5.チーム結成
突然ノアに告白した異星人どろぼう猫と遭遇し、一晩が明けた。ノアは試験や昨晩の変異獣の事もあり、周辺地域の見回りをしている。
保護したのが異星人だったので、瓦商会やリュウゲンへの情報共有は一旦後回しにして、医務室にいるトウカクにだけ経緯を伝え診て貰う事となった。
彼女の容体はと言うと、命に別状は無いらしい。当初ら身体中に防御創があり、足の皮は剥けていたそうだが、特に手を施す必要がない程治癒能力が高いとのことだ。
ノアは、右腕に装着している腕輪が生命維持装着らしく、大抵の傷なら完治すると言っていた。
そんなに異星人に詳しいなら、お前が残って彼女の相手をしろよと言いたかったが、ノアは先日医務室を汚染しかけた全科があり、立ち入り禁止禁止を言い渡された。
私は、徹夜で外の見回りをしているノアに対して、頭の中でドンマイと励ましながら空いていたベッドで横になっていた。
「ここは……?」
隣のベッドから昨晩聞いたばかりの声が聞こえ、私は駆け寄る。
すると、目を覚ましたばかりの彼女が不思議そうに辺りを見回していた。
「私は……」
変異獣に襲われていたのだから、騒ぎ出すかもしれないと身構えていたが、そう言うことはなさそうだ。無言で状況把握に徹している辺り、パニックと言うよりフリーズに近い。
「待ってな」
私は医師のトウカクを呼ぶと、彼は軽い診察を終えて説明する。
「やっぱり、傷とかが原因じゃなくて疲労で倒れたみたいだね。まぁ、異星人専門医じゃないから断言は出来ないけど」
詳しい説明によると、感染症の兆候も特に無いらしい。それに、異星人は雪による変異が無いため、傷口から雪が侵入しても問題ない。
人間と違って雪で変異しないなんて、なんて贅沢な能力だろう。
彼女は説明を聞き終えるとベッドから降り、身体の具合を探るようにその場で軽く運動を始める。
「もう動けるのか」
トウカクがそう言うと、彼女は深々と頭を下げる。
「はい。治療感謝します」
それだけ伝えると、彼女はベッド脇に置かれている荷物をまとめる。荷物と言っても、遭遇した際に彼女が身に付けていた拳銃型の電気銃や警棒くらいなもので、手提袋やリュックすらない。
私は、ハッとなって彼女を呼び止める。
「あ、ちょっと待て」
「何かご用件が?」
「もしかしたら、お前と知り合いかもしれない奴を呼んだんだ。来るまで待ってな」
「知り合い……ですか。判りました」
彼女は、頷くきながら椅子に腰掛ける。
トウカクは、訳有りの患者の診察もしてくれる。そんな彼だからだろう、何かを察した様に私の耳元で囁く。
「呼んだのって誰?」
「ダレダオメーみたいな名前の奴」
名前がパッと出てこなかったがトウカクは理解したのだろう。目を細め、何処と無くゲンナリしている。
「……それがもしアルジャロメのことならトラブルは起こさないでよ」
アルジャロメは、異星人と出会った事があると言っていた。スーツを着ていない人間と同じ見た目の異星人ともなれば、候補は少ない。その相手が、目の前にいる彼女の可能性は十分にある。
それに、アルジャロメは色んな意味で有名な奴だ。面識が無くても知っているというケースもあり得る。
そう思い彼女を呼んだのだが、トウカクは彼女が苦手らしい。それもそうだ、アルジャロメの扱いが上手い人なんて、この世に存在する筈がない。
「失礼するよ」
いつものようなキザな口調が響き渡り、勢い良くドアを開け放つ。
「全く。私をご指名とは……」
ドアに背中を持たれ掛けようとした彼女だったが、医務室の中を見た途端目を丸くして背筋を伸ばして改まる。その視線の先にいるのは、件の異星人だ。
「……どの様なご用事ですか?」
いつもの彼女らしくない、妙に汐らしい態度に私とトウカクは互いに見交わす。
