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深夜の第二都市。
酒飲みも眠り始め、街灯も消えて、星空が綺麗に見える。
そんな闇の中を走る三人の男女がいた。息を切らして、死に物狂いだ。
「クソッ、何でだよ。何で・・・」
「うるさい。今はとにかく逃げるの」
「早くこっちだ」
彼らは追われていた。誰にも助けを求められない彼らはどうにかして追っ手を撒くしかない状況だ。
必死に走る三人。それよりも速く何かが追い抜いて、進行方向へ転がった。
「お、おい・・・嘘だろ?」
それはさっきまで一緒にいた仲間だった。
ピクリとも動かず、生きているのか分からない。
驚きで足を止めてしまった。
背後からコツンコツンと足音が聞こえる。
恐る恐る振り返った。
そこにいたのは 両目を布で覆っている小さな少女。この国の公認魔導師、ユメだった。
「お前ら先に行け」
一人の男が杖を取り出して叫んだ。
「でも・・・」
「いいから早く時間を稼ぐ」
無数の火球を発生させる。
「いくぞ」
もう一人の男が女の手を取り、走り出す。
ユメは火球に怯むことなく歩いている。
「どうだ?すごいだろう。これがギフトの力だ」
ユメは無反応だ。
「反応すら出来ないのか?でも、もう遅いぜ」
杖を大きく振り、火球を放つ。
狭い路地で逃げ場はない・・・と男は思っていた。
ユメは必要最低限の動きでかわしながら男の前まで来てしまう。まるで未来が見えているかのように全く当たらない。
「嘘だろ?本当に人間なのか?」
次の瞬間、男の視界は暗転してしまった。
必死に逃げる二人の前にまたユメが現れる。
二人は逃げることを諦めて戦おうと杖を出す。
「どうして、私達が居場所が分かるのかしら」
「マナシを馬鹿にしやがって」
杖を向けた時にはもう遅かった。ユメはその場所にいない。
何が起こったか理解もできないまま、二人は倒されてしまった。
担当していた逃走者を気絶させたユメは通信魔法でルシーズに連絡する。
「こちら、ユメです。ギフトの取引をしていた逃走者を捕らえました」
『お疲れ様。ティエマン達も終わったらしい。警備隊に引き継いでから帰ってきてくれ』
「分かりました・・・あの二人ですか。少し心配ですね」
問題児二人。ユメの反応はあまり良くない。
『あいつらだって一流の魔導師なんだよ』
「いえ、二人の心配ではなく、逃走者の心配です」
それを聞いたルシーズはしばらく沈黙する。
『・・・じゃあ、後のことはよろしく』
ルシーズは逃げるように通信魔法を切った。
「本当に大丈夫でしょうか?」
ため息を吐く。
適当な座れそうな台に座って警備隊を待つことにした。
・・・
ユメのいる所から、それなりに離れた場所。
ティエマンとセリが担当した区域には濃い瘴気が広がっている。数メートル先も見えないくらいだ。その中で何人もの人が山のように積み上げられていた。気を失っている。
「君達は運が良かった。セリがやってたら死んでたよ」
手を叩きながらティエマンが言う。
「いやいや、私はそんなヘマしないよ」
横にいるセリは肘で小突いた。
「そうかな?まぁ、これで今回のお仕事は終わりだから良かった良かった」
ティエマンは振り返り、それを見上げる。
濃い瘴気で姿は見えないが二つの目のような物が光っている。ティエマンの魔獣だ。
「ウーボ、お疲れ様。休んでいいよ」
ウーボと呼ばれた魔獣はウオォォォォ・・・と低いうなり声を上げて、瘴気の中へ消えていった。
「ねぇねぇ、帰ったらルシーズさんにおねだりしようよ」
「ナイスアイデア。明日のお昼はご馳走かもね」
瘴気が晴れて、星空が見える。小さな事件だったが、問題なく解決した。これから、調査が行われるだろう。
ただ、これは始まりに過ぎない。この事件がさらなる大事件の前触れだとはまだ誰も思っていなかった。




