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6

 私達は昼食を終えてから向かい合って座っていた。

 机の上には一本の杖とゴムボールが置かれている。

 今日、ついに初めて魔法を習うのだ。

「当面の目標はほうきに乗ることでいいかしら」

「うん。お願いします」

 ぺこりと頭を下げる。

「では、その杖を使ってこのボールを浮遊させてみましょう」

 杖をボールに向けてクイッと上に振るとボールが浮かび上がる。

 おぉ、魔法使いっぽい。

 ボールは右や左、上下に動いている。

「最初の課題はこれくらいまで自由にボールを操ること。まずは浮かべる所まで頑張ってみて。強く思い浮かべるの」

「分かった」

 簡単そうにやってるけど、そんなにあっさりと出来ることなのかな?

 杖を掴んでボールに向けて自分なりに強く思い浮かべる。

 ボールは・・・浮かなかった。ピクリともしない。

 そうだよね。今まで生きてきて物を浮かせるなんてことしたことないし・・・。

 色んな振り方をしてみたけど結果は同じだ。

「最初はそんなものよ。魔法のない時代から来たのだから」

 そうかもしれないけど、なんだか悔しい。

「コツとかない?正直何も分からない」

 何かしらの感覚を掴みたい。

「魔法はその人の心。だから、感覚もコツも人それぞれなの。あなた自身が頑張るしかないの」

 いつもと違って厳しい。

 真剣な眼差しで私を見る。

 正直、少し怖かった。

「ほら、頑張って。時間がかかるのは仕方のないこと。だから練習あるのみよ」

 それから、夕食の時間まで杖を振る。

 しかし、その日は何も起こらなかった。




 あれから、数日。

 私は洗濯物を干し終えてから、ゴミの中から出てきた使えそうな折りたたみ椅子に座って空を見上げていた。

 毎日練習しているけど、何も起こらないしんどい日々を送っている。

「もう分かんない」

 手足をバタバタさせて、ため息を吐く。

 メアリーはどこかへ出かけた。

 私はいつも通り家事をして午後からまた杖を振ることになる。

 多少でも動いてくれたら気分もだいぶ違うんだろうけど・・・。

 ボーッと流れる雲を眺めていると声がした。

「こんにちは。シェリーさん」

 この未来でメアリー以外に唯一知っている声だ。

 そちらを向くと塀の上に立つサングラスを掛けた女の子がいた。

 ユメさんだ。

 ・・・あまり塀の上に立つのはよくないのでは?

「また会いましたね」

 ユメさんは嬉しそうに笑っていた。

「こんにちは。こんなに早く会うとは思いませんでした」

「ここら辺を見て回っていたらあの時と同じ声が聞こえたので」

 あれを聞かれたってこと?恥ずかしい。

「それに匂いも形も同じでしたから間違いないと思いました」

 えぇ・・・何か怖い。

「それで何が分からないのですか?」

 恥ずかしくて体が熱くなってきた。

「・・・はい。魔法が使えなくて悩んでるんです」

 ハハハと目をそらして苦笑い。

「成る程。ちょっと失礼しますね」

 ユメさんが敷地に入ってくる。

 入れちゃって大丈夫だよね?

 そして、私の前に立つ。

「あ、あの・・・」

 冷たい手が私の頬に触れる。

 まったく動くことが出来なかった。

「うーん。素質自体はありそうですけどね」

 触っただけで分かるのか?素質って。

「珍しいですね。まるで今まで魔法を知らなかったような・・・そんな感じです」

 え?本当に怖いんだけど・・・。

 ユメさん何者?

「経験不足でしょうか。続けていけば使えるようになりますよ」

「はぁ・・・ありがとうございます」

 もしかしたら、動揺しているのもバレているかもしれない。いや、きっとバレてる。これが魔法使いなのかな・・・。

 手を離してから家を見上げる。

「それにしても、良い場所に住んでいるんですね」

「はぁ、まだあまり外に出たことないので分からないんです」

 その言葉で雰囲気が変わったように感じる。

「あのシェリーさん。ここで誰と暮らしているんですか?」

 ユメさんは何か怪しんでいるような、警戒しているような感じがした。

 たしかにこの時代に魔法を知らなくて家からあまり出てないとか言ったら心配されるかも。

「メアリー・クレマチスさんです」

「ここが・・・」

 家をまた見上げる。

 メアリーのこと知ってるの?

「シェリーさん。端末は持ってますか?」

 何のことを言っているのかは分かるけど持ってない。

「えーと、ありませんね」

 なんだか悪い方向へ行ってる気がした。

 このままはまずいのでは?

「成る程・・・」

 考え込むユメさん。

 もしかして、通報とかされない?

「あの私は大丈夫ですよ」

 咄嗟に出た言葉。言った後に逆効果かなと思った。

 ため息を吐いて「そうですか」とつぶやく。

 何とかなったのかな?