そんな私達を他所に、異星人は驚いて立ち上がる。
「もしかして……アル様ですか?」
「お久しぶりです」
やはりおかしい。普段のキザで王子様系っぽい雰囲気は何処へやら、今では少女のような有り様だ。
そんな彼女の態度に、私は困惑してトウカクの手を指でつつく。
「何か、様子が変じゃないか?」
「いや、まさかそんな……」
トウカクの顔を見ると、昔ネットで見た宇宙を背景に驚愕した猫の画像みたいに顔が固まっていた。
私は、もう一度アルジャロメを見る。
アルジャロメは身体を左右に揺らしたり、視線を下ろしている。それに良く見ると、妙に頬が赤みを帯びている。
そこまで確認し、私も猫の様に驚く。
「そういう事か!?」
アルジャロメは、この異星人が好きなのだ。
考えてみれば、アルジャロメは異星人であるフィオルトの容姿が気になると言っていた。私はてっきり、冗談だとかノリでそんな話をしていたのだと思っていたが、異星人の中に好意を寄せている人がいれば、なら別の異星人はどうなんだと気になるだろう。
がしかし、気になる所もある。異星人の話をしている時、アルジャロメは異星人のお姫様の話はしっかりしたものの、その護衛である騎士の話はしなかった。お姫様の方は既に結婚しているとのことで、この異星人に夫を気にしている様子が無く、自衛の装備を身に付けている辺り、彼女は騎士の方だ。なのに、アルジャロメは彼女の話をしなかった。
そんな疑問が浮かぶと同時に、消える。好意を寄せていたからこそ接触出来なかった。あるいは、同担拒否の様に自分の好きな人を好きになって欲しくなかったので、情報を与えなかった。それならば、彼女の話をしなかった事も頷ける。
私の頭の中で疑問が生まれ、シャボン玉の様に割れていく。
アルジャロメは、あたふたしながら一度外の様子を確認する。
「とりあえず、ここはいつ人が来るか判らないので、私の部屋に来ませんか?」
実際、その提案は正しいように思えた。医務室には患者や医療品の運搬のために人が出入りする。異星人の彼女が話題になる様な事態は避けたい。
彼女は、フィオルトやウォーマーと違い装備が申し訳程度しかない。異星人だとバレた際、何をされるか判ったものではない。
「判りました」
異星人が承諾すると、アルジャロメは笑顔で私の方を向く。
「ヴィヴィさんも来ますよね?」
来ますかではなく来ますよねと言う辺り、逃がす気は無いのだろう。立ち去るつもりは無かったのだが、アルジャロメの発する威圧感が私を離さない。
私は萎縮し、半ばアルジャロメに連行される形で彼女の部屋に向かった。
・・・
アルジャロメの部屋は、想像より整理整頓された部屋だった。と言うか、ミニマリストの様に最低限の家具しかなかった。
普段、色んな所をほっつき歩いているから必要ないと言うことなのだろう。
「ここが私の部屋です。どうぞおくつろぎ下さい。後、知り合いを呼びますけど、いいですか?」
「お構い無く」
「良いぞ」
アルジャロメの問いに私達が頷くと、彼女はそそくさと携帯端末を操作して通話を始める。
「もしもしミロクさん、アルジャロメです。アナタ、確か異星人に詳しかったですよね?え、アルジャロメですよ?いえいえ、人違いではありません……」
何やらあらぬ疑いが掛けられているであろう通話を放置し、私は異星人に話を振る。
「私はヴィヴィ。お前は?」
「あぁ、自己紹介が確かにまだでしたね。私はフィルネリアと言います」
異星人――フィルネリアが深々と頭を下げたので、私も反射的に頭を下げる。
「それで、アルジャロメとどんな関係?」
「昔、護衛をして貰いました」
「なるほど」
アルジャロメは、普段の言動や噂で麻痺しがちだが、瓦商会に試験官役を任命される程度には信頼されている。護衛としては確かに適任だ。
