに関係している。

 封印が破かれてしまうということは、妖との争いがまた起きてしまうということ。数多の人の命が危険にさらされるということだ。


「今の綾瀬で一番力を持つのはお前だ。俺にまだ力があれば良かったのだがすまない。心、任せられるか?」


 断る理由などあるわけがなかった。心が力を磨いてきたのはこの為なのだから。妖に対しての実践経験はないし、怖くないと言ったら嘘になる。だがその恐怖をねじ伏せるように大きく返事をした。


「はい!必ず巫女様をお守りします!!」


 部屋に響いた声音は今までにない程凛としていた。




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