表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/29

4

 私達を乗せたほうきは都市部から離れた住宅街へ向かっていた。

 その途中で何人もの魔法使いとすれ違う。

 それに遠く離れた所にもランタンの光が見えた。

 やっぱり未来(ここ)では魔法というものが一般的のようで別世界に来たように感じる。

 魔法使い達が作り出す夜景を眺めていたら、メアリーさんがもうすぐだと教えてくれた。

 家などの建物は私のいた頃とそんなに変わらないみたいだけど、魔法的な仕掛けとか何かがあるのかもしれない。

 どんな家なのか楽しみ。


 私達が着陸したのは大きな二階立ての家の庭だ。

 暗くて分かりにくいけど、庭もかなり広そう。

 やっぱりお金持ちの家の子なのかな?

 いつの間にかほうきが消えて、代わりに手に持った杖を振ると家の明かりが付いた。

「ここが私の住んでいる家よ」

 なぜかとても嬉しそうなメアリーさん。

 門扉から家の玄関まで続いている立派な石畳が見え、その上に私達はいる。

 特殊な石なのか、魔法なのか分からないけど、薄く光って道を分かりやすくしてくれていた。

 ・・・そして、気になる所が他にあった。

 石畳の外側には雑草が私の腰以上に伸びている。それと、玄関前にはゴミ袋が散乱していた。

 ・・・大丈夫だよね?

 そう言えば、さっきまで暗かったけど、親御さんとかどうしているんだろう?

「あのご家族は?」

「私はここで一人暮らししているのよ」

「そ、そうでしたか」

 一人暮らしなのに初対面の人を泊まらせようとしてたのか・・・。

 いくら私が女性だからと言って、そこまで出来るものなのかな?私には出来ない。

 石畳を進む。

 ・・・なんだか緊張してきた。

 そもそもお泊まりとかも初めてだし、どうしていいのか分からない。

 ・・・失礼のないようにしないと。

 玄関前まで来るともう一度杖を振るう。

 カチッと音がして扉が開いた。

 ゴミ袋に当たって開ききらなかったけど、気にしないようにする。

「ようこそ。私の家へ」

 嬉しそうな声だった。

「お邪魔します」

 きっと中にはもっと色んな魔導道具とか仕掛けとかあるんだろう。

 なんだかワクワクしてきた。

 しかし、私は家に入れなかった。というより、どこに足をついていいのか分からない。

 辺り一面、ゴミ袋や物で埋まっている。・・・ゴミ屋敷だ。

 言葉を失ってしまう。

 呆然とする私の様子に気付くと急に言い訳みたいなことを言い始めた。

「あー・・・今日は偶然こうなってただけよ」

 ・・・本当なのかな?

 リビングも台所もゴミだらけ。

 よく1人でこれだけの広さを埋め尽くせたな。

 メアリーさんは魔法でそこら辺のゴミを壁際に追いやって道を作った。

「そんなことより夕食にしましょう」

 気を取り直してみたいな言い方だけど、視界に入る全てがヒドい。

 このゴミの中で可愛い少女が嬉しそうにしている光景。異様だった。

 テーブルの上の物を魔法で雑に退け、そこに先ほどの乾パンが山のように積まれる。

「晩ご飯はこれよ。好きなんでしょ?」

 にこやかなメアリーさん。

 この数分で地獄みたいな状況になってしまうなんて・・・今日を早く終わらせたいと思ってしまった。

 さっきまで未来とか魔法とかで胸を躍らせていたのに・・・。

 まぁ、いいや。今は乾パンだ。

「すみません。それ微妙でした」

「・・・そう。やっぱり?」

 メアリーさんは苦笑い。

「はい。すみません」

「でも、今は家にこれしかないから」

 ・・・一日乾パン生活が確定した。


 謎に種類のある乾パンをミルクに浸しながら食べていた。

 ・・・私は何をしているのだろう。

 ミルクに浸せば美味しい。と、メアリーさんの言葉を信じて食べている。

 ミルクは当然のように期限切れだ。

 チョコレート味がそこそこ食べれる。他に感想は出てこない。

 ・・・というか乾パンってこんなに美味しくない物なのかな?この様子を見ると管理とかちゃんとしてなかったのでは?

 食べ始めてから無言が続いていた。

 それが辛かったのかメアリーさんは口を開く。

「もう少ししたらお風呂が沸くから入りましょう」

 ちょっと前に杖で魔法機巧に指示を送っていた。

 この家には他にもかなりの数の機巧があるみたい。

「はい。先にゆっくりしてきて下さい」

「・・・何を言っているの?」

 ん?首を傾げる。

 メアリーさんは少し恥ずかしそう。

「い、一緒に入るんでしょ?」

 ・・・この人は本当に何を言ってるんだろう。

「いやいや、そんな訳ないじゃないですか」

 否定した私の言葉にとても驚いていた。

「ち、違うの?」

「違います」

 慌てるメアリーさん。

 会った時の可愛くてクールな雰囲気は完全に無くなっていた。

 この家に来てからメアリーさんの印象がどんどん変わっていく。

「でも、私が読んだ書物では一緒に入ってたわ」

「どんな書物ですか」

「これよ。こっちに引っ越してくる時にもらったの」

 ゴミの中から一冊の本が飛んできて、キャッチする。


『友達の作り方(決定版)』


 そんなに友達が出来ないと思われてたってこと?