「実力は確かに有るんですが、自信があまり無い様に見えたので、威風堂々とした方が良いですよとアドバイスを」
その言葉に、雷に撃たれる様な衝撃が全身を駆け巡った。
あの良く判らんノリのキャラは、フィルネリアのアドバイスを聞き生まれたのだ。いや、もしかしたら元々キザな性格だったが、普段は内々に秘めており、彼女のアドバイスを聞いてそれをさらけ出したのかもしれない。
「なるほど?!あいや、そんなに自信が無い様に見えるのか?」
「それはまぁ、人と目を合わせるのが苦手そうなので」
「た、確かに……」
アルジャロメはフィルネリアと話す際、視線を反らして会話していた。その姿を見て消極的だと判断し、アドバイスを伝えたのだ。
アルジャロメが妙にフィオルトに固執していた理由にもなるし、ちょっとした話のネタにもなる。
「後でノアにでも話すか」
私がそう言うと、フィルネリアは身を乗り出す。
「そのノアとは、昨晩の方のお名前ですか?」
声を荒げている訳ではないが、彼女が興奮しているのが見てとれた。
不味いか、私がそう思いながらアルジャロメの方を見た瞬間、彼女は笑顔で私の隣に座っていた。
「失礼します。何の話ですか?」
「昨晩、私を助けてくれた方が居たんです。一目惚れしました」
「はい?」
フィルネリアの言葉に、アルジャロメはひきつった笑みを浮かべる。
ノア、お前とことんこの女と相性が悪いんだな。と私は人知れず黙祷する。
「なので、今何をしているのか気になって」
「全くです。その人は何をしているんですかね?」
二人の顔が同時にこちらを向く。まるで銃でも突き付けられるかの様な威圧感に、私は全身の毛を逆立てた後に答える。
「の、ノアなら試験前なので外せないって」
ノア、すまん。私のための生け贄になってくれ。
私がノアの名前を出すと、フィルネリアは頷く。
「ノア様ですか。確か、旧約聖書の登場人物でしたが……名前はそこから?」
「はい」
ちなみに私は、旧約聖書や新約聖書、福音書の違いが判っていない。だが、フィルネリアが旧約聖書だと言うのだから、ノアの方舟は旧約聖書なのだろう。
「ノア様とどのようなご関係で?」
「夫婦です」
まるで尋問だ。
彼女まで敵に回ってしまうと、二対一になってしまう。不味いかもしれん。そう思っていたが、フィルネリアは私に笑みを返す。
「では、ヴィヴィ様とお呼びしますね」
「は?」
言葉を発したのは、私の傍らにいたアルジャロメだった。彼女の照準が私を狙い定めるのが判る。
基準が王族のフィルネリアからすれば、第二婦人や側室、愛人は許容範囲なのか。
「ちょっと困るかもぉ……」
私は視線を反らす。
丁度その時だった。ドアが勢いよく開き、ミロクが顔を覗かせる。
彼女の見た目はSFのスーツを着たような姿だ。骨格は人間の頃そのまま、身体の要所要所には鱗や甲殻が、腰と掌底と手首の中間辺りからは格納式の蠍の針のような器官が生えている。爬虫類と虫の混合と言った具合だ。
「お邪魔しまぁー……」
彼女は顔だけを突き出したまま状況を確認し、そっとその顔を引っ込めてドアを閉める。
「した」
判るぞミロク。私が同じ立場なら、同じ行動を取る。だが、アルジャロメはこの状況で誰かを逃がすような女ではない。
アルジャロメは、部屋の外に駆け出すと程無くミロクを連行してくる。どうやら、犠牲者が一人増えた様だ。
「ちょっとミロクさん。失礼ですよ」
「流石にこの中に入るのは危険では?」
ミロクはゲンナリしている。
ここに来た時点で退路なんて無いのだ。いや、電話を掛けられた時点で詰んでいたんだ。アルジャロメに狙われた事を呪うがいい。
「入ってください」
渋々ミロクは席に着く。
「アナタは?」
フィルネリアが訊ねると、ミロクは頭を抑えながら応える。
「はぁ~~……。私はミロク。見るに異星人さんかな?」