「では、また遊びに来てもいいですか?今度はお菓子とか色々と持ってきます」

「いいですよ。また、お話ししましょう」

「では、今日はこの辺で失礼します。・・・もし、何かがあったら大声を出して逃げて下さいね」

 とんでもない跳躍力でぴょんぴょんと屋根の上までジャンプする。

 あれも魔法なのかな?

「さようなら。また、会いましょう」

 小さく手を振ってから、ジャンプして行ってしまった。

「さようなら」

 前回みたい手を振って見送った。

 何か変なことにならなければいいけど・・・。




 ここはアウルと隣国との国境であるママルル山脈。

 高低差の激しい岩山のとある場所に私達の研究所が隠されています。

 一見何もないそこで解錠の呪文を唱えます。

「オープン・セサミ」

 魔方陣が現れてその中央が開きました。

 そこに入って進んでいくと大きく開けた空間に出ます。

 ここで私達はとある魔術機巧を造っているのです。

 既にメンバーはそろっていてお茶を飲んでいました。

 一人は褐色の肌で卵色(たまごいろ)の髪をした女性。丸眼鏡にキャップを逆向きにかぶって、作業服を着ています。

 名前はアリッサ。

 そして、もう一人。

 藤紫(ふじむらさき)色の髪の女性。

 身長は私より一回りくらい小さいです。

 名前はアンナと言います。

「おはよう」

「おはようッス。今日も遅刻ッスね」

 とアリッサ。

「別にいいでしょう」

「ウチはいいッスけど・・・」

 アンナは私に顔すら向けていません。

「遅い。約束の時間はとっくに過ぎてる」

 怒っているみたいです。まぁ、いつものことです。

「ごめんなさいね」

 簡単に謝ってから中央にある浮遊する球体を見上げる。

 これが私達の作っている魔術機巧です。

 クレマチス家の歴史をたどってようやく十数メートルまで大きく出来ました。

「これだけの機巧なら大抵のことは出来るッスけど、まだ大きくするんスか?」

 手渡された端末を受け取って進捗を見る。

「ええ、私達だけでどこまで作れるか試したくない?」

「でも、技術的に面白いのはここら辺までッスから・・・私としては最新技術もうまく取り入れて・・・」

 ここからは単純に処理能力を上げることが多くなります。

 折角だったら、アリッサの言っているように新技術の導入も面白そうです。

「簡単に言ってるけど、これにうまく適合させるのは難しくない?」

 アンナもやってきます。

 話に混ざりたかったのか怒っている様子ですが普通に会話してくれました。

 ・・・今のうちにお願いをしましょう。

「ねぇ、アンナ」

「何よ」

 ツンツンしています。

「今度家に来てくれない?相談があるの」

 二人とも驚いて、私を見る。

「珍しいッスね」

「最近、嫌がってたのに急にどうしたの?・・・また面倒事?」

 睨まれました。警戒しているようです。

「お願い。理由を聞かずに来て」

 同棲をしていることを言ったらどうなるか分かりません。

 シェリーを巻き込んで説得してから色んな手続きをやってもらうつもりです。

 正直、手続きに関してはどんな物が必要で何をすればいいのか何一つ分かりません。

 今の家に住む時のあれこれも全部アンナがやってくれました。

「絶対に嫌」

 顔をそらされてしまいました。

 しかし、私には必殺技があるのです。

 手を握って上目づかいでアンナを見ます。

「お願い。・・・お姉ちゃん」

 心を込めて言いました。



・・・・・



 エルビエラ

 アウルの公認魔導師の呼び名です。

 詳しくは知りませんがアウル建国の時に活躍した魔導師の名前でそうです。

 アウル第2都市の主要機関が集まる中央区。

 私はそこのとある建物にいました。

「遅かったな、ユメ。どこまで行ってたんだ?」

 部屋には珍しくメンバー全員いました。

「・・・少し遠くまで。後、お話ししたいことがあります」

「へぇ、何?」

「クレマチス家のことです」

 皆さんがそれぞれ異なった反応をします。

 ハッとしたり面倒くさそうにしていたり・・・あまり良い反応ではありません。

 しかし、彼女は違いました。

 面白そうに笑っています。

「いいよ。聞かせて」

 彼女の名前はルシーズ・バリエル。

 エルビエラのナンバー2。

 つまりこの国で二番目に強い魔導師です。

 短いのもあって、こっちが先になりました。本編も書いてます。

 ユメさんはどのお話にも登場するキャラクターで紗倉見編の元になったお話にもこのお話にもいました。

 この話を作る時に名前を変えようかと思ってましたが、ユメ以外あり得ないという結論に至ったのです。

 思い出深い人物で、最後にどうなるかまで決まっています。

 その物語がクムパプユアネの、この活動の1つの区切りになるでしょう。

 どんなに遅くてもそこまでは書き続けたいと思っています。

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