 まぁ、この部屋を見たらたしかに難しいかもしれないけど・・・。 

 決定版とか書かれてるけど、大丈夫なのかな?その本。

 でも、私の時代でも漫画とかでは一緒に入っていた気がする。

 時代が変わっても、謎の価値観は変わってない部分があるのかもしれない。

 それでも、現実か物語かの差がある。

「それは間違った知識だと思います」

 一瞬、顔が引きつってたけど、すぐに反論してきた。

「あなたは千年前から来たのでしょう?なら、こっちが正しいかもしれないじゃない」

 本を軽く叩く。

 そう言われると言い返せない。

「この未来に来たのならそれに・・・いえ、この本に従ってもらうわ。なぜなら、決定版だから」

 何を言っても無理そう。

 ・・・お風呂に入るくらいならいいのかな?

 説得を諦めようとしていたけど、最後に本人がどう思っているか聞いてみた。

「メアリーさんは正しいと思ってますか?」

「それは・・・いきなりは恥ずかしいし・・・」

 顔をそらして恥ずかしそうだ。

 意外と抵抗はあるみたい。

「じゃあ、別々にしましょう。もう少しお互いを知ってからでも遅くないでしょう」

 この言葉にメアリーさんは息を吐いて椅子にもたれかかる。

「・・・そうね。本が間違っているかもしれないし」

「はい」

 良かった。諦めてくれた。

「でも、ベッドは一つしかないから一緒に寝ましょう」

 今度は私の顔が引きつる。

 その『友達の作り方(決定版)』には一体何が書かれてるのだろう?

「私は適当な所で寝ますから大丈夫ですよ」

 ゴミの中で寝ることになるけど・・・。

「そんな扱いできないわ。ベッドは広いから大丈夫よ」

 広いベッドかぁ・・・。

 これだけ大きな家のベッド。きっとフカフカなんだろうな。

 この部屋を見渡す。

 うん。一緒に寝よう。




 家の二階は寝室と浴室、トイレのみで休息を取る空間になっていた。

 一階と違ってまだ床が見える。

 寝室に至ってはまるで誰かが掃除をしたかのように綺麗だった。

「どう?広いでしょう?」

「はい」

 お姫様とかが寝ているような大きなベッドがあって、天井には球体の魔法?みたいな何かが動いている。

 そこからの柔らかい光がこの部屋を照らしていた。

「そうだ。この部屋ならきっとあなたも魔法が使えるかもね」

 え、使ってみたい。

「どうやるんですか?」

「魔法は心で思い描くのが基本よ。そうね・・・何か飲みたい物はある」

「お茶がいいです」

「なら、お茶の缶が欲しいと思ってみて」

 言われた通りにしてみた。

 手元に冷たい感覚と固い触感がする。

 お茶の缶だ。

 さっきまでメアリーさんがやっていたみたいに突然、現れた。

「おぉ、すごいです。どういうことですか?」

 私も魔法使いデビュー?

「正確にはあの魔方陣がやったのよ」

 さっきの天井の球体を指した。

 ああ、やっぱり・・・。

 ちょっと期待しちゃった。

「あなたの思いに反応してセーブキュ・・・えーと、倉庫みたいな所から手元に移動させたの」

 さっきから出したり消したりしている魔法か。

 もう一度、魔方陣を見上げる。

 だからここだけ綺麗なのかな?


 それから、別々でお風呂に入って、一緒に寝ることになった。

 服は今着ている一着しかないので今日はメアリーさんのバスローブを借りることになる。

 それも、あの魔方陣が出してくれた。

 ・・・何でもありになってる気がする。魔法、思っている以上にヤバいな。

 寝室へ戻るとメアリーさんはベッドの上で難しそうな魔法の本を読んでいた。

 私に気付くと消えて、メアリーさんがこちらを向く。

「温まれた?」

「はい。ありがとうございます」

 メアリーさんはベッドをポンポン叩いて、ここに来なさいと合図している。

「私だからいいですけど、あまりそういうのやらない方がいいですよ」

「そうなの?」

「はい。色々と勘違いする人がいるかもしれません」

 よく分かってないみたいで首を傾げていた。


 それから、すぐに横になった。

 メアリーさんはほうきの運転で疲れたみたい。

 あんなにすごいことを一日中やってたんだから当然だと思う。

 私達は少し離れて向かい合っていた。

「今日はどうだった?」

「・・・何というか色々あり過ぎて私も疲れました」

 そうよね。とメアリーさんは笑う。

 そして、私の手を握って真っ直ぐ私の目を見る。

「ねぇ、さっき使用人になってと言ったの覚えてる?」

「はい」

 握られている手に力が入る。

「同じ条件で私の友達にならない?」

「はい?」

 友達ってそんな契約みたいな関係なのかな?

 なんか今日ずっと一緒にいたけど、少しズレてると思う。

「ダメかしら?」

「いいですよ」

 メアリーさんは嬉しそうな顔をする。

「じゃあ、敬語は止めて。メアリーって呼んで」

「・・・分かったよ。メアリー」

「ありがとう。・・・おやすみ・・・シェリ・・・」

 相当、眠たかったのだろう。

 すぐに目を閉じて眠ってしまった。

 私も寝顔を見てからゆっくりとまぶたが閉じていく。

「おやすみ、メアリー」

 ・・・そう言えば、私があの草原で目を覚ました時、なんでメアリーはあそこにいたんだろう?

 偶然かな?それ・と・・も・・・。

 私もすぐに夢の世界へ落ちてしまった。

 今月はそれぞれを一回ずつ更新出来ました。

 来月も頑張りたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