「見るにって……一目で判るのか?」
「まぁ判るよ。ちょっと待って」
ミロクかそそくさと荷物を漁り、あるものを取り出す。
「ゴーグル?」
それは、赤いレンズをしたタクティカルゴーグルだった。確か、変異の影響で目元を隠したい人様に作られた代物だ。レンズが赤いと言っても、ミラーレンズの派生の様なものであり、視界が真っ赤になると言うわけではない。
「異星人の特徴は透明感の有る白い肌、誰が見ても美男美女と断言できる整った顔立ち、雪原の様に煌めく銀髪。そして、瞳の色が虹色の場合は貴族や王族、金色の場合はその騎士」
正確な情報に、私は思わず脱帽する。なんなら、異星人と共に行動していたノアよりも詳しいまである。
「何でそんなに詳しいんだ?」
「異星人狩りを相手にしてる時に聞いたんだ。一つの特徴被りはまだしも、二つ以上被ると流石に不味い。隠せるものは隠そう。瞳は特に人と話す時に見る部分だし」
二つ以上被ると不味いというのは、異星人狩りが相手を異星人だと判断する基準が二つなのだろう。異星人が日焼けするのか判らないが、顔立ちに関しては整形すれば良いし、髪だって染めれば良い。となると、確かに弄れない目を眼鏡やゴーグルで隠すのは合理的だ。
私は、ミロクの口にした特徴を聞き、ハスキの事を思い出した。彼女は異星人の貴族、王族の特徴に合致している。ミロクからすれば一目瞭然だ。
「お前、そう言えば試験官で最初に脱落したが……」
「まぁ関わりたくないからね。悪く思わないでよ、こっちもリスク管理は大変なんだ」
まぁ、護衛部隊に異星人の王族が紛れ込もうとしている場面に遭遇したら、軽快もする。私はノアからハスキの事を聞いているが、彼女の事を知らなければ疑心暗鬼にもなるだろう。早期に脱落を選んだのは当然と言える。
「ならさ、アイツって大丈夫なのか?」
私は、何となく名前を伏せる。名前を出して通じるかはさておき、フィルネリアが居る前で他の異星人の名前を出す気には成れなかった。
「重装騎士が居るんだ、下手に手出しはされないよ。騎士が居ない状況だとどうなるかしらないけどさ」
「なら問題ないか」
フィオルトは、一目見て強いと判るゲームの中ボスの様な見た目。装備もその辺のチンピラとは比較に成らないし、挑むなんて自殺行為だ。
ミロクは話を切り上げるとフィルネリアの方を向いた。
「さて、髪くらいなら染めて上げるよ。何色が良い?」
「選べるんですか?」
「イカ墨みたいなもんだよ。私はね、色、臭い、粘度を調整した墨が出せるんだ。ペンのインクから刺青、ヘアスプレーに糊、煙幕や蜘蛛の糸といった具合で色々とね。で、色は?」
ミロクの能力の万能さは有名だ。墨が接着剤として活用出来るから、全身に纏って地面を転がるだけでもお手軽迷彩となるし、剣の柄に素材をくっ付けて槍にする等の武器の切り替え、相手の設置した罠を固定して機能不全にしたりと活躍の幅が広い。
フィルネリアは悩む様子もなく言う。
「なら……黒で」
「はい?」
私は思わず声を上げると、ミロクは首を傾げる。
「何?ヴィヴィ、どうかしたの?」
「名探偵ヴィヴィの推理を発表します!この卑しい女、絶対今ノアとお揃いにしようとしました!」
直近で彼女が目にした黒いものと言えば、ノアしか居ない。彼女はノアに告白していたので間違いない。私を差し置いてお揃いとは、流石に意義ありだ。
「ヴィヴィ、こういう時だけ頭の回転早いの何で?」
「そもそも、黒なんて雪原で目立つじゃんか」
私がそう言い捨てると、ミロクは苦笑いを浮かべつつも同意する。
「まぁ、好きな色をとは言ったけど、私もヴィヴィの主張は正しいと思う。ほら、黒髪にすると色白なのが目立つから、ライトブラウンとかグレーが無難かな」
