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 メアリーは珍しく朝から起きている。

 アンナさんが今日も来るみたいなので警戒しているらしい。

 昨日の事件があって今日だから仕方ないのかな?

 この時間に起きられるなら、起きた方がいいと思うけど・・・まぁ、いいか。

 一応、同棲を許可してくれたのとかは伝えている。

 昨日、起きてからすごい落ち込んでいたから心配してたけど、今日はいつも通りで安心した。

 私達はお茶をしながらアンナさんを待っている。

 食料品を本みたいな生物、リーラーに持って行かれたので倉庫にあったらしいボトルのお茶だ。

 ちなみに、ラジオもやられたしまっった。お給料が入ったら買うしかない。

 メアリーはずっと本を読んでいる。

 これはいつも通りの光景だ。

 色んな物が無くなって、買い出しに行きたいけど、いつ来るか分からないし待つしかない。


 お昼ちょっと前くらいになって、玄関のベルが鳴った。

「来たわね」

 杖を握って玄関へ近づいていく。

 あれは予備の杖らしい。

 私はメアリーの後ろに続いた。そうしろと言われたから。

 私の後ろが一番安全ってことなのだろう。

「ごめんください」

 それはアンナさんの声ではなかった。

 陽気で明るい女性の声。

「アリッサ?」

 メアリーの口から知らない女性の名前が出てきた。

「そうッス」

 何も警戒せずに扉を開ける。

 扉の向こうには卵色(たまごいろ)の髪で褐色肌の女性がいた。

 丸眼鏡をかけてキャップを逆向きにかぶっている。

「おはようッス」

「おはよう」

 外をキョロキョロ確認する。

「・・・アンナはどこ?」

「まだ来ないッスよ。講義があるんで。早くても夕方ッスよ?」

 息を吐くメアリー。

「そう・・・なら、もう少し寝ようかしら。アリッサがいれば安心だし・・・」

 杖を仕舞う。すごく信頼してるんだな。

 でも、たしかに頼りになるお姉さんって感じがする。

「あなたがシェリーさんですね」

「は、はい。シェリー・ミッチェルです」

 軽く会釈する。

「初めまして。アリッサって言います。昨日は災難でしたね」

 明るい笑顔が可愛らしい。

 ここに来てからいなかった性格の人だ。

「メアリー。ちょっとお願いが・・・」

「ん?何かしら?」

「クレマチス家として二人をどうするのか決まったのでそのお話が・・・後、荷物があるので車を中に入れたいッス」

 敷地の外にトラックが止まっている。

「分かったわ」

 杖を門へ向けて振る。

 すると、レンガが動き出して門が車が通れるくらいに広がる。

 何かファンタジー作品で見たことあるやつだ。

「ちょっと行ってくるッス」

 アリッサさんは敷地にトラックを入れる。

 また、レンガが動き出して元の門に戻った。

「ありがとう。さて、始めるッスよ」

 車をから降りてきたアリッサさんは手を叩く。

 すると、マネキン?のような人形が三体、降りてきた。

 人の動きというよりガチャガチャ動くロボットのような動きをしている。

 それらは積んである荷物を家に運び始めた。

「後は彼らが荷ほどきまでやってくれますよ」

 私が初めて見るそれを目で追っているとアリッサさんがその間に入ってきた。

「どうッスか?すごいでしょう?」

「はい。魔法の人形ですか?」

「正解です。魔法を用いた自動人形です。命令すれば何でもやってくれますよ」

 私の問いかけに優しい笑顔で答えてくれる。

 昨日の問いかけとは大違いだった。杖で押された所はまだ痛い。

「また変わった物を・・・」

 メアリーは少し呆れた感じだった。

「かなり古い子達ッス。でも、しっかり動いてくれますよ。・・・最後にもう少しだけ働きたいらしいッス」

 変な言い方だな。まるで生きているみたいに。

「さてと、お話を始めましょうか。すぐ終わるので」

 食事するテーブルに移動して私とメアリーが並んで、反対側にアリッサさんが座る。

「まずはこれッスね」

 そう言いながら、端末を机に置いた。

「これはシェリーさん用の端末です。これから、連絡や支払い、調べ物はこれで出来るッス」

 え?もらっていいってこと?

「う、受け取れませんよ」

 たしかに怖い目には遭ったけど、そこまでしてくれるのは・・・何か悪い気がする。

「問題ないッスよ。それはクレマチス家からの支給品ですから」

「ちょっと待ってよ」

 メアリーは立ち上がる。

「それってクレマチス家に所属させたってこと?」

 つまり・・・どういうこと?

