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第四都市が遥か遠くに見える山。そこにある背が高くて太い木の枝に座っている女性がいた。
鼻歌を歌って、上機嫌な様子だ。
彼女の名前はトア・ザガパトメア。
アウルの南にある国、ザガパトメアの公認魔導師をしている。そして、七つの頭を持つ人形を作った張本人でもある。
人工的に作りだした魔獣が十分な成果を上げたので、嬉しくてたまらないのだ。
そこに一人の女性が現れた。
「やっと見つけた。国中を探し回ったんだぞ」
彼女はネムクス・ザガパトメア。
ザガパトメア家の末裔だ。今も公認魔導師として国を守っている。
「もう見つかっちゃったのね」
トアはクスクス笑う。
「ここまで暴れてれば気付くって・・・このことがバレたら国際問題だったんだよ?」
「その時は戦争ね。それはそれで楽しみ」
そう言いながら、立ち上がる。そして、ネムクスに抱きついた。
「それよりもさ、聞こえる?私の心臓の音。ドキドキしてるの」
「・・・聞こえる」
「あたなにこの気持ちをぶつけたいの」
目の前で見つめ合う。
「・・・いいよ」
ネムクスは静かに答えた。
その答えにニコッと笑うトア。
二人の周囲が歪み、一瞬にして消えてしまった。
・・・・・
訳の分からない魔獣を倒してから三日が経過した。
私達の仕事は終わり、これから第二都市へ戻るところだ。お給料は後日に支払われるらしい。
私達は町からだいぶ離れたバス停でバスを待っていた。町は氷漬けになってしまい、高速バスはここまでしか来ないらしい。
海樹は私にもたれかかりながら眠っていた。
広い広いアウル草原は地平の果てまで続いている。そこからの風が気持ちいい。
私は友達にオススメされた本を読んでいた。最近、アニメ化された小説らしい。区切りのいい所まで読んでから端末で時間を見る。
もう少しでバスが来る時間だ。
「海樹、もう少しでバスが来るよ」
肩を揺すると嫌そうに目を覚ました。
「・・・もう?はやっ」
立ち上がって背伸びをしている。深呼吸をしてから目の前に広がる草原を眺める。
「色々とあったね」
私が話しかけると「嫌な仕事だったよ」と言いながら、また座った。
「おーい」「まだいる?」
双子さんの声だ。空から聞こえた。
屋根の外に出て、空を見上げる。二人はちょうど降りてくるところだった。
「お疲れ様です。どうしたんですか?」
「最後にお別れを」「言いたくてね」
二人は優しく微笑んでいた。
町はあんなことになっていて、双子さんは毎日のように町の復旧をさせられていた。話によれば、アウル中から呪い師が集められるらしい。
この事件が解決するまで、もう少しかかるだろう。
「今回はありがとう」「お陰で何人もの命が救われた」
「いえ、お役に立てたのなら良かったです。正直、どこまで付いていけるか不安でしたから・・・」
「それより、呪い師としての仕事しなくていいの?」
今、それを言わなくていいじゃん。
「抜け出してきた」「たぶん、怒られる」「でも、伝えたかったから」「後悔はない」
「頑張ってください」
「うん」「頑張る」
バスが到着した。
「これでお別れだね」「また会えたら仲良くしてね」
二人は手を振っている。
魔法が支配するの世の中、明日どうなるか分からない。もしかしたら、もう会うことはないかもしれない。
「はい。また会いましょう」
海樹に肘で催促する。
「バイバイ」
恥ずかしそうに手を振っていた。
双子さんと別れてバスに揺られている。
第四都市はもう見えなくなっていた。
これからが大変だろう。呪い師が集まって氷を溶かし、復旧と謎の魔獣の解析がされる。
私達には、いつもの日常が戻ってくるだろう。そうなると願っている。
でも、この時の私達は第二都市で大事件が起こるとは思っていなかった。