言われてみれば確かにそうだ。黒髪で肌が白いとなると、ホラー作品の幽霊と全く同じ。注目されやすい要素は極力除外したい。
フィルネリアは感心しながら小さく頷く。
「なるほど、参考になります。もしかして、ヴィヴィ様もそれに気がついていたんですか?」
「勿論よ!」
私は胸を張る。ノアとお揃いが嫌だとしか考えてなかったが、何か良く判らない内に正当化出来てウハウハだ。
私が意図していないと理解しているからだろうか。アルジャロメは溜め息を吐いた後に言う。
「なら、ライトブラウンにしませんか?色白な肌で髪が灰色だと、彩りが皆無で無機質な印象を受けるので、雪原だと目立ちませんが人と接触するときに不利というか、信用されにくそうです」
「確かに、SFのクローンとかアンドロイドっぽいか」
実際のクローンは無機質な見た目をして居ないが、クローンを見たことがないのであれば勘違いする事も有るだろう。印象は大事だ。
「それでお願いします」
フィルネリアが同意すると作業が開始された。
ミロクは針から墨を出すと自身の手に塗り、手櫛の要領でフィルネリアの髪を梳かす。銀髪が茶色に染まっていくのを眺めながら、私は話を振る。
「あ、そうそう。フィルネリアってさ、何に襲われたの?」
「それが、住んでいたコロニーを変異獣の群れに襲われて」
通常、変異獣の群れは多くても十数。コロニーを攻め落とすのなら、最低でも五倍近く必要な筈だ。だが、そんな大所帯を統率出来るような変異獣が居るだろうか。
そう思った瞬間、ある可能性が脳裏を過った。ノアがずっと軽快している変異獣に関してだ。ノアの情報通りならば、変異獣には仲間同士を示すための印がある。
「……その変異獣、変な刺青とか無かったか?」
「雪の結晶の様なものが」
「へぇ」
情報と一致している。となると、ノアが言っていた人間と同等の知能を持つ変異獣で間違いない。
完全に変異する前とはいえ、ノアをボコボコにする化物だ。無関心ではいられない。
「知っているのですか?」
アルジャロメの問いに私は頷く。
「ノアが言ってたんだ。知能のある変異獣には、アスタリスク見たいな模様の刺青とか傷跡があるって」
「そう言えば、リュウゲンも言っていたな」
ミロクは作業を続けながら口を挟ん出来た。
リュウゲンはノアから情報を聞いた後、彼なりに探りをいれていたのだろう。今のところ、フィルネリアを除いた他の人物から印持ち変異獣の情報はない。
「じゃあ、フィルネリアさんを襲った変異獣を調べれば何か判るのでは?」
アルジャロメの言葉に対し、私は首を横に振る。
「追ってきてた奴ら、ノアの矢で挽き肉になったんだ」
「「あ~……」」
アルジャロメもミロクも、仮試験時にノアの制圧力を目の当たりにしている。あの時は威嚇射撃だったが、変異獣目掛けて放ったのは本気の一撃。それを受けてどうなるのか、二人とも理解したのだろう。
取り敢えず二人を放置し、私は話を続ける。
「でさ、その変異獣ってテレパシー使ったりしてたか?」
「テレパシー……。そう言えば、何人か頭痛を訴えていましたね。見張りの方がそれで機能しなかったので、奇襲を許す形に」
フィルネリアの説明に違和感を覚える。
見張りが頭痛を引き起こし、奇襲を許す。そんな偶然がありえるとは思わない。狙われたと考えるのが自然だ。
「それって、狙った相手に出せるってことなのか?」
ピンポイントで狙った相手に頭痛を誘発させる事が出来れば、奇襲成功の理由も判る。
しかし、ミロクがその考えを否定する。
「いや、なら逃げてる相手に頭痛を誘発させればいい。この異星人さんが逃げれたのは不自然だ。となると、候補はもう一つ」
「何だよ、候補って」
ミロクは作業を終え、手をハンカチで拭いながら思案する。
「頭痛を訴えた人、索敵能力は?」