「たぶん、そうじゃないッスかね。ウチは詳しくないッスけど、もう既にシェリーさんが暮らしていくのに必要な手続きは全て終わってるらしいッスよ。アンナとウチみたいな関係になるみたいッス」

 分かんない。二人の顔を交互に見ているとアリッサさんが気付いてくれた。

「クレマチス家には協力してくれる家や人がたくさんいるんッス。その一員になるってことッスよ」

「・・・まぁ、そんな感じよ」

 そんな感じらしい。

 ・・・よく分からない。

「・・・どうしてシェリーの意見は聞かなかったの?」

「さぁ。ウチには分かりません。どうしても囲っておきたいとかそんな感じじゃないッスかね。まぁ、でも悪い話じゃないッス。クレマチス家で守るってことッスから」

「・・・そうね」

 メアリーは少し浮かない表情だったが、納得したようだ。

「お給料もメアリーではなく、クレマチス家から支給されるッス。ただし、まだ子供なのでお金の管理はメアリーと同じくアンナと私がやるッス。ちゃんと管理はするので安心してください。後は・・・毎月、端末にお小遣いを入金するのでそれでうまくやりくりして欲しいッス。無駄遣いばっかりするとお説教ッスよ」

 と、言ってメアリーを見るアリッサさん。

「・・・何よ」

「いいえ。何でもないッスよ」

 きっと無駄づかいをしているのだろう。

「ここまで早く手続きが進んだのもクレマチス家のお陰です。シェリーさんも困ったことがあったら言って欲しいッス。大抵のことは出来ますから。多少は嫌味を言われると思うッスけど・・・」

「ありがとうございます。何から何まで・・・」

 昨日の今日でここまで決まるのはなんか怖い。

 ・・・メアリーの後ろにはどれだけ大きな組織があるんだろう?

 その時、大きな鐘の音が響いてきた。

 メアリーの目覚ましでもあるお昼の鐘だ。

「お昼ッスね」

 あっ、まだ何もやってない。というか、何もない。

「すみません。お昼・・・メアリー、どうする?」

 メアリーも食料がないことを思い出して難しい顔をする。

「そうね・・・」

 私達が悩んでいるとアリッサさんがあれを出した。

 乾パンだ。

 それも机を埋め尽くすほど、大量に。

「こんなこともあろうかと持ってきておきました」

 あれはアリッサさんの仕業だったのか・・・。

「ウチの家で作っている特性の乾パンッス。栄養満点で三食(さんしょく)食べても飽きない味ッス」

 これが飽きないってマジか・・・。

「アリッサは本当にずっと食べてるわ。ある程度で拒否しないと食べさせ続けられるから」

 と、耳打ちさせた。

「さぁ、色んなフレーバーがあるッスよ。たくさん食べてくださいね」

 温かい笑顔。

 悪気がないのは分かる。

「後、出来るだけ美味しそうに食べて。落ち込んじゃうから」

 はい・・・分かりました・・・。

「すごい美味しそうです」

 演技するのは初めてだったけど、それなりによく出来たと思う。・・・たぶん。


 昼食を終えてから夕方まで家具の配置や荷物整理をしていた。

 メアリーが家具を浮かせて運び、アリッサさんが設定や組み立てが必要な物をやっている。

 私は整理。食器を棚にしまったり、散らばった屑などを片付けていた。

 もちろん、あの人形達も手伝ってくれている。

「そういえば、あの人形達はどうやって動かしているんですか?」

 アリッサさんは少し困った表情をする。

「彼らはちょっと違うんッスよね」

 さっきも言っていた。彼らって言い方が引っかかる。

「生きてるってことですか?」

「・・・うーん。細かい分類は分かりませんが、どちらかと言えば・・・」

「学説によるわ」

 メアリーが遮った。

「見た方が早いッスかね」

 アリッサさんが「こっちおいで」と声をかけると一体がやってくる。

「この魔法人形には妖精さんが憑いてるんッスよ」

 魔法人形はうなずいて、胸の辺りから手のひらサイズのフワフワした丸い生物が出てきた。

「この子が妖精さんです」

 アリッサさんがなでるととても喜んでいた。

「世界の理ではなく、人の理で生み出された存在よ。アリッサみたいに妖精って呼んだり、魔法の獣で魔獣って呼んだりしているわ」

 よく分かんなかったけど、なんか触ってみたい。

「触っていいですか?」

「いいッスよ。とても喜ぶッス」

 妖精さんに触ってみる。予想通り気持ちいい触り心地だった。

 妖精さんも気持ち良さそうな表情をしている。可愛い・・・。

 しかし、そんな癒やし時間を破る人が現れる。

 破ったのは窓なんだけど・・・。

 昨日と同じようにアンナさんが窓ガラスを突き破って入ってきた。

 この人には玄関とかの概念がないのかな?

 もちろん、時間が巻き戻るかのように壊された所は元に戻っていく。

 アンナさんは私を見つけて一直線に向かってくる。

「待ちなさい」

 杖を向けようとするメアリー。それをアリッサさんが止める。

「大丈夫ッス」

「・・・分かった」

 その一言で杖を下ろす。

 たしかにアリッサさんは信頼できる人かもしれないけど、簡単に引き下がってない?

 アンナさんは目の前まで来て、私の両肩を強く握る。

 痛い。力加減が下手なのかな?と思ってしまう。本当に痛い。

「シェリーさん。ついてきて。無限図書館(エレス・リーラ)へ」

 最近、寒いですね。

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