「そこまでは記憶にありません。ただ、適材適所と言えば良いんですかね……能力重視で人員を配備してたので、可能性はあります」
索敵能力持ちが見張りを勤めるのは当然だ。何故なら、索敵能力持ちはその場にいるだけで生き物の位置を把握できる。つまり、巡回する必要がないからだ。
移動する必要がないのであれば、極論自室で本でも読みながら見張りが出来る。そんな人材がいて、わざわざ足で巡回する人を雇う筈がない。
「ヴィヴィ、アナタの話がノアから聞いたならさ、頭痛は訴えてた?」
私はノアの話を思い出す。
「頭が痛くて戦闘どころじゃなかったって言ってたな」
ミロクは指を鳴らす。
「あれだ。生体反応を検知出来る能力持ちが受信してる。性能が高いアンテナが裏目に出てる」
「あ……」
頭痛を引き起こしたノアは索敵能力持ちの代表格。変異段階がレベルⅡやレベルⅢだったとしても、その片鱗くらいはあっただろう。
それに、ノアの索敵能力はハッキリ言って異常な程高性能だ。索敵能力が芽生える段階でテレパシーにより索敵能力が影響を受け、その状態で変異した結果、索敵能力が異常発達したと考えると納得できる。
「それでさ、もしかしたらテレパシーが傍受されてるか判るんじゃない?ほら、通信機でも傍受されてるとノイズが走るっていうし、似た感じで」
それに関しては、やや飛躍した話だと思った。
確かにテレパシーと索敵が干渉し合うのであれば、ミロクの言ったテレパシーが傍受されているか判ると言うのも変な話ではない。
私が口を挟む前にアルジャロメが訊く。
「何でそう思うんですか?」
「それだと色々と辻褄が合うんだ。このコロニーで被害が出てないのは、リュウゲンの索敵範囲がバレてるから。みたいな感じで」
強いヤツの縄張りには入らない。野生動物としては当然の習性だ。しかし、今回フィルネリアが襲われたのはコロニーの周辺地域。リュウゲンの縄張りに踏み込んでいるので、当てはまりそうもない。
「じゃあ、何で今回は来たんだよ。リュウゲンの巡回範囲内だろ?」
リュウゲンはよくコロニー周辺の空域を巡回している。索敵能力を持っているため、本当ならコロニーに居座っても良いのだが、体温が高過ぎるためコロニーの住民に迷惑を掛けないように出歩いているのだ。
私が考えを口にすると、ミロクは首を横に振る。
「いや、ノアと戦って身体を休めてたから、巡回はしていないよ。別の人がしている筈だ。それに、試験区域にいる変異獣の数を把握する為に活動してて、外には目を向けてない」
試験があるから普段している巡回をしていないと言うのは、確かに盲点だった。
瓦商会はコロニーの生命線であり、数少ない外部との連絡手段。その瓦商会に万が一の事があったら、今後このコロニーは支援を受けれない可能性だってある。だから、一番腕のたつリュウゲンが試験に関わるのは当然だ。
偶然の可能性は確かにある。しかし、これが偶然ではないのなら、リュウゲンが見回りをしている僅か外側で変異獣が群れを成していてもおかしくない。
「あの、ここに居る四人でチーム組みませんか?」
アルジャロメだ。彼女は意を決した表情で、全員の顔を見回していた。
「もし、ミロクさんの考えが正しいとするなら、索敵能力持ちが居ると変異獣が尻尾を出さないんですよね?なら、リュウゲンさんやノアさんと共に行動しない方が調査しやすいのでは?」
変異獣の調査では、奇襲対策として索敵能力持ちが同行するのは暗黙の了解だ。だが、その条件では印持ち変異獣には出会えないかもしれない。まるでゲームの隠しイベントだ。
「確かに、リュウゲン無しでの調査はまだだね」
ミロクはそう言いながら、全員の顔を見る。
フィルネリアも私と同じ意見なのだろう。私と同時に頷いた。全員の意思を確認し、アルジャロメは言う。
「やりましょう。皆で変異獣探し